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charm anthology

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2012/03/24

途中下車 1

久しぶりにへヴィなお話を描きます。

三角関係と言うか、恋人への裏切りと言うか・・・

ですので、そのような表現を好まない方はスルーして下さい。



ご訪問ありがとうございます。














確かに今になって考えてみれば、あの日、兄の豊作から帰国(それは一時的な)した清四郎が彼女を訪ねた話を聞かされた時、
残念な気持ちを覚えても心が動く事は無かった。
それは現在の彼女の心情をリアルに表していたのかも知れない。
だから、やはり後悔はしていない。
そして清四郎も、この僅かな日々の二人の記憶が、ただ通り過ぎるだけの思い出になるに違いなかった。
 


「久しぶり」
 


二度目の訪問で、清四郎は彼女との再会を果たす事が出来た。
学生の頃と変わらぬ二人であるならば、再会の喜びを共用し、もっと旨い容で表現したはず。
けれどそうするには、互いに落ち着き過ぎていた。
あるいは、既に、未来の恋の行方を覚っていたのかも知れない。
 


「豊作兄ちゃんに聞いてたよ!あたしを訪ねてくれたって。
あの日は調度、レセプションパーティに参加していたんだ」
 


彼女は奇抜な作りのリビングで、彼にソファを勧めた。
僅かに頷き、けれど、見違えるように美しい大人になった彼女に見蕩れていた。
 


「清四郎?」
「ああ、ありがとう」
 


せっかくの再会でも直ぐに別の場所で会議があると言う清四郎は、腕時計で時間を確かめながらソファに座り込んだ。
コーヒーを断り、もう一度腕時計に視線を移しながら早口に言う。
 


「普段はね、過密スケジュールの中でもミスなんて無いんですよ。
でも僅かな時間とは言え、悠理に会いたいって思って。
来週にはまた渡米しなくてはいけないですから」