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charm anthology

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2012/10/14

秋のため息

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今日は大好きな中等部の頃のお話です!!


良かったら、どうぞ~♪













書庫に向かって顔を上げると、場違いな後姿を見つける。
 


あれって・・・
 


面白半分興味半分で近付いた。
 


「ま、まぁ、ありがとうございます!」
「大丈夫?気をつけなよ」
「ええ、え、あ、はい」
 


図書委員であろう女子は、すっかり彼女に気を取られている様子。
まるで、突然目の前に現れたアイドルに驚いている感じ。
そうそう、嬉しさで舞い上がっているって言うか・・・
 


「どうしました?」
 


僕は彼女に近付いて、肩越しに書庫を覗く。
スチール棚には数え切れないほどの書物。
でも、別に乱れた感じはない様子。
 


「お・・・菊正宗」
 


僕まで顔を出したものだから、図書委員は卒倒しそうな顔色だ。
 


なかなかの人気。
 


「ここのドアに挿まれてたの。ほら、彼女、こんなに資料持ってるだろ?」
「資料?」
「うん。だって菊正宗が学年委員会で使うから資料持って来いって、朝」
「ああ~、そうでしたね」
「ナンだよ!優等生のくせに忘れたか?」
「忘れてませんよ。でも僕が頼んだのは剣菱さんにであって、図書委員さんにではありません」
「む・・・」
 


何となく雲行きが怪しい気配に、図書委員は失礼しますと去って行く。
ちょっと名残惜しい感じに・・・僕、じゃなくて彼女にだろう・・・
向こうの図書室で、資料をばら撒きながら友達に今の事を話すんだろうな、きっと。
 


「資料、いいの?」
「クラスに持ってくでしょ、きっと」
「いつ使うの?」
「今度の委員会。剣菱さんも来る?」
「学級委員長だけだろ?」
「僕は君に来て欲しいな~」
「・・・・・」
 


僕がからかっているの、分かってる。
野梨子があんな言い方しなければここにいるはずのない彼女だって、僕にからかわれる事なんてなかったろうに。
 


「ああ、だからここにいたんだね。そうじゃなければ、君が書庫に来る訳ない」
「お前が言うから~って、さっきさー!」
「いやいや、場違い・・・ごほんっごほん・・・普段見慣れないから」
 


厭きれたように肩でため息を吐く彼女。
大人気ないな、僕。
 


「菊正宗はなんでここに?まだ資料必要なの?」
「う、うん。あ、いや・・・本当は、君に頼んだの、忘れてた」
 


びっくりしたように僕を見上げる。
本当に、大きく目を見開いて。
でもすぐにその目は、影を帯びるように塞がれた。
ふうっとまた、彼女は肩でため息を吐く。
急に言葉が出なくなって、僕は誤魔化すように書庫に入る。
 


奥まで行くと冬めいた空気と、古い本の独特の匂いが鼻につく。
 


キュッと靴底が鳴る音がして、彼女が立ち去ったのが分かる。
 

初めて知る、胸の痛み。
君にだって、分かって欲しい・・・
 


ねぇ、僕だって、頼んだ事忘れちゃうほど緊張してるんだよ。
 


もう書庫になんて用事はないのに、しばらくそこに留まる。
見るもの全て、頭に入らない。
 


下校のチャイムは既に鳴り終わり、僕は薄暗い教室に戻る。
誰もいない。野梨子も。彼女も。
鞄を持って昇降口に向かった。
 


何だか、何も考えられない。
こんな罪悪感も覚えた事はない。
 


罪悪感・・・?
 


僕が忘れてしまって事で、どうして彼女はあんな顔をするのだろう?
 

僕の事で、彼女が。
 

彼女が吐いたため息が、僕の耳に何度も甦る。
哀しい、秋の冷たい風みたいに。
 


帰宅する気分になれず、僕はぶらぶらと通りを歩く。
無意識に、交差点で停まるタクシーへと視線を移した。
 


「あ・・・」
 


彼女も、同じように僕を見つける。
嬉しそうに微笑みながら僕に向かって話しているようで、でも近付こうとしたらタクシーは動き出した。
信号が、変わったんだ。
 

僕達は見つめ合いながら離れて行った。
 


突然の街の雑音に僕は驚く。
書庫からずっと、音がない世界にいたんだ・・・
 

 

 

「ねぇ、運動部部長。覚えてます?」
 


生徒会役員会議の後、悠理と書庫で資料整理をしていてあの時の事を思い出す。
だから僕は、二人で歩く帰り道の途中で聞いてみる。
 


「なんだ?」
「中等部三年の時、ほら、ええっと・・・生徒指導室での一件の、前だったかな、後だったかな?」
「なんだー?おっさんクサイぜぇ、その言い方!」
 


イライラするように僕を見上げる。
こんな時だけでしょ?唯一僕に威張れるの。
 

彼女が肩で吐くため息は、でももう、哀しげではない。
 


ぴゅうっと冷たい秋風が吹く。
空には、追い立てられる煙のような雲。
 

あの一件は、夏の終わりだったかな?
 


ま、いいですかね。
だって、ほら。
あれからずっと、僕達は一緒。
君の言いたい言葉も吐くため息も、もう聞き逃す事なんてない。







 

 

 

 

 

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