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charm anthology

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2014/05/06

ただ、過ぎて行くのは 野梨子編

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タブレットでの文書作成って本当に面倒ですので、先日“ヤフオク!”でキーボード付きタブレットケースを700円で落札。
やはり文字打ちは、ガッツリ指先で打ち込みたいものです。。

それでは本日アップは“野梨子編”です。











私が生徒会室に入った時、清四郎と悠理が小さな口論を繰り広げていた。
それは放課後のいつもの光景で、もう何年も続けられている。
人は二人を反発し合う磁石のようだと言い、何故ずっと同じ倶楽部のメンバーとして一緒にいるのかと不思議がる。
また人は、私と清四郎を一対の、好一対の恋人のようだと言う。
家も隣合わせの幼馴染みで、生まれた時から兄妹のように育てられた。
互いの苦手とするところ、あるいは得意とするところを大概は知っていると言っても過言ではない。
双方の親の仲も良く、周りは私達が将来を約束しているものと思っている者も多い。
昔で言ったならば、“許嫁”であると思われているのだ。
もしかしたら、そんな話も過去にあったかも知れない。
私は何も知らされていないから分からない。
もし昔であったのならどうであろう。
私は意に反して従わなくてならなかったのだろうか。
清四郎はどうであろう。
やはり親が決めた相手なら、貰わなくてはならないと諦めただろうか。
今が、昔ではなくて良かったと思うしかない。

私から見れば一対とは、目の前の二人だと感じる。
全くの他人が心を通すのだから、本当の意味での好一対ではないであろうか。
けれどそう感じるのは、私だけなのかも知れない。

「今日は何の喧嘩ですの?」

私は半ば厭きれながら二人に声をかける。
清四郎は私を見るなり冷静な顔に戻って、何事もなかったように装う。

「別に。いつもの事でしょ。さて、今日は野梨子と書店に行く約束でした」
「あら、良いんですのよ、続きをなさっても」
「まさか。馬鹿らしい」

そう言ってテーブルの上の鞄を手に取った。

「じゃあ悠理、お願いしますよ。後で電話しますからね」
「へぇ~い」
「魅録にも悠理を手伝うようにお願いしてますから」
「わーったよ」

意外にも素直な返事で私を驚かせる。先程の口論は何処へ行ったのだろう。

「悠理、ごきげんよう」
「野梨子、バイバイ」
「じゃ、悠理、後で」

彼女は肩を竦めて小さな微笑を私達に向けて手を振った。


ある日曜日の午後だった。
私はお茶のお稽古を母につけてもらった後で、弟子が数を間違えて注文してしまった和菓子の残りを隣に持って行くように言付けられた。
玄関を入ってすぐに、この家には似合わない奇抜な靴を見つけた。
無論、その持ち主は私でも分かった。
私はその場で二階に向かう階段へ、清四郎の名を呼んだ。
吹き抜けの二階のドアがすぐに開き、幼馴染みではない少女が顔を出した。

「まぁ悠理。ちょうど良かったですわ。和菓子をたくさん持って来ましたの。
お茶を淹れるので降りて来て下さいな。清四郎もね」

私は普段勝手にキッチンを使わせて貰うように、中に入ってそうした。
悠理も私の傍で何をするともなしにいて、私の動きを見ている。
後に清四郎がキッチンに入ると、気を利かせるように和菓子用の漆器や湯飲みを用意した。
傍から見れば・・・やはり好一対の恋人あるいは夫婦に見えるのは私と清四郎で、悠理ではないであろう。
けれど、そうではない。
それは家族として、兄妹としての一対であり恋人のそれではない。
何故なら清四郎は、悠理が不得意とする茶の用意に関して気遣い、彼女の心に負担が掛からないように会話を持って行ったのだ。
私達は自然で、彼女に対しては当然であったのだろう。


「清四郎は悠理をどのように思っていますの?」

書店に向かう途中で私は彼にそう訊いた。
夕暮れの街並みは何時になくもの悲しく感じられた。
彼から事実を語られるのに何をそんなに不安に思うのかは分からない。
やがて胸に、大切な身体の一部をもぎ取られるような痛みが走った。

「どのように?」
「ええ」
「野梨子達と同じように、大切な仲間の一人ですよ、もちろん」
「同じように?そうですかしら」
「何故そんな事を訊くんです、突然」
「いつまでも清四郎が愚図愚図しているからですわ」
「愚図愚図?それはどう言う意味ですかね」

私は返事をせずに書店に入った。
彼は肩を竦めて私の後ろにいたが、暫くすると自身が興味を持つ本棚へと向かって行った。
買おうと思って楽しみにしていた短編集の新刊だったが、パラパラと捲ってみると思った程興味が湧かず、そのまま本棚へと返した。
振り返ると清四郎も同じような様子で私の方へと向かって歩いていた。
二階にある喫茶室に清四郎を誘うと、僕もそうしようと思っていましたと言って微笑んだ。
その微笑みは切なげに見え、先程の感情がまた甦った。

「悠理が、待ち惚けてしまいましてよ。清四郎が伝えないと」
「伝えるって何をです?さっきから含みを持たせて」

私は目の前のコーヒーカップを口元まで運び、ゆっくり音を立てずに啜った。
そして清四郎を見つめながらカップをソーサーに返し、また口を開いた。

「清四郎の告白を、悠理は待っていますわ。
含みを持たせているのは清四郎で、悠理は清四郎の言動に振り回されていると言っているんです」

また、彼は切なげに私に向かって微笑む。
少し諦めに似た感じで。

「知っていたんですね」
「ええ。だって清四郎ですもの」
「そう、ですよね・・・」

私の痛みは胸に直撃し、軽い吐き気を覚えた。
ああ、やはりそうだったのだ、穴の開いた胸に鈍い痛みがまた走る。
清四郎への恋心が痛みの原因ではない。
それは・・・物心がついた頃から知るこの関係が、壊れてしまう切なさから来る感情であろう。
こんな時に限って、自然な私達の関係を憎んだ。

けれども清四郎から告げられた事実は既に過ぎ去ったものであり、それを変えるには互いをもう一度深く認識しなくてはいけないものと私は受けて取った。



 

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