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charm anthology

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2014/03/21

春の雨 2

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私の田舎は昨日から大雪でして・・・今朝の積雪量が半端ないです。
明け方、除雪車が通りました。。
冬に逆戻りです。

続きをアップしましたら、雪かきに行こうと思います。。


文字表示がおかしくなっています。
申し訳ございません。








雨雲の間から僅かな光が帯び始める。
雨は白糸のように音を立てずに地上に下がる。
清四郎は磨き上げた、二枚の葉を模った銀の文鎮を机の上に置いて窓を離れる。
幾つかの小宇宙は近寄っては離れ、纏まりを得ずにいる。
しかし彼は、二つの小宇宙を一つに纏めようとする。



数日前の議会の後、清四郎と悠理の間に僅かな溝ができてしまった。
委員会活動も大したものはなく、挨拶程度しか交わしていない。
荒立つような事もない。
ただ、二人の間に以前に似た距離ができただけだ。
だから彼は機会を作る。意図して作る。次の議会の資料を纏めて欲しいと生徒会室に誘う。
けれど最初にその部屋のドアをノックしたのは、彼の幼馴染だった。

「よろしくて?」
「野梨子。ええ、どうしました?」
「いえ、あの」

彼女は言い難そうに、けれど部屋に入るとそのドアを閉めた。

「最近、私を少し避けているように思えたものですから」
「避ける?僕が?」
「ええ。放課後はいつも忙しそうですし、朝も・・・考え事をしているようで。
私との会話を避けているように感じますの」
「そうかな?」
「そうですわ」
「野梨子の考え過ぎです」

彼は棚の上のファイルを探す振りをする。そのように彼女に背を向ける。

「私が、剣菱さんに辛く当たるのを、面白くないように思えますの」
「確かに、何が気に入らないのか、野梨子はきつい冗談を言うね」
「でもきっかけを作ったのは向こうですわ」
「何時の頃の話をしているの?もう、随分前のように思えるけど」
「でも・・・あの人、私を嫌っているんですわ」
「訊いたんですか?」
「・・・・・」
「どちらかが向き合おうとしないと、難しいかも知れない」
「私だって・・・私だって社交的になりたいとは思いますわ。
けれどクラスメイトの話って、意味がないようなものばかり。理解できませんもの」
「理解しようとしないからじゃない?意味がないものはないさ。
例え下らない内容でも、そうやって打ち解けて、友達の別の面も見えてくる。
親しくなれる。もっと知りたいと思う」
「剣菱さんや黄桜さんみたいにですの?」

その名前に、清四郎は振り向いた。

「あるいは・・・そうかも知れない」

野梨子は控えめに、そこを訊く。

「どうしたら、良いのかしら?」
「野梨子が動けば良い」
「動く?」
「僕から離れれば変わる。そして似たような趣味の友達を探したり、僕以外の異性と交流を始めたり」
「異性?」
「例えば、ですが。恋をすると、人は変わりたがるでしょ?」
「そうかしら・・・」
「恋をした相手に気付いて欲しくて動くでしょうし、恋をした相手に好かれたくてその人の好みに合わせるでしょう、きっと」
「清四郎は、そうですの?」
「本当の恋をまだ知らないから分からない」
「分からないって・・・矛盾していてよ」
「兎に角、今のままではいけない」

そう言うと清四郎は野梨子に背を向ける。彼女は居た堪らなくなった。

「今日は、一緒に帰れますの?」
「悪いが、今から議会の資料を作るんだ」
「剣菱さんと?」
「ああ」

その答えに、彼女の目の中が熱くなる。頬が紅潮する。
喉の奥から出そうになる悲しみを胸元で抑えて部屋を出た。
彼は背を向けたままでいた。声をかけずにいた。
野梨子の心情が分からないのではない。忌み嫌うなんて以ての外。
けれど今の清四郎には、悠理の存在が大きかった。
突然ドアが乱暴に開く。

「資料を纏めろって、なんだ?」

唐突に質問する。
彼は声の方へ振り向き、自然に出る笑みを隠さずにいた。

「前年度のを参考にして、ちょっと変えて欲しかったんだ」
「うん?」

彼はすぐに棚のファイルを手にして前年度の議会資料を捲る。
それをテーブルに置き、少し変色した文鎮で押さえた。

「変わった文鎮」
「ええ。頂き物なんです。銀製品なので変色してしまって」
「ふうん。ま、紙を押さえる分には差し支えないだろ」
「まあね。でも後で専用クリームで磨こうと思って」

