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2014/08/05

“学園物語”シリーズ 高等部二年、一学期末

ご訪問ありがとうございます。
拍手・ランキングへのクリックも嬉しいです。

お天気が心配ですね。。
皆様のお住まいは大丈夫でしょうか?

 

さて、本日アップは“中等部二年、二学期始め”“高等部一年、二学期半ば”の続編です。
カテゴリーを「学園物語」とシリーズにしてまとめてみました。

昨年アップした「あの夏の日」に似ていますが・・・
よろしかったらお立ち寄り下さい。

“三四郎”風~♪









一学期最後の生徒会役員会議も終わり、僕達六人は帰途に着いた。
明日は終業式のみと言うこともあり、生徒会室に鞄を置いたままだ。
皆それぞれに予定はなく、迎えもなく、揃って歩くのは久しぶりだったかも知れない。
何となく前列は女性陣三人で、その後ろを僕達男性陣が漫ろ歩く。
右から、髪を腰まで伸ばしてウェイヴを作っている可憐。
真中はおかっぱ頭の小さな野梨子。
左端の道路側を背の高い悠理。あちらこちらに短めの、でも柔らかな髪が跳ね上がっている。
何の話をしているのか、時々視線を向けるけれども分からない。
珍しく、話の中心が野梨子になっているよう。
僕は魅録に話しかけられた事によって、そちらに視線を動かす。


「え?」
「だから、これからどっかに行く?飯食うとか、着替えて遊びに行くとか」
「ああ、どうしようか。美童は約束はないの?」
「うん」
「珍しいですね」
「コイツ失恋したばっかだから」


魅録の言葉に美童は反論したが、落ち込みの方が勝っているよう。


「このまま何処かに食事に行きますか?みんなと一緒なら、美童も気が紛れるでしょう」


僕がそう美童に向かって言った為、僕の前を歩く悠理が立ち止まった事に気付かなかった。


「あたっ!」
「悪い」


僕は悠理の細い背中に思い切りぶつかる。
けれど彼女が転ばないように、すぐにその両肩を手で押さえた。


「清四郎、ちゃんと前見て歩けよ」
「すまない。けど悠理だって急に止まるから」


近くにある小さな顔を覗き込む。存外怒っていないよう。
そして視線は、ずっと遠くにある。


「何見てるの?」
「宵宮・・・」
「うん?」


商店街の通りの向こうの坂の上にある神社で宵宮をやっている。
まだ明るい空の下で不釣り合いな照明が煌々としている。
既に多くの客が足を運んでいる。


「行ってみたい?」


僕は訊ねる。


「うん」


悠理が答える。
すぐに近くの魅録が察してメンバーに呼びかけた。
誰も反対する者なんていない。だから僕達は宵宮へと向かった。
人が込み合うからこそ楽しい宵宮では、屋台に列を成していた。
食欲をそそる香ばしい匂いが立ち込め、悠理はすぐさまに物色を始める。
野梨子と可憐はトンボ玉を売る店で商品を手に取り、美童は途中で出会った女友達と立ち話をしている。
魅録はと見ると、金魚すくいをする子供達の後ろにしゃがみこんでアドヴァイスをしている。
僕は各々に行動するメンバーの誰に付こうかと一瞬迷っていると、悠理がアメリカンドッグを手にして嬉しそうに近寄って来た。


「おや。懐かしい食べ物」
「へっへー。おいしそうだろ」


そう言うや否や、あっと言う間に食べ終え、口の周りに着いたケチャップやマスタードを舌で舐めた。


「魅録は?」
「あっち。ほら、あそこで子供相手に金魚すくいの講習会」


彼女の視線はすぐさま魅録へと向かう。
嬉しそうに微笑むとその足は彼へ進もうと数歩行くが、程なく立ち止まった。


「どうしました?」


後ろを歩く僕はまた彼女の背中にぶつかりそうになったが、今度は上手く立ち止まった。

「ううん。行ってみよう。あたしもやりたい!」
「じゃあ、行ってみよう」


僕達は金魚すくいの屋台に向かう。
けれどそれは子供達に大人気で、魅録の近くに行くには難しかった。
その時、人込みを上手くすり抜け、彼の元へと近付く野梨子の姿が窺えた。
彼女は魅録の肩に触れて頷くと、その横へしゃがみこんだ。
僕と悠理はゆっくりその屋台に近付き、子供達の間から様子を見る。


