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2012/08/04

残されし恋には 1


こんばんは。

ご訪問ありがとうございます。


今日はお仕事でしたが、帰宅後にざっと書き上げましたのでアップします。

掌編で・・・次回で終わるかな?です。


良かったら、どうぞ~♪
















蜩が一斉に鳴き始めて、僕は目が覚めた。
ほんのちょっと鼓動が早い。
体を起こすと、額の汗が左の手の甲にびっしょりと着いていた。
 


「暑い・・・」
 


室内の温度計は三十五度を超え、開け放した窓からの陽射しは異常と言って良いほど強かった。
徹夜明けで・・・その後の記憶がないのだから、ずっと机に突っ伏して眠っていたのだ。
モニタの電源は随分前に消えてしまったよう。
 

シャワーでも浴びて来ようと腰を浮かせたが、僕はもう一度パソコンに向かう。
マウスを動かすと画面は明け方のまま。
更新をクリックして、ちょっと気落ちする。
軽く溜息を吐くとパソコンの電源を切って、階下の浴室に向かった。
 

 

 

 

倶楽部のメンバー全員が同じ大学に無事入学し、高等部の頃と変わらぬ付き合いをしていたのは一年生まで。
その後はそれぞれが決めた道へ少しずつ歩んで行った。
メンバーの中では以前とは違う付き合い・・・恋愛に発展した者もいた。
もちろん僕ではない。
メンバーにそれ以上の関係を求めない、美童でも可憐でもない。
恋愛とは程遠い悠理でもなく・・・だから、倶楽部のバランスは余計に崩れて行ったのかも知れない。
もちろん、長期の休みや普段の生活の中でも彼等との付き合いはあった。
でも頻繁ではなかった。
こうした中で僕が悠理の胸中を察したのは奇跡と言っては大袈裟だけれど、
今までに経験ない感情が生まれてしまった(それは恋愛とは違う)からと言って過言ではない・・・と思う。
 

 

その夜はいつものようにネットで調べものをし、資料をまとめていた。
珍しく気分に斑があり、ブックマークし過ぎた情報を削除し始める。
その多くは既に要らない情報で、単純な右手の動きに苛立ちを感じた。
まだ夏が始まる前の去年の事。
窓を締め切っていると言うのに長袖のダンガリーシャツを着ていたと思う。
マウスを押す指に力が入る。
何故こんなに気持ちが揺らぐのか頭を巡らしていた時、それを見つけた。
 


「わ・・・懐かしいな・・・」
 


思わず声に出る。
それ程までに懐かしい。
すぐにクリックして、僕は驚く。
その掲示板に、まだ書き込みをしているメンバーがいたからだった。
 


“初夏を感じさせる陽射しが窓辺に届く・・・詩的だな(笑)。
今日は日曜日♪
なにすんべー???”
 


今よりもずっとずっと機能が少ない掲示板だ。
投稿者の欄も記事欄も単純でスタイルを選べず、背景に画像を入れる事もできない。
色の選択ができても管理画面を触るだけで文字化けし、修正すると初期化しそうな、そんな古い掲示板。
 

彼女は独り、ここにいたのだ。
 


“いつもなら、メールで週末のツーリング予定を立てたりしてる時間。
でも、今は違うんだ。
別の相手と、おやすみのメールしてるんだろな・・・”
 


仲間とのコミュニケーションを取る為に、高等部に入って間もなく僕が用意した掲示板。
携帯電話のメール機能を使用するのも良いけれど、ネット上なら時間も返信も気にならないし、
必要な事がちゃんと伝えられる。
個別なら、メールを使えば良いのだ。
 

その掲示板は三年間使った。
大学に入って必要とも思えないけれど、機能がたくさんある新しい掲示板を用意した。
思った通り、ほとんど使用しないまま今でもネットに浮かばせてあるはず。
 


“もう、誰もここに来ないと思う。
淋しいよ・・・でも・・・”
 


仲間を探すように、一匹の蜩が鳴く。
 

パソコンを新しい物に買い換えても、出逢ったばかりのメンバーとの軌跡が残るそれを、
削除する事も忘れ去る事もできなかったのだろう。
 


“ちゃんと、自分の気持ちを伝えれば良かった。
だからと言って、別の展開があるワケではないけどさ。。”
 


彼女がメンバーに向かって話しかけているとは思えないその呟きを、僕は読み通した。
 

彼女は・・・失恋の痛手を負っていたのだ。
僕の幼馴染と彼女の親友が付き合いだしてから、ずっと。
 

強がりを書き込んでいる時もあるけれど、ほとんどが、嘆きに沈んだものだった。
 


“気持ちが落ち着くまでは、自分から連絡しないって決めたよ。
だって、知らない幸せもあると思ってさ。”
 


僕が読んでいるなんて知らないで、彼女は書き込んできた。
それはページをクリックして気が付いた。
 


“それで、いいさ。”
 


僕も書き込む。
何年振りだったろう。
 

彼女が僕の書き込みに気付いたのは翌日。
名前のイニシャルだけで、僕と分かったはずだ。
 


“うん、ありがと!これで、いいね♪”
 

 

それから僕と彼女だけの、掲示板でのやりとりが始まった。







 

 


 

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