それには反応しなかった。
そういう物があるのを知らないからであろう。
彼は僅かに肩を竦め、文鎮を見下ろしている彼女を見つめる。
自然に埋まった溝を嬉しく思う。
そして用意していた箇条書きのコピー用紙を彼女に渡す。
今度はそれをじっと見ている。

「パソコン使える?」
「少し」
「良かった。去年のデータを出して箇条書き部分を差し替えて欲しいんです」

清四郎は悠理の横に立つと、箇条書きの説明をし始めた。
思っていた以上に手際良くデータを差し替え、彼女は大きく伸びをした。

「終わったー!」
「早い早い」

壁際のパソコンデスクに座る悠理の後ろに回って画面を確かめる。
彼女の座る椅子の背もたれに手をかけ、もう片方の手をデスクに置く。
彼女に少し緊張が走るのを感じたが、黙って無視をした。

「良いですね」

と清四郎が言って両手を離すと、彼女はホッとしたように脱力した。

「帰っていい?」
「僕も一緒に帰る。ちょっと片付けるけど、今日は良いでしょ?」
「う・・・ん」
「約束でもある?」
「ううん」

彼女はそう答えると、椅子を離れて窓際に立った。
清四郎はパソコンの電源を落とし、テーブルにあるファイルを片付ける。
窓ガラスに手を着いて窓の外を見る彼女の後ろに彼は立つ。

「何を熱心に見ているの?」
「ほら、あの二人」
「え?」

清四郎も彼女の横に位置し、指差す方へ視線を向ける。
外は夕闇が迫っていて見え難い。

「ほら」
「何処?」

彼は彼女の指先に近付き、窓ガラスに近付く。
二人の距離は数センチまでに達した。

「生徒の間を一人で前を歩くのが、白鹿。団体様が黄桜。面白い」
「何が?」
「対照的で」
「象徴的と言っても良いだろう。面白くもないが」
「別にバカにしたんじゃない」
「分かってるさ」

二人は向き合う。距離に気付く清四郎だが、悠理は気付かない。

「あたしだって、あんな風になれたらって時々思うよ」
「あんな風?」
「白鹿みたいに頭良くなりたいって。でも無理だもん」
「野梨子だって努力してるんです」
「努力したってできないもん」
「ふうん。僕も力になりますよ。頭の良い友達だっているんでしょ」

悠理は何か言いたそうに清四郎を見つめた。
やがて二人の距離が遠退いた。

「今日は不思議な日だ」

帰り道、悠理を送る途中で彼は言う。

「どうして?」

隣に並ぶ彼女に優しい視線を送る。

「さっき生徒会室に野梨子が来て、同じような事を僕に言ったから」
「同じって?」
「変われない自分を責めていた。そしてどうしたら良いか、僕に訊いた」
「ふうん」
「動けば変わると言った」
「動く?」
「うん。僕から離れて、クラスメイトを理解して友達になれと言ったんです。
後、恋をしたり・・・」
「恋っ!!」

悠理は頓狂な声を上げて立ち止まる。

「白鹿に恋なんて無理だろ。それに第一、お前からなんて離れられないよ」
「そうかな。でも、自分が変わりたいなら動かないといけない」
「お前と恋すればいい」
「僕と?」

彼は真面目な声を出す。
そして彼女を見る。夕闇が深くても、互いの顔が見れる距離だ。

「僕達は互いに恋しない。野梨子は僕を慕っているが、それは恋心から来ているのではない。
それは彼女にも分かっている」

清四郎の語気は悠理に鋭く迫り、それを避けるように彼女は歩き始める。
下らない会話をしたくなる。

「あたしも恋でもすれば変わるかな?」
「変わるでしょ。誰でも、変わる」
「女らしく、なるか~」

彼女の声は滑稽さを含んでいた。

「多分ね。でも、君は恋で動いてはいけない」
「なんで?」
「君が他の誰かと恋をするなんてもったいない」

彼女は顔を紅潮させて俯いた。
既に、彼女に変化が見れる。例え暗くても、清四郎には分かった。

「そう、それで良い。まだ君はそれで良い。まだ動いてはいけない」

程なくして、剣菱邸の門が見えた。

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