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2013/02/10

バレンタインにはまにあわない!

こんばんは!

ご訪問ありがとうございます。

作品への拍手、web拍手にもいただいております。
ありがとうございます♪

三連休、いかがお過ごしでしょうか?

もうすぐバレンタインですが、本日アップのお話は・・・

ほとんどバレンタインとは関係がありません。。

実は何とか間に合わせたかったのですが、
バレンタインネタが浮かんでこなくて!

何だかちょっと・・・無理矢理くっつけて書き上げてしまった・・・

そんな失敗作のお話ですが、よろしかったら、どうぞ。。













やかんをガスレンジにかけている間にインスタントコーヒーをマグカップに入れる。
やかんの水はコーヒー一杯分。
コーヒー粉末はガラス容器から直接、目分量で。
この動作を朝から五回は繰り返している。
食器棚の真ん中の扉には、ピーナッツバタークリームサンドのクラッカーが入っているのを知っている。
何故なら僕に食べられないように、姉貴がここに隠しているのを昨夜目撃したからだ。
扉の中を覗いている内に、やかんは沸騰を訴えた。
 


「あちち・・・」
 


シューシュー言っているやかんからマグカップにお湯を淹れると、飛沫が僕の指に当たる。
思わず、ふうっと鼻からため息が出た。
湯気が立ち込めているマグカップを見つめていると、僕のようにため息を吐く彼女を思い出す。
ここ数日、ずっとそんな感じでいる彼女の事を。
普段とは違う、物思いに耽る彼女は今どうしているのだろう。
僕は流しの前でクラッカーをボリボリ食べながら彼女を思った。
 

 

 

「悠理、どうしてため息ばかり吐いているの?」
 


放課後の生徒会室の窓際で、壁にもたれて窓の外を見ている。
憂いを帯びた顔なんて、僕は今まで見た事がない。
いつもなら放課後のこの部屋は、彼女が食べる袋菓子の匂いで溢れかえっているのに。
テーブルの上は閑散として、コーヒーカップ一つ置かれてはいない。
 


「うん?そう?なんでもないよ」
「そうですか?何か、悩み事があるなら、相談に乗りますよ」
「ありがと。大丈夫」
「そう?」
「うん。でも、何かあったら、一番にお願いするかも」
 


そう言って彼女は、手を振って帰って行った。
僕もつられて手を振り、彼女の後姿を見送る。
 


でも、何かあったら、一番にお願いするかも。
 


何かあったら・・・そう、彼女の中で、普段とは違う“何か”がもう始まっているのだ。
 

 

 

気が付くと、流しの中はクラッカーのくずで白くなっていた。
僕はまたため息を吐く。
クラッカーがなくなった事で、きっと姉貴が怒るのだろうと思ったからだ。
とやかく言われる前に、僕は二階の自室に退散する。
手には六杯目のコーヒーを持って。
自室に戻りしばらくするとドアがノックされた。
 


「はい?」
 


面倒臭そうに返事をすると、僕の許可を得ずにドアが開けられる。
 


「ちょっ、ちょっと!勝手に・・・」
 


姉貴だ。
 


「何よ」
 


一瞬見つめ合い、それから頭の中でグルグルとピーナッツバタークリームサンドのクラッカーが回る。
 


「な、何だよ。勝手に。人の部屋に」
 


僕はクラッカーの言い訳を探しながら、何食わぬ顔でい続ける。
 


「ノックしたじゃない。それにお客さんよ!」
 


キッと睨む姉貴の後ろで、申し訳なさそうな悠理が見え隠れした。
 


「おや。悠理」
「さ、悠理ちゃんお入りなさい。こんな弟に何のよう?相談なら私が乗るわよ」
「え?本当?じゃあ、和子姉ちゃんに相談しちゃおっかなー」
「おほほっ!いいのよ~♪こいつで頼りなかったら、いつでも私のところにいらっしゃい」
 


イジワルな視線を僕に投げ、姉貴は背を向ける。
 


「清四郎にお茶を入れてもらってね。私は出かけるから」
「和子姉ちゃん、デート?」
「ほほ・・・」
 


そんな訳ないだろ!
 


