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2014/06/19

ただ、過ぎて行くのは 清四郎編 2

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さて、続きをアップです。











結局僕達は、六人全員で行動を共にする事に決めた。
観光タクシーを貸切りにしてもらい、まずはそれで遊園地まで向かう。
助手席に魅録が乗り込み、続いて後部座席前列に可憐、美童、向かい合わせて野梨子、そして僕が乗り込んだ、
最後に迷った悠理は、僕の横にするりと座り込んだ。


「悠理、狭くない?」
「大丈夫」
「魅録の近くで一緒にナヴィゲイションしなくて良いんですか?」
「魅録だけで充分」


そう言った切り、悠理は窓の外を見る。
車はゆっくりと出発した。
皆で窓の外の景色や観光スポット、土産について話題にした。
魅録は運転手と熱心に何かを会話している。
悠理はスナック菓子の入った袋を手にしていたが、一向に食べる気配はなく、言葉数も少なかった。
悠理、と美童が心配そうに声をかける。


「うん?」
「悠理が元気ないなんてさ。体調が悪いの?」
「ううん」
「いやぁね。悠理が元気ないって、もしかして?温泉郷だし。何かうつった、なんて言わせないわよ」


美童と可憐が顔を見合わせて肩を竦める。


「悠理、大丈夫ですの?」


野梨子が僕の反対隣りから声をかける。


「そんなんじゃないよ。ちょっと生理痛。急にさっき始まっちゃった」
「まあっ!はしたないですわ!」


頓狂な声を上げ、皆が笑った。


「あほっ!もうすぐお前の好きな遊園地だぞ。遊べるのか?」


魅録が振り向いて言う。


「今痛み止め飲むから。レディにあほないだろ」
「そうよ。魅録ったら。悠理だってちゃんと女の子なのよ」


元気がない理由がそのようであって、皆は安心したように微笑んだ。


遊園地はシーズンオフであっても連休の為か、幾分混み合っていた。
美童と可憐、そして野梨子が行動を共にし、魅録と悠理、僕が一緒になる。
胸に鈍い痛みが走り、その場から去って美童達の方へ向かいたかったが、彼等は巨大な観覧車に乗ってしまっていた。
僕達は幾つかのハードなアトラクションに乗り、ペースを悠理に合わせた。
彼女に合わせる事で、三人のバランスが取れた。


「お昼前にここを出るって。最後にジェットコースターに乗ろう!」


魅録はそう言ってアトラクションへと走り、僕も後を続いた。
先頭を切るようにして並んだ彼は一番前の席を独りで陣取った。
悠理はやはり普段の調子までは出ないのか、僕より後に列に並んでいた。


「悠理」


僕は二番目から後の彼女を呼び、その腕を掴んで前に連れ込んだ。


「ありがと」
「二人乗りだから、魅録の隣に乗りなさい」


魅録の後ろの座席に僕は座り、悠理は今朝と同じように躊躇している様子だった。
スタッフが忙しそうに三列目から後方の客を誘導し始めた。
すぐに出発のベルが鳴る。
悠理は飛び込むように僕の隣へと座った。


「前じゃなくて良いの?」
「うん」
「魅録の隣が空いていたのに。一番前でしょ」


ジェットコースターはスピードを上げて前へと進む。


「こっちでいい」
「前の方がスピードが楽しめる」
「いいんだったら」


コースを一気に上り切り、更なるスピードで下り始めた。


「悠理~!こっちは気持ちいいぞー!!」


魅録が横顔を向ける。
僕も悠理へと視線を動かすと、彼女はベルトを握り締めて俯いていた。


 


遊園地から日帰り温泉に向かう途中、蕎麦屋で簡単な昼食を食べた。
その間(車内も含めて)、悠理は魅録の隣で楽しそうにしていた。
時々目の端で様子を確認していたが、心が痛むもこれが自然なのだと言い聞かせる事ができた。
僕は彼女の笑顔が昔から何よりも好きだし、そうしていてもらう事が僕の喜びでもあったからだ。
温泉に到着すると、悠理はそのような状態であった為にロビーで待っている言った。


