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charm anthology

こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。

2014/03/12

春の雨 1

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昨日で震災から三年が経ちました。
あの日の翌日も今日ほどではありませんが積雪がありました。
ライフラインが途絶えていて、普段のように暖を取る事はできませんでしたが、
職場から食品や電池、懐中電灯を分けてもらって過ごした事を覚えています。
電池を入れたラジオで、ずっと壊滅した沿岸の状況を家族で寄り添って聴いていました。
私の住む所も道路が隆起し、電信柱が傾き、余震が続き・・・
あの日々を忘れる事はありません。


震災直後の大船渡市にある駐屯所


一年と少し前に家族で釜石市を訪れた時、商店を経営している女性の方に当時四年生だった息子が訊きました。

「復興は進んでいると思いますか?」

その方はすぐに答えてくれました。

「復興は進んでいると思います。
でも本当の復興は、仮設に住む人達が自分の家に帰れて初めて本当の復興だと思います」

胸が一杯になりました。
月日を追うごとに記憶が薄れていくけれど・・・本当の復興はまだ・・・




さて、本日からまた連載をスタートします。
よろしければお立ち寄り下さい。













春に似合わぬ強い雨が、生徒会室の強化ガラスを叩くように降っている。
時刻は夕方の六時を過ぎ、普段なら夕焼け色に染まる雲を眺める事ができる場所だ。
大粒の滴がガラスを滑る。
彼は二枚の葉を模った銀の文鎮を手にしている。
舞う紙を押さえるには充分過ぎる重さであるが・・・
想い人をこれで抑えるには、彼の愛はまだ不充分と言えよう。



中等部で新しく編制された生徒会での議会であった。
顔合わせの意味でもある。
学級委員長も兼務である菊正宗清四郎は、副委員長の剣菱悠理を従えてその議会に出席した。
誰が用意した資料なのか、無駄にある。
悠理は退屈そうにそれを捲っている。頭に入る筈はない。
けれど居眠りをされるよりかは、と清四郎はじっと隣に座っていた。
長くはない議会が終了し、教員が彼に何か指示しているようだった。
席を離れ、帰宅しようとする悠理を清四郎が呼び止める。


「待って、剣菱さん」
「何?」
「今先生から指示があって、生徒会室を整理整頓するようにと」
「ふえぇ~」
「前職のいらない書類を処分したりでしょ。これから、いい?」
「ええっ!なんであたし?」
「って言うか、僕の所為。生徒会執行部でもあるから。悪いけど」
「友達と約束してる」
「そこを何とか」
「う~ん」
「じゃあ、今日の宿題を教えてあげる」
「写さして」
「まあ、いいでしょ。やろうか」


棚のファイルや引き出しの書類を逐一清四郎に訊き、必要なものとそうでないものを分ける。
必要な書類は元の場所へ戻し、不必要な書類は悠理が手で破いた。


「後でシュレッダーにかけるよ」
「うん。でも結構、ストレス解消」
「あはは。それで解消なら助かるよ」
「あはは」


少しずつだが、彼女は彼に対して心を開いていた。
幼稚舎と初等部の頃は、彼女は彼を毛嫌いしていたようだが。


「もうそろそろだね。破いた紙、ゴミ袋に入れて終わりにしようか」
「オッケー」


清掃用具が入ったロッカーからゴミ袋を取り出し、悠理は床に座り込んで散らばった紙切れをそこに入れる。


「ねぇ、どこで宿題やる?」
「そうだね」
「腹減ったからハンバーガーショップは?」
「え?そんなとこ?じゃあ僕の家は?」
「遠くない?」
「歩ける距離。おやつ付き」
「いいねぇ~」


時刻はちょうど六時。
生徒会室は淡い西日を遠ざけた。
清四郎がゴミ袋を手にふと立ち上がる。
まだ残っている書類、元へ、自身の私物を隠していたのを思い出した。


「どうしたの?」
「ううん。自分のがあって。せっかくだから空いた引き出しを利用しよう」


彼は近くの机を引っ張り、壁際に押しやる。
上靴を脱いで身軽そうに机の上に乗った。


「何やってんの?」
「私物を・・・」


高い棚の上に手を伸ばす。
そこにある菓子箱を手に取ったところで、生徒会室に招かれざる客がやって来た。
開け放されたドアに、小柄で容姿端麗な少女は静かに立っていた。


