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charm anthology

こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。

2014/06/28

ボツネタ 11

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さて、本日はボツネタアップです。
誤字脱字等あるかと思いますが、お許し下さい。。











三度目のため息を吐かれた時、清四郎は急ブレーキを踏んで車を停めた。
悠理はわぁっと声を出して後部座席から運転席の彼の椅子に思い切りぶつかった。


「あっぶねーだろっ!ちゃんと前見て運転しろよ」
「ちゃんと前見て運転してますよ。悠理こそ、高速じゃなくてもシートベルトして下さい」
「ああ~っ!もうぉ!まだ着かないの?なんか見えないの?」
「見えませんね。この土砂降りでは」
「はあああっ、腹減った。帰りたいー!」


魅録のバイク仲間から車を二台借りてスカイライン上級ドライヴコースを楽しんでいた。
魅録が運転する車には野梨子と可憐そして美童が乗り、ほぼ初心者マークの清四郎の運転する車には悠理が面白がって乗り込んだ。
カーナヴィが付いていない車だったけれど、魅録が一緒だから大丈夫だと・・・
突然の天候不良の土砂降りで、前を走っていた魅録の車を見失ってしまった。
しかも山岳地帯、まさかの携帯圏外・・・あり得ない状況に二人は陥った。


「悠理、携帯は?」
「はん。まだ圏外だよ」
「ふ~ん。もう夕方ですね。困ったな」
「夕方って、夜みたいに真っ暗じゃん」
「この雨ですから。ま、道があるから前に進みますか。どうせ一本道だし、迷いようがないでしょう」
「えー。引き返した方が安全じゃない?どんどん山ん中に入ってく感じ」


う~ん、と清四郎。
さすがの彼も、魅録のような上級ドライヴァとは言えない。


「どこかで間違った?」


と小さい声で呟いた。


「えぇぇぇっ!もぉぉぉっ!やだぁぁぁっ!」
「るせ~!黙って座ってろ!」


二人はこんな感じで更なる奥へと進んで行く。


そうして数時間。
雨は小降りになり、山岳地帯は次第に開け、目の前には怪しい光を醸し出す建物が見えて来た。


「清四郎、何、あれ?」
「あれは・・・ホテルですね」
「ホテル?こんな所に?」
「こんな所だからある、ホテルのようですよ」
「・・・・・」
「ラブホ」
「わーってる!」


清四郎はゆっくり建物の近くに車を停めた。


「悠理」
「な、なに?」
「何怯えてんですか。携帯は?」
「あ、ああ。あれ、まだ圏外だ」
「都合の良いホテル、なんでしょうね。圏外だから連絡も取れないし。
カップルには絶好の場所。邪魔されない!」
「意気込んで語るコトかよ」
「ははは。さて、と」


彼は振り向き悠理をじっと見る。


「な、に?」
「ホテルに入って電話を借りて、魅録に連絡をして来て」
「ええ~。やだぁ。恥ずかしい。清四郎が行ってよ」
「僕だって、やだもん」
「だってさー。フロントってどこか分かんない」


清四郎は深いため息を吐いてから、車外に出る。
雨はまだ小降りで、むあっとした日中の暑さは全くなかった。
キラキラしたライトが光るホテルの門に頭だけ入れて中の様子を見る。
それぞれの部屋へのドアの前に駐車場があり、車は数台停まっている。
この場所からはフロントは分からないようである。
彼はまたため息を吐き、車内に戻った。


「分かりませんね、フロント」
「そう・・・じゃあ、どうする?前に進むか、引き返すか」
「だってもう夜だし、お腹空いたし」
「うん」
「このホテルに泊まろうと思います」
「うん・・・え?ええっ!!」