「野梨子も魅録に教わってる。順番っこ抜かしはいけないよ」
「あはは。野梨子も悠理に注意を受けるようになりましたか。
ほら、でも終わって立ち上がりましたよ」


そう、二人は金魚すくいを終えて横に抜ける。
小さな野梨子は子供達に押されるようにして魅録を必死に追っている。
もちろん彼は振り向くと、彼女を気遣うようにして腕を伸ばした。
魅録なら大丈夫、と僕は思う。
彼なら、僕以上に野梨子を気遣えるだろう。
だから安心して悠理を振り返る。
彼女こそ順番を守らないで金魚すくいをしているのではと思ったからだ。
けれど彼女は屋台にはいなかった。
女の子としては背が高いし、子供達で込み合っているとは言え目立つはず。
僕は辺りを見回し悠理を探す。
彼女は前方を歩く魅録と野梨子の後を追うように歩いていた。
金魚すくいを諦めたのだろうか?
それとも僕を見失い、彼等と行動を共にしようとしているのだろうか?
僕は悠理の後を追う。彼女は人込みに紛れながら右に左にと歩いている。
途中美童と可憐を見つけたが、話しかける事はできなかった。
僕は先を歩く魅録達を失い、悠理をも見失いそうになる。
人は更に溢れ、暑さと息苦しさが一層深まる。
屋台の照明が眩しいと感じると同時に、夕方の気配が強まった。
その時、悠理がこちらを振り向いたように思えた。一瞬だ。
僕は口の中でその名前を呼び、次に右手を挙げた。
けれど僕に気付かず、後方をはっきりと振り返った。

刹那、僕の周りの音が消えた。人込みの流れが止まった。

不思議に思い、またこの状況を悠理と分かち合おうと視線を向ける。
彼女は後方のずっと遠く、沈みそうな夕陽を見ている。
いや、違う。悠理は、夕陽の少し上の方を見つめている・・・
その時、様子がおかしいと感じた。
彼女の両の目は焦点が合っていない。瞼に、筋肉の緩みが見られる。
ほっそりとした頬には張りがなく、唇が歪んでいた。
咄嗟に僕は人込みを掻き分けて彼女に走り寄った。
肩に腕を回すと、全身を預けるように腕の中へ倒れ込んだ。
僕は彼女を抱き抱えて道端に逸れ、神社の木のフェンスに凭れた。
悠理は完全に僕に身を任せるようにして目を閉じている。
脂汗を滲ませる額をハンカチで拭い、僕は彼女の耳に唇を寄せる。


「大丈夫か?」


彼女はゆっくり首を縦に振った。意識はあるのだ。


「歩ける?」


僕の胸に頬を寄せ、片手をそっと添える。
だから僕は彼女の背中に両腕を回してぎゅっと抱き締めた。
こんなに・・・力ない悠理を見るのは初めてだった。
暫くそうして抱き締め、それからゆっくり彼女は僕から体を離したが、腕はまだ彼女を抱いていた。


「もう、大丈夫。ごめん。珍しく人に酔った」


彼女の顔を覗き見ると、彼女は焦点を合わせて僕を見ている。
瞼はくっきりとした二重を描き、頬には普段の艶がある。
唇には笑みが零れていた。
戻った、と僕は確信した。


「魅録達の所まで歩ける?」


けれど彼女は左右に首を振り、唇を尖らせた。


「探すのはまだムリ。ちょっと人込みを避けて休みたい」
「分かった。少し歩けるね?」
「それは大丈夫」


僕は彼女の肩に腕を回し支えるようにして歩き始める。
普段の彼女なら、こうして自由を奪われるのは嫌がるはずだが、今は全く以て僕に体を預けている。
細いながらもその体は柔らかく、優しい温もりがある。女の匂いも感じる。