「ねぇ、温泉に入る手段はあるのよ」


可憐は言う。
野梨子は顔を真っ赤にして、男性陣の前でそのような会話は慎むようにと注意している。
美童以外、内容を把握するのに時間がかかったが、野梨子と同じように顔を赤くしている魅録は呆れるようにしてその場を去った。
僕と美童もその後に続き、美童は“悠理もやっぱり女の子だよね”と肩を竦めた。


「男の子のようにしていてもね。やはり年頃ですから」
「うん。最近余計にそう感じる事ってあるよ」
「女の子らしいと?」
「そうだね。悩めるお年頃って感じだよね」
「なんだよ、美童。悠理が恋でもしてるってか?」
「さあ」


そう言って美童は僕と魅録の肩を同時に叩き、にやにやしながら大浴場へののれんを潜った。
長湯が不得意な美童はすぐに風呂から上がり、逆に長湯の魅録を残して僕も風呂から上がった。
女性陣ももちろん長湯で、ロビーには美童と悠理がソファでペットボトルのジュースを飲みながら会話している。
二人ともメンバーの中では飛び抜けて美形であるが為、この古惚けた温泉旅館では余計に目立った。
特に美童の金髪は他の若い温泉客を魅了し、美童も得意になっている様子だ。


「さっき向こうの女の子達に聞いたんだけど、この旅館の裏庭にある池にさ、人間の顔ような模様の鯉がいるって。
ちょっと見に行こうよ」
「二昔くらい前に流行ったような話ですね。行ってみますか」


ロビーの自動販売機近くに若い女性客数人がこちらを見ている。
美童目当てなのか、悠理なのか。
ただ、こう言った雰囲気は僕の重い心を少しだけ明るくした。
三人で裏庭に向かうと意外にも広い池があり、遊歩道がその周りを囲っていた。
悠理が喜んでそちらに走って行く。


「いる?」


僕と美童が彼女を挟むように立つ。


「見えない。鯉すら見えない」
「ふうん。観光客に疲れたんじゃないの」
「せっかくだから遊歩道に沿って散歩しない?その内野梨子達も話を聞きつけて来るでしょ」


緑が美しい季節であったから、僕達は清々しい空気と広大な庭園内での散歩を楽しんだ。
そうしている内に思った通り、野梨子達三人が手を振りながら近付いて来た。


「ねぇ、鯉、見た?わたし見なくてもいいわ。だって気持ち悪いもん」
「私も。清四郎達は見つけまして?」
「まだですよ。鯉すら見えません。こんなに広いとはね」


「悠理、お前見つけたか?」


魅録が悠理の横に立つ。


「ううん。魅録見つけてよ」
「うん、まかしとけ!」


魅録は悠理の肩に手を回して何度か軽く叩く。二人は楽しそうに微笑んでいる。
僕はその光景を見るに耐えなく、皆の一番後ろに回り込んで歩いた。
魅録は熱心に池の縁に前屈みになって集中して歩いている。
美童と野梨子と可憐はすぐに厭きて別の道に逸れて行った。
いつの間にか悠理は、僕の歩調に合わせてゆっくり隣を歩いていた。


「魅録と歩かないの?」
「うん。だって見つけられないもん」
「でもお願いしたんでしょ?一緒に歩いたら良い」
「いい」
「魅録独りじゃ可哀相でしょ」
「大丈夫だよ」
「だって」
「なんで?清四郎、あたしここにいちゃ邪魔なの?」


そう言って僕を見上げる悠理の大きく澄んだ瞳に僕の醜い嫉妬心が映っているようで、胸は再び激しく締め付けられた。
僕の露骨なまでの言動ははっきりとした嫉妬となって僕を苛めると同時に、悠理の言動が僕への想いを含んでいるようにも思えた。


僕は先の見えない想いと普段の自分にはあり得ない嫉妬心と言う屈辱に耐えられず、その日の夜に急用ができたと告げて東京に戻った。


 

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