喚く悠理を無視し、清四郎は徐行しながら空いている駐車スペースに入った。
素早く降りて車のトランクを開け、二人分の荷物を取り出してホテルのドアを開けた・・・が。
悠理は困ったように、まだ後部座席に座ってオロオロしている。
彼は荷物を持ったままドア越しに仁王立ちして彼女を睨み続けていると、仕方なさそうに彼女が降りて彼に従った。
狭い玄関に入るとすぐに階段があり、二階へと続く。
もう一つのドアを開けると・・・外観とは違った地味で広めの部屋がある。
手前にソファセット。壁に沿ってあるバスルーム。奥には巨大なダブルベッド。
小さな窓には、きっちり厚いカーテンが引いてあった。


「ま、こんなもんでしょ。山奥だし。愛し合うカップルに、場所は問いません」
「愛し合うカップルの場合だろ?あたし達は違うじゃん」
「まあね。そう怒りなさんな。ルームサービスで適当にご飯を注文していてあげるから、シャワーでも浴びてスッキリして来たら?」
「うん・・・」


悠理はすっかり諦めたようにして着替えを持ってバスルームに入って行った。
それぞれにシャワーを浴びている内に、注文した料理が届く。
チャイムが鳴ってドアを開けると、ワゴンだけが置いてあった。
ドアの向こうにもう一つのドアがある。きっと向こうには、事務所や厨房があるのだろう。
ちなみに清四郎がそのドアを開けようとした時には、きっちり鍵が閉まってあった。
メンバーと昼食を取って以来、山道にはコンビニエンスストア一軒もない状態だったので、二人は無言のまま注文した料理を食べ尽くした。
ピザやパスタの軽食しかなかったが、食べないよりはマシだった。


「さて、と。腹もまあまあ満たされたし、魅録に電話でもしますか」
「あ、忘れてた」
「実は僕もでした。それだけ疲れてたし」
「外線、使えるかな?」
「使えるでしょ」


ベッド脇にあるチェストに固定電話がある。
清四郎は外線に繋いで魅録の携帯電話に連絡した。


『清四郎です。ええ、ええ、大丈夫です。そちらは?
無事に宿に着きましたか、良かった。
僕と悠理はですね、何とか民宿に頼み込んで泊めてもらえる事になりました。
ちょっと道に迷ったようでしてね。携帯も繋がらなくて。
ええ。また明日の朝に連絡しますよ。
明るくなれば大丈夫でしょうし。民宿の方にでも道を訊いてみますから。
ええ、はい。じゃあ、おやすみ』


悠理は清四郎の隣に座りこんで、耳を寄せるようにして電話の内容を聴いていた。


「ここが民宿か?」
「だって、ラブホって言えるか?」
「ま、そうだけどね」


彼女は笑いながらベッドに勢いよく倒れ込む。


「わー。あたしんちのベッドくらいはあるか。きもちいー♪」


ダブルベッドの真ん中に大の字になる悠理に、清四郎は覆いかぶさって顔を見た。
きゃっ、と彼女は女の子らしい声で小さく叫ぶ。


「ベッドの半分は僕に譲って下さいね。長い運転で、僕だって疲れてるんだから」


あ、と言って悠理は清四郎の体を避けてソファまで逃げた。


「どうぞ、どうぞ、ベッドにゆったり寝て下さいよ、運転手さん。
あたしはソファで充分。全然疲れてないし」


彼女はクローゼットから予備のブランケットを出してソファに広げた。
清四郎はそんな彼女を後ろから担ぎ上げ、そのままベッドに放り投げる。
今度はぎゃあっ!と叫んで派手にバウンドした。


「なーにすんだよ、清四郎!危ないだろ!!」
「ベッドに寝て下さいよ。何もしやしませんから」


漆黒の瞳が悠理を見据える。
変な勘繰りはかえって恥かと、悠理はベッドの上で胡座をかいて考えた。
そんな悠理を余所に、清四郎は歯磨きをして自分のパジャマに着替えてベッドに入る。


「明日は早めに出発しますから、もう寝てよ」
「へ~い」


自分の嫌らしい考えがバカらしく思え、悠理はもう一度バスルームに入り、歯磨きと着替えをしてからベッドに入った。
パジャマなんて持って来なかったので、代わりのTシャツとショートパンツを着ていた。
しばらくベッドの中で寝返っていたが、清四郎がベッドの照明スウィッチを落としたのに軽く怯えて動きが止まる。