「清四郎」
「ん?野梨子。どうしました?」
「ええ。まだ終わりじゃなくて?」
「この通りさ。もう少し」


座って作業していた悠理が眉を顰めて立ち上がり、あっと言う間にその作業を終える。


「終わった。あたし帰る」
「待って。僕との約束は?」
「だって。こいつと帰るんだろ?」
「ちょっと待ってよ。まだ終わってない」


白鹿野梨子が部屋の中心にやって来る。
まだ多少散らばった書類に目をやり、悠理と同じように眉を顰めた。


「何ですの、この破られた紙は?」
「前職者の書類さ。剣菱さんに片付けを手伝ってもらっていたんだ」
「そうですの。この乱雑な仕業は、正しくと言う感じですわね」
「なにぃっ!!」


悠理が野梨子の前に立ちはだかる。


「副委員長が片付けなんて、私にはできません事よ。
剣菱さんで良かったんですわ」


皮肉を込めて笑う野梨子の声は、悠理の怒り心頭に発した。


「あたしだからできるって言うのかよ!」
「そうですわ。私が副委員長なら、清四郎はこんな仕事を命じなくてよ」
「先生の指示だいっ!」
「誰の指示でも、清四郎は私にはこんな労力を使う事はさせませんもの。
あなたであって清四郎も良かったんですわ。こう言った仕事なら、剣菱さんにもできましてよね」
「ナンだとっ!もう一遍言ってみろ!」


睨み合って罵りあう二人を清四郎は尻目に、菓子箱の中を確認する。
箱の中には、二枚の葉を模った銀の文鎮がひっそりと入っていた。


「副委員なんて大役、自信がないからできないと私言いましたでしょ?
この通り、私にはこんな仕事、できませんと言ってますのよ」
「これだって大切な仕事だいっ!!」


箱の中の文鎮は、ほんの少し変色していた。
専用のクリームと布で拭けば、良くなるかも知れないと彼は思う。
同様にこの二人も、何かしらの要因があるのだろうとも。
けれど悠理を弁護するのは容易く、野梨子は幼馴染とは言え愛想が尽きた。
その時、生徒会室のドアにもう一人の客人が現れた。
彼女の出現で、蛍光灯では補えない明るさを華やかに満たした。


「お取り込み中、悪いんだけど」


二人の少女は、もう一人の現れた、艶やかな少女に目をやる。
部屋に静けさが訪れる。
一歩室内に入ると、彼女の華やかさは増した。
ウェーブのある長い髪は背中に広がり、制服からは芳しい香りがする。
艶かしい顔には、自信に満ちた微笑むが浮かんでいる。
彼女はそのまま、机の上に立つ清四郎を見上げた。
それに気付いた彼は客人に視線を移す。
彼はその客人へ、少し待つようにと漆黒の瞳で伝える。
客人は素直に受け止めた。
漆黒の瞳は次に文鎮の箱を、最後に副委員長に視線を移す。


「剣菱さん」


その声の方へ悠理は振り返る。


「これを受け取って下さい」


両手で差し出された菓子箱を、悠理も両手でしっかりと受け取る。
その時二人の手が偶然に重なるのを、二人の少女は気が付く。
次の瞬間、清四郎は机から床へと音もなく飛び降りた。
瞳と同じ深い黒髪が顔に垂れたがすぐに片手でかき上げられた。
彼は副委員長の傍に立つ。


「菊正宗君」


客人は言う。


「生徒指導の先生、名前は忘れちゃったど」
「ええ」
「職員室に来て欲しいと伝えて下さいって」
「分かりました」
「ちゃんと伝えたわよ」
「ありがとう、黄桜さん」
「じゃあね~」


黄桜可憐は片手を軽くあげ、長い髪をなびかせるようにドアへと振り返って部屋を出て行った。
彼女が部屋を出てもなお、しばらくはその気配が消えなかった。


「剣菱さん」


清四郎は自分の傍に立つ悠理に向き直る。
彼女が手にしていた菓子箱を、さっきとは逆に受け取った。
招かれざる客は、もう一度二人の手が重なるのを見る。


「多分すぐ終わるから・・・」


彼の声とほぼ同時に、悠理の携帯電話が着信を告げる。


「悪い」


彼女は制服のスカートのポケットから携帯電話を出して通話ボタンを押した。


「うん。ごめん、今終わったんだ。校門に?分かった」


通話を終えると、悠理は無表情に清四郎を見た。
白く透き通るような肌に、茶色く澄んだ大きな瞳に、その端整な顔立ちに、彼の目は奪われる。


「友達が迎えに来たんだ。学校の校門で待ってるから。
悪いけど帰る。もう仕事終わっちゃったし、いいだろ?」
「宿題の約束は?」
「いいよ。友達もけっこう頭いいから。そいつに教えてもらうから」


悠理は清四郎の返事を待たずに生徒会室を出る。
彼はずっと、悠理の出て行ったドアを見つめている。
野梨子は・・・そんな彼を見つめている。

いくつかの小宇宙が渦を巻き始める。



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