彼女は今・・・僕だけのものだと強く思える。

あっという間に日が暮れて、辺りに夜の気配が訪れる。
宵宮の煌々とした照明は次第に遠ざかり、暗闇が迫ってくる。
やがてほんのりとした外灯が灯る公園に着いた。


「ここで良いです?ベンチ位しかないけど」
「うん。ありがと。ここでいい」


僕達は入り口近くのベンチに腰をかける。
目の前にある噴水は水を吹くのを止めていた。
隣に座る悠理が乾いたような咳をし、喉を擦った。
僕は通りの向こうにあった自動販売機を思い出し、スポーツドリンクを買って彼女に渡した。


「ありがと、清四郎。ほんとに、どもね」
「疲れてるの?」
「ん、いや。ただ人に酔っただけだと思う」
「落ち着いたら戻れる?それともこのまま帰る?」


僕はポケットの携帯電話を手にする。
まだ誰からもメールは入っていない。そのまま、またポケットに閉まった。
悠理は携帯電話を気にしていないようだ。


「魅録達、心配してるかな?」


僕は口を閉ざす。


「心配なんかしてないよね。だって、おっきな迷子だもん」
「まだ、みんな楽しんでるでしょ」
「もう少ししたら、戻る。」


彼女はそう言うと、スポーツドリンクを二口飲んで深く長い息を吐き出した。
夜の公園は昼間のそれとは違って、全く子供を寄せ付けない雰囲気がある。
滑り台もブランコも、ただの鉛の塊のように愛想なく存在している。


「夜の公園って、淋しいね」
「ええ。僕もそう感じていました」
「何だか、突き放された感じがする。ここに来ちゃいけないって」
「人を寄せ付けない雰囲気」
「うん、そう。そんな感じ」


ふうっと風が吹き抜ける。
公園の草木が揺れ動き、冷たい空気が流れ込んだ。


「涼しくて、気持ちがいい」
「ええ」


僕達は暫くの間、そうして涼んでいた。
悠理の携帯電話の着信音が静けさの中で響き渡る。


「魅録・・・もしもし」


相手は魅録で、僕達の行方を訊いているよう。


「ごめん、ごめん。清四郎と迷子になっちゃって。
今近くの公園にやっとたどり着いたとこ。
うん。うん。分かった。すぐに向かうから、神社の入り口辺りで待っててよ」


静かに携帯電話を切ると、彼女は愛しそうにそれを見ていた。
けれど諦めたように制服のスカートのポケットにしまい、顔を背けるようにしてスポーツドリンクを半分まで飲み、僕にペットボトルを手渡した。
僕は、一気に飲み干した。


「戻ろうか?」


僕が訊くと彼女は軽く頷いて立ち上がる。
歩き出そうとする僕の腕を悠理は軽く掴んだ。
僕が振り返ると、彼女は澄んだ大きな瞳で僕を見つめていた。


「あたし、魅録の負担になっていると思う?」
「どうしてそう思うの?」


ううんと顔を左右に振ると、彼女は僕の前を歩き出した。
自動販売機横のゴミ箱にペットボトルを投げ捨て、僕はため息を吐く。
中等部二年のあの日以来、ただ近付くだけの彼女だと思っていた。
互いの想いも・・・少しずつではあるが、確実に意識していたはず。
けれどもそう信じていたのは、自分だけだったのかも知れない。


「この水路を飛び越えたら、すぐそこに神社があるよ」


彼女は普段の笑顔で振り返った。
道路の横の幅一メートルばかりの水路を飛び越えて、神社へ近道しようと言う。
いいよ、と僕は飛び越えた。


「なんだよ、先行くなんてずるい!」


彼女の顔色は外灯に照らされているからなのか、それとも体調を崩したからなのか、蒼白く見える。
僕は先にこちら側へ飛び越えたのを後悔して彼女へと腕を伸ばす。


「掴まって」
「これくらい、大丈夫」


彼女はそう言って僕の横へと身軽に水路を飛び越えた。
けれど雑草が生い茂っていた所為で足を滑らせた。


「わぁっ!!」


僕は思わず両手を伸ばして彼女を抱き寄せる。
一瞬、彼女の頬に唇が触れた。


「外しちゃった」


彼女が呟く。
僕は柔らかな頬に唇を滑らせ彼女のそれに触れた。

僕達は意識的に、目の前にある進むべき道から逸れているのかも知れない。

 

 

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