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こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。

2014/04/01

春の雨 3

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さて、本日で“春の雨”ラストです。
なかなか執筆の時間が取れず遅くなりました。
申し訳ございません。。











光を含んだ糸雨は、次第に春雨に変わった。
静かに降るそれは柔らかく、まるで糠のようである。
そのような雨を糠雨、小糠雨と言う。
傘を差しても濡れそぼつのは涙のようで、それは大切な少女を想い出した。
想いは磨き上げた二枚の葉を模った銀の文鎮に重なる。
彼の中の小宇宙は、文鎮の錘を使ってその少女の元に留まろうとしている。

週末の悠理は“頭の良い友達”である松竹梅魅録と過ごすのが常である。
彼は他の中学校に通っているが、二人には思いがけない出逢いがあり、それ以来は親友の仲である。

「どうした?」

駅前のショッピングモール内を歩いていた時、魅録が言う。
本来であれば今時間、彼のバイク仲間の後ろでツーリングを楽しんでいるはずだが、
生憎の雨で中止になった。

「ううん。今知り合いを見たような気がしたから」
「知り合い?」
「学校の。ほら、向こうの本屋さん。もう見えないけど」
「この中歩いてれば、その内会えるだろ。用事でもあるの?」
「ううん」

適当に店内を覘いて、フードコートで一息吐く。
魅録は冷たいコーラを飲み、悠理はバニラシェイクを飲む。

「さっきの知り合いって、最近仲良しの生徒会長だろ?」
「な、なんで?」
「あはは。隠したって分かるさ。お前最近、そいつの話しかしないもん」
「そう、だったかな」

それきり悠理は口を閉ざす。
一旦テーブルに戻されたバニラシェイクの紙コップは、幾つもの水玉模様を作った。

「で?そいつ、誰かと一緒だったの?」
「・・・・・」
「悠理と気が合わないと言う、幼馴染の女子と一緒だったんだろ?」
「いつも一緒さ。仲がいいんだ」
「ふうん。幼馴染と言うか、ずっと付き合ってんじゃない?」
「う・・・ん。そうかも知れない」
「あっは。気になるんだろ?」

彼はそう冗談を言う。
けれど全く反応しない悠理の様子から、彼女の想いが本気だと疑う。
目の前の紙コップを見ているようで、何も見ていない彼女の目には不安の影がある。
水玉模様のそれは、やがて雨垂れのように変わった。

「もう飲まないの?」

気を揉んだ魅録が訊く。

「うん。もうたくさん」

彼が紙コップを持ち上げると雨垂れはテーブルに数滴零れ、ジーンズを黒く染める。
彼女のままのストローを口に運ぶと、バニラシェイクはただの甘い液体に変わっていた。

「驚くうちは楽しみがある。女は仕合せなものだ」

突然彼は言う。だから悠理は驚いたように彼を見上げた。

「なに、それ?」
「明治の文豪が言った言葉さ。生徒会長に訊くといい」
「イヤだよ・・・」
「ナンだ、急に毛嫌いして」

拗ねたように魅録を見つめる。その顔がいじらしく、彼の心に小さな嫉妬が生まれる。
不意打ちに彼女へウィンクして見せる。思った通り、真っ赤になって俯いた。

「なあ、悠理。バイク仲間で、誰が好き?」
「仲間?好きって?」
「男友達でさ」
「そりゃあ、魅録さ」
「じゃあ、生徒会長と俺は?どっち?」
「知らないよ」

一度は顔を上げた悠理だったが、魅録がからかう余りに今度は視線を逸らした。
普段は気付かぬ彼女の首筋は陶器のように白く、幼い少女のように細かった。
その上にある小さな顔は、今では泣きそうである。
けれど全てを覚った魅録の嫉妬心は彼女の脆い想いを打ち砕く。

「朝晩も一緒で、休日も一緒の奴らは見たままさ」

せっかく上げた小さな顔の中にある大きな茶色の瞳は、涙で覆われている。

「わ、分かってるもん」
「それでも気になるんなら、仲間を使って調べてやる」
「イヤ!止めて、魅録」
「だって、気になるんだろ?」
「止めて。もういいから。自分でやるから」
「それに付き合っている相手がいながら、お前に気があるような素振りをするなんて、
生徒会長のクセに最低だな」
「あたしに気なんてないよ」

突然魅録の大きな手が、彼女の方へ伸びる。
頬に触れられると、ゴツゴツして男らしいと感じる。彼女のものとは違う。

「泣いてる」

指は涙で濡れている頬を拭うと、今度は彼女の腕を取った。

「帰ろう」

そう言って魅録は悠理を自宅に誘う。
彼はその日、夜まで彼女を自分の部屋から出さなかった。

週が明けて数日、悠理は生徒会長を避けた。
特別な委員会活動もなく、同じクラスにいても間近に顔を合わせる事はなかった。
けれど清四郎にはその彼女の態度があからさまに映った。
だから彼は、彼女を誘わずにはいられなかった。
今ではもう、彼女を変えるのは自分しかいないと確信していた。
下校時間の昇降口で、悠理の周りに数人の彼女を慕う生徒達が捌けたのを確認して清四郎は近付いた。
彼女はちょうど靴箱から革靴を出した所だった。