「おやすみ」
「う、うん」


悠理は清四郎に背中を向けて目を瞑る、が寝られない。
後ろに集中すると、静かな寝息が聴こえてくる。
早く寝なきゃ、寝なきゃと唱えている内に、彼女にも眠りがやって来た・・・

 

目が覚めた時、また自分を見つめる漆黒の瞳があった。
驚いて跳ね起きると、清四郎も起き上がっている。


「もう朝なの?」


彼は答えない。


「清四郎・・・」


薄明かりの中で、彼の男らしくも長い手の指が伸びてくる。
悠理は覚醒した意識の中で動けずにいた。
頭の中で彼女は呟く。


何もしないって言ったよね?


彼の手は滑らかに彼女のシャープな輪郭をなぞり、首筋に移行する。
やがてシーツが擦れる音と共に彼の白く器量の良い顔が近付いた。


ま、待ってよ。


悠理は心で叫ぶ。けれど声には出てこない。
彼の手は彼女の頭の後ろへ回って固定される。
動けない、と思った次の瞬間、柔らかな温かい唇が彼女を捉えた。
何処かで彼女の名前を呼ぶ声が聞こえる。
けれど彼女の体も、そして心も、凍り付いたように動かなかった・・・

 

次に目覚めた時は完全に朝だった。
小さな窓にかかっていた厚いカーテンが開かれ、そのサッシも細く開けられていたから。


「おはよう」


清四郎がバスルームから出てくる。


「おはよ」
「シャワー浴びておいで。もう少ししたらに出発しますよ。
さっきフロントに電話して道順訊いておきましたし、魅録にも連絡しときましたから」
「うん。分かった」


手早くシャワーを浴びて歯を磨く。
バスルームから出てくると清四郎がインスタントコーヒーを作っていた。
昨夜の出来事について二人が触れる事はなかった。
ただ硬直した悠理を優しく抱き締めて眠らせた事実を、清四郎は胸に残しているのか。

 

車はスカイラインドライヴコースを快調に走る。
昨日の天候とは打って変わって青空が広がっている。
FMラジオは遠い昔のPOPソングを流していた。
二人の間に会話がない分、歌の歌詞が悠理の頭の中に深く浸透して来た。


♪もう一度 彼の愛 取り戻してみると 僕に言った あの時の 電話の声が今も響く・・・


昨夜のようなシチュエイションは、もう二度と起こらないだろうと思う。
例え似たような状況に陥ったとしても、清四郎は自分に触れようとしないだろう。


車は完全に山を越えた。
遠くにメンバーが待つ道の駅が見える。
運転する清四郎が助手席の悠理に話しかけるのは、ホテルを出て以来に思われる。


「意外と度胸がないですね」


何を意味するのか、彼女にはすぐに分かった。


「度胸?そんなんじゃないだろ」
「魅録とは?」
「まさか。魅録はそんなコトしないよ」
「何で?」
「何でって。軽々しくするものか」
「僕は気持ちがあれば良いと思うけど」
「魅録は大事な親友だから」
「そんな事しないって?悠理は恋人対象じゃない、か」


言われて悠理は考え込む。


「分かんない。でも魅録は好き。あたしは大切に思ってる、けど」
「魅録の気持ちが分からない、と。僕は?好き?」
「え?何、突然」
「僕を好きかどうか訊いてます」
「好き、だけど・・・」
「恋愛対象かは分かんない?」
「う、ん」
「そうか。悠理にはまだ早かったのか。
僕はね、好きなら、時には奪う優しさもあると思うんです」
「ふうん」
「悠理にとって僕なのか魅録なのか、知りたい」
「清四郎」


悠理は運転する清四郎の横顔を見つめる。
でも、まだやっぱり分からない。彼女には。
だから彼女は諦めて前方に視線を移す。

少し先で、魅録が両手を大きく振っているのが見えた。


 

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