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charm anthology

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2012/10/06

As Time Goes By

こんにちは!

ご訪問ありがとうございます!!



久しぶりの更新ですが、こんなお話ですみません・・・














あの日、彼女は人込みに飲まれないように親友の袖を掴んだはずだった。
けれどその袖は、親友でも違う男の袖だった。
 


「悠理?迷子にでもなりそうなのか?」
 


彼はそう言うと立ち止まって微笑んだ。
 


「あ、ごめん、清四郎だった」
「魅録だと思ったんだろ?」
 


一瞬、そう、ほんの一瞬、清四郎は困ったような顔をして、それから彼女の腕を掴む。
 


「残念でしたね。けれどこのまま行きましょうか?みんなと逸れちゃいますよ」
「う、うん」
 


困った顔の理由が分からないまま、彼女も彼の腕を掴む。
目を合わせると、さっきの理由が何となく分かりかけるが、次の瞬間、彼は思い切り走り出した。
 

目指したのは見慣れた仲間達の後姿。
人込みにわざと揉まれるようにメチャクチャに走る。
最初は清四郎がリードしていたのに、気が付くと、互いが手を取り合うようにしている。
もう少しで仲間達に追い付く。
もう少しで・・・この手が離れてしまう。
どちらがそのように思っているのか?
手が離れる瞬間、痛い程の力が互いの手を締めた。
 

 

 

“いろんなカタチがあって良いと思うんだ”
 


彼はそう言うと、あの日とは違って彼女の手を取って優しく包み込む。
 


“だから僕達のカタチでいようよ”
 


部内恋愛は禁止。
そんな決まりを作ったのは誰なのだろう。
きっと問い質したら、皆が首を横に振るに違いない。
何時の間にか出来てしまった不文律。
守らなくてはいけない掟なんて無いのに。
皆が一緒にいなくてはいけない理由なんて何処にも存在しないのに。
 

ドアの外に気配を感じて、彼は手を離した。
 


だからと言って、互いの気持ちを伝え合った事は無い。
何度記憶を思い起こしても。
ただ、通じ合う気持ちがあると感じていた。
それは事実だった。
 


人込みに紛れて、友達の目を盗んで、手を握り合う。
それだけで嬉しかった。
廊下の片隅で、ロッカーの陰に隠れて唇を重ねるだけで幸せだった。
仲間達と過ごす時間、視線を交わすだけでも満足だった・・・
 


けれど時間は、二人の距離を遠ざけるように過ぎて行った。
 

 

 

「あの時恋愛が出来なかったんだから、今しようよ」
 


卒業して何年か経ったある日のパーティ会場で偶然に再会した時、清四郎はそう言った。
もちろん、今でも彼を好きだった。
一日だって忘れた事は無かった。
こうした偶然の再会を夢見た時もあった。
だから彼女は首を縦に振った。
 

時間がある時は必ず会うようにして、空白の時間を埋める。
抱き合って、唇を重ねて、肉体を交ぜ合せる。
あの時出来なかった全てを、二人は行為として果たした。
 

けれど・・・それだけだった。
そこには感情というものが無いように思えた。
それは清四郎も同じだった。
互いを必要としているのだと理解してはいても、その思いは全く別の場所に存在しているように思えた。
 


「どうしてでしょうね」
 


ベッドの上で清四郎は困ったように微笑んだ。
その微笑みは嘗て、彼女が人込みで親友と間違えて袖を握ってしまった時とよく似ていた。
 


「どうして・・・こうなってしまったんだろう。
今でもとても、悠理が好きなんです。ここまで異性を好きになった事なんて無いんです」
 


今は誰の目を気にする事無く悠理を好きでいられるのに。
堂々と手を繋いで歩けるのに。
まるで壁に隔たれた部屋でしか素直な感情が表せないよう・・・
 


「規制された中での恋愛しか、僕達は出来ないのか?」
 


呟くように言う清四郎を彼女は見つめる。
 


「いろんなカタチがあるって言ったの、覚えてる?
恋愛にはいろんなカタチがあって良いって」
「ああ」
「だからあたし達は、あたし達のカタチでいいんだよ」
「悠理・・・」
「今は、あの頃のままで。
でもいつか時間が経って、あたし達らしい恋のカタチが出来るかも知れない」
「・・・・・」
 

「清四郎」
 


彼女はまだあの頃と変わらぬ瞳のまま。
 


「あたし、清四郎が好きだ」
 


それはまるで澄んだ泉のように美しい。
 


「どんなに不器用な恋でも、恋していたい」
 


諭すように言う彼女の言葉で彼は覚える。
他の誰も知らないカタチが、二人のカタチなら。
そのカタチに、満足できるなら。
 

それが二人の、最上級の恋のカタチなのかも知れない。











 


 

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