「剣菱さん」

彼女は声の方を振り向き、すぐに彼と分かるとその視線を逸らした。

「なに?」
「一緒に帰ろう」
「友達と約束してる」
「じゃあ悪いけど、その友達との約束を断って来てくれる?待ってるから」
「・・・・・」

彼女は彼を無視して靴を履き替えた。

「約束なんてしてないんでしょ?僕を避けて。先週の土曜日の事で怒ってるんだろうね」

悠理は驚いて彼を振り返る。一瞬の内に、“見られた”と思う。
意外にも優しい視線と出合い、彼女は彼に即して歩く事になる。

「頭の良い友達が男だって、何となく感じていた。だけど、君達がフードコートで仲良さそうにしているのを見て、
余り良い気分がしなかった」
「あはは・・・喧嘩仲間だよ。実際、喧嘩してる時出逢ったんだ。今ではもちろん親友さ」
「親友・・・彼もそう思っているんだろうか?」

そこで彼女は口を噤む。
清四郎の事で、確かに魅録は腹を立てていた。
けれども悠理には、それが嫉妬ではなく矛盾した清四郎の行動に対してだと思っていた。
そして彼女自身も、からかわれていると感じた。

「彼も、君を親友だと思ってる?」

親友だから腹を立ててくれた。
けれどあの土曜日の午後から夜にかけて、魅録は悠理をなかなか帰してくれなかった。
乱暴された訳ではない。意地の悪い言葉を投げかけられた訳でもない。
ただ、ずっと悠理を見つめて何かを考えていた。彼女の時間が許されるまでここにいて欲しいと頼まれた。
しかしまだ幼い心の悠理には、これ以上何も考え付かない。

「登校も下校も一緒で、休みの日も一緒で、ただの幼馴染だと言える?」

これが悠理の精一杯の問い質しだった。

「ああ、言えるさ。兄妹のようなものだもの」

彼は即行で答える。

「ふうん」

心少し安堵する。
清四郎はそこで立ち止まる。立ち止まって悠理と向き合う。

「僕を信じてくれる?」

信じるも何も、真実が分からない。けれど彼女は語彙に乏しく言葉にできない。

「“驚くうちは楽しみがある。女は仕合せなものだ”って、どう言う意味?」

唐突に訊くものだから、清四郎は呆気に取られる。

「驚くうち・・・?ふうん、なるほど」

顎に手を当てて暫く考え、次に悠理を見た時、その瞳は強い光を宿っていた。
雨が、音を立てずに降り始める。
昼間の光が夕方のそれに変わり、すぐさま雨雲を呼んだのだ。
予報通りと呟いて、清四郎は鞄から折り畳み傘を出して雨雲が覆う空に向かって広げる。
そして彼女の肩に片方の手を回して引き寄せた。

「文豪が言ったのは女心さ。でも君の親友は、嫉妬心で言ったのだろう」

急に距離が近くなり、彼女は頬を染める。

「親友の言う事と僕の言う事、どちらを信じる?」
「信じるって・・・?」
「僕と野梨子が一緒に休日を過ごしている姿を見て、君は動揺した事は否めない事実だろ?
僕だって君達を見て良い気分がしなかったのは本当さ」
「わ、分かんない。何を訊いてるか、分かんない」

そう、幼い悠理にはまだ恋心は分からない。
言葉として理解しても、感情までは追い付いていない。

「うん、そうだよね。ごめん」

二人は無言のまま前方を向いて歩き出す。
恋で動くのは、彼女には早過ぎる。
彼女の内に秘める魅力が、早過ぎるが為に生かされないのではもったいない。
まだその時ではないと彼は覚る。
傘を持つ側の腕に、悠理の細い腕が歩く度に触れる。
二人はその事で心が温かくなる。嬉しいと感じる。
剣菱邸の門の前で立ち止まって、二人はもう一度向かい合う。

「傘をありがと」
「どういたしまして」

門番が門を開けようとする。けれど清四郎はそれを手で制した。

「ちょっと待って」

彼は悠理に傘を渡し、鞄を開けて中を探る。
手にしたのは二枚の葉を模った銀の文鎮である。

「これを、受け取って下さい」

あの議会があった放課後、二人の女子の前でそうしたように彼は渡す。
彼女は鞄を雨で濡れたアスファルトに置き、肩と顎で傘の柄を支え、大切そうに両手で受け取った。
二人の手は、絡まるように重なった。

「僕の気持ちです。何時か、きっと剣菱さんに分かります」

手と同じように視線も絡まる。
清四郎は自身のメッセージを文鎮に託す。
暫くそうして、しかし門番に彼は視線を投げると、門番は素早く門を開けて悠理に傘を開いて差し出した。
清四郎は、彼女が支える自分の折り畳み傘を取る。

「また、明日」

そう言って片手を上げると、彼女に背を向けた。
悠理は、文鎮から伝わる温もりとその意味を求めようとした。
雨が降っていても構わないから、彼を追いかけたいと言う衝動に駆られたが・・・
まだその時機ではない事も分かっていた。

今、二人の間は遠ざかる。
底知れぬほどの深い空から小糠が落ちるように、静かに雨は降り続けた。






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