口にするとうるさくなりそうなので、僕は横目で見送った。
 


「どうしました?」
 


僕は心の乱れを隠しながら、平然と悠理を見る。
彼女はもじもじしながらベッドに腰をかけ、思ったよりも女性らしい、
華奢な指先を見つめている。
こうなると長くなりそうなので、お茶でも持ってきますよと部屋を出た。
 

今、僕の悩みの種でもある彼女が突然現れて、正直動揺を隠しにくい!
けれど、僕に悩みを打ち明けに来たのだ。
何とか乗ってもやりたかった。
 

嫌な予感・・・こういう時って、だいたい的中するもの・・・
 

彼女の為にホットチョコレートと、自分の為にインスタントコーヒー淹れる。
ピーナッツバタークリームサンドのクラッカーを食べきった事を後悔しながら、
トレーに二人分のマグカップを載せて二階に上がった。
 


「清四郎に、お願いしたい事があってね・・・」
 


互いの飲み物が冷め、液体が濁り始めた頃に彼女は口を開いた。
 


「僕にできる事なら」
「うん」
 


いつになくしおらしい彼女。
まるでその表情は、誰かを想うものとよく似ていた。
 


「どうした?言ってみてごらん」
「・・・うん」
 


多少苛立ちも感じ始め、言葉を選びつつもじりじりと迫る僕に彼女は泣き出しそうに言う。
 


「ごめん。やっぱりムリ!!」
「えーっ!なんで!?」
「だってあたしが好きでも、清四郎はヘンだって言うかも知れないもん!!」
「な、なに?好き?」
「!!」
「誰か好きな人でもできたの!?」
 


かなりのショックを受けつつも、僕は返事を待つ。
一分、二分・・・
両肩を振って答えさせようと両手を伸ばした時、また僕の部屋のドアが勝手に開いた。
 


「よっ!」
 


魅録だった。
 


「いや~っ!!!」
 


彼女は魅録を見るなり、大声を上げて帰って行った・・・
 

悠理の件でちょっと話が、と言う魅録に、先程の一部始終を説明する。
 


「ああ~、やっぱりね、その話」
「魅録は相手を知っているんですか?」
「まぁね。うぷぷっ」
 


不気味な笑いをして、悪戯っ子のような(それは悠理も時々する)目を向ける。
 


「見ず知らずの相手と喧嘩したらしいんだよ」
「はぁ」
「で、その時、その相手のオトコに押し倒されて・・・」
「えっ?男?押し倒す?悠理を?」
「んぷぷっ・・・そうなんだよ。それで、その時」
「ああ、なるほど。押し倒された事がない悠理がそうなって、気分は女の子になった、と」
「うっきっき。ま、そんなとこさ」
 


何だかちょっと例えられない虚しさを心に抱きながら、僕は問う。
 


「で、なんで悠理も魅録も、僕にその恋愛の相談なんですかね。
美童とか、可憐になら分かるけど」
「相手の男を知る為に、清四郎の催眠術が必要なんだ」
「はあ?」
 


更に詳しく、魅録から悠理の一件を聴いた。
 


「夢で見た相手とは、ね・・・」
「そ、夢で喧嘩した相手に恋しちゃったらしいんだ。くくっ」
「催眠術で夢の相手に、悠理の想いは伝えられないですよ。どんなに僕でも。
夢の原因くらいなら分かるかも、ですがね」
「悠理の初恋も、実らずってな」
「しょうがないですね。上手く言っときますよ」
「想いを伝えて、チョコでも渡したかったのかな?」
 


僕達は彼女の可愛らしさに微笑んだ。
 


「また、夢で逢いましょう。想いはその時に、なんてね」
「あ、悠理の事だから、夢が正夢になったりして!」
 


一瞬、黙り込む。
 


「・・・ま、良かったですよ。相手が存在しない男で」
「う、うん」
「これで悠理も諦めるでしょ」
 


すっかり安心した僕を、魅録は横目でジロリと睨む。
 


「ふうん。ずいぶん嬉しそうだな、清四郎さんよ」
「安心したって言うか、悠理にはいつもの悠理でいて欲しいんで」
「でも、一度は恋を知ったんだぞ?そうなると、今まで通りとはいかないさ」
「どういう意味です?」
「異性を、意識し始めると思うんだ」
「ん?」
 


分かんねぇーなら、まだいいさ。
 


魅録は皮肉めいた口調でそう言うと、僕の部屋を出て行った。
 


「僕の言動に、何か問題でもあったのか?」
 


心当たりを探してみる。
 


「正夢になって、僕と魅録がライバルになるとか・・・」
 


いやいや、あり得ませんって。頭打ってないし。。
 

僕はまだ彼女に、いつも通りでいて欲しいだけですよ。
 

まだまだ、ね。






 

 

 

 


 

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