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さて、本日からまた連載です。
タブレットからの投稿ですので、短めの文章です。
誤字脱字等ございましたらお許し下さい。
今思い返すと、あれは初等部の頃であった。
高学年と記憶する。
授業は国語で、剣菱悠理は教科書を読むように担任に命じられていた。
段落から段落までの数行の音読ですら彼女には難しく、不得意とするところの一つであった。
何度も同じ漢字に引っかかる。“貴重”だったか“尊重”であったか。
菊正宗清四郎の記憶に、そこだけが穴が開くように抜けている。
けれども余りに同じ漢字に引っかかる彼女の為に、彼は先日新しく買い換えた白い消しゴムの片面にその漢字の読みをひらがなで大きく書き、担任に知られないように斜め後ろから彼女の机に向かってそっと投げつけた。
まるで連携プレイのように彼女はそれをさっと手に取った。
そしてやはり、漢字のようにその後の記憶はない。
悠理は授業の後、消しゴムを清四郎に返そうと振り向くと、そこに彼がいない事に気が付いた。
隣席のクラスメイトに行方を訊いても分からず、そのまま次の授業までの数分を待ったが戻らず、彼が何かの表彰を受けに会館へ行ったと聞いた時は放課後だった。
彼女は返しそびれた消しゴムを持って帰宅した。
自室の机の上で彼の消しゴムを見つめる。
ボールペンで書かれたようなしっかりした黒い文字は男の子にしては整い過ぎていて、女の子の、ましてや自分とは余りに違っている。
その時、初めて知った性別の違いに、悠理は苦しい程に胸が切なくなった。
翌日、普段通り遅刻ギリギリに登校した彼女が彼に消しゴムを渡そうとした時、児童朝会の準備に忙しい彼は既に教室にはいなかった。
やっと彼を目の前にしたのは一校時目の直前で、彼がちょうど席に着いた時、彼女は消しゴムを手に振り向いた。
「昨日はサンキュ」
「何?」
「消しゴム」
悠理は清四郎に消しゴムを軽く投げつける。
彼は片手で受け取った。
「ああ。これもう要らないから君にあげる」
彼はもう一度悠理へと消しゴムを投げる。
彼女がさっき投げつけた手に吸い込まれるようにそれは入った。
「でも、あたしも要らない」
「記念に取ってたら？これで漢字も読みも覚えたでしょ」
「な、なに」
清四郎の素直な気持ちなのか皮肉なのか、彼の目を見ても悠理は理解できない。
彼の表情もその通りで、自分とは違う優等生の彼を前に普段の劣等感を感じた彼女は、怒りで頬が熱くなる。
席を立って彼に向かおうと、緊迫した状況は周りの生徒にも感じられた、が。
「前、剣菱さん。先生が来たよ」
「ぐっ」
まだ教科書の準備ができていなかった彼女は、悔しそうに前に直った。
消しゴムの記憶について二人がその後語った事は当然ない。
清四郎の記憶は危く、悠理が呼び起こすには哀し過ぎた。
それから数年後、二人は同じ倶楽部のメンバーとなる。
初等部以前から反発し合う仲はこの後も続く訳だが、意味合いが少し違って来た事に二人は気付いているのか。
「じゃあ明日までに纏めておいて下さいよ」
「ムリだよ！」
「昨日の総会をサボった罰です」
「だったら魅録も同罪だろが！」
「魅録にもちゃんと罰は伝えておきました。
仲良く居残ってお願いします」
「だって、前からチケット取ってたライブで、清四郎にも言ってただろが～」
悠理の中等部の頃からの親友で、当時は別の学校に通っていた松竹梅魅録。
彼と悠理は、昨日の生徒会定例総会をサボってライブへ行っていた。
その事で清四郎と悠理は言い合っていたのだ。
その時、清四郎の幼馴染で悠理とは幼稚舎から一緒の白鹿野梨子が生徒会室へと入って来た。
[16回]