こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。
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忙しなく鳴る三度のクラクションで、彼女は目が覚めた。
体が酷く重く、身動きが取れない状況が把握出来た時、ゆっくりと息を吐く。
クラクションは鳴っていない。
夢を見たのだ。
確かあの最後の日(それが二人の最後の情事とは思いもしなかったが)、
怠惰な微睡の中で鳴った突然のクラクションに目が覚めた。
細く開いた窓から強い風が流れ込み、カーテンがバタバタと音を立てて揺れた。
彼女は追い立てられるように起き上がり、それから大声で泣いた。
二人の秘め事に鳴らされたクラクションでも無く、
風は吹き抜けただけなのだと清四郎は彼女の細い体を抱き締める。
違う違う、と彼女は小さく叫びながらむせび泣いた。
大切な友人への罪悪感が、彼女をそうさせていたのだ。
「起きていたの?」
頭の上で声がした。
くぐもったっているのは、ブランケットを頭から被っていたから。
「ううん。今、目が覚めた。クラクション鳴った?」
「クラクション?鳴ったかな?窓は締め切ったままだし、どうかな」
「夢かもしんない」
二人同時に動いたので、ベッドが軋んだ。
彼女は体に痛みと、感情の渇きに気付く。
「まさかこんな日が来るとは思わなかったな」
「何度か帰っていたんですけどね、殆どとんぼ返り。今回だって、ね」
「偶然?途中下車は」
「必然。僕は再会出来た日、運命を感じたけれど」
「運命?」
「ええ。今はまだ分からないけれど、何時かまた、お互いが必要になる日が来るかもでしょ?」
ああ、やはり変わらない。
自分の今の気持ちが満たされるなら、想う相手が傷付く事は考えないのだ。
あの頃と、ちっとも変わらない。
今は・・・まだあたしを必要としていない・・・
「そろそろ時間じゃない?」
彼女は会話を遮るように言う。
「ん。その前に、もう一度だけ」
ベッドが大きく揺れブランケットが開ける。
冷やりとした空気が肌に触れ、泣きたい気持ちになる。
彼女が感じているのは身動きが取れない程の重みと痛みだけだった。
悦びなど一溜りも無い。
最後の日から経過した時間と肉体の忘却が与える痛みよりも、
彼の変わらぬ恋愛観が彼女に与えられる痛みの原因なのかも知れない。
七年前に別れてから何人かの男と付き合ったが、それは通り過ぎるだけの関係だった。
清四郎に執着していた訳ではないが、彼との不条理な関係が彼女の根本の型になってしまっていた。
二人の非情とも言える欲求は互いの温もりで解消され、そうした事で言葉では表し難い安堵を得ていたから。
「なんで・・・」
「え?」
激しくなる動きの中で彼女は囁く。
「黙って行ったの?」
「何の事?」
煩わしそうに彼は聞く。
「七年前の事。あの時、なんにも言わないで突き放すように行ってしまったじゃない」
彼は動きを止め、気怠そうに彼女の頭の横に両手を突いた。
「突き放された?それはまた意外な事を言うんだね。
僕は悠理に、待っていて欲しいと伝えたつもりでしたが。
返事がもらえなかったから、それが君の答えだと思っていました」
「そう・・・だったかな?あたしは何も・・・」
「忘れたんでしょ、きっと」
彼女は記憶を辿り始める。
けれど彼から何一つ発せられていない思う。
もしそんな言葉を伝えたなら、彼女は心に抱き続けていたはず。
例えそれが彼の案に相違する答えを与えてしまったとしても。
「思い出しますよ」
彼は急に動き出す。余りの激しさに、彼女は小さな悲鳴を上げた。
「時間を作って会う機会を作りましょ。連絡なら、もう何時でも取り合えるんだから」
何も口にしない。
彼女は痛み以外感じていないのだから。
「大丈夫?」
彼は自分の体の一部に感じる彼女の肉体的な痛みだけを覚る。
「うん」
彼女は視線を逸らし、彼に気付かれぬように指で涙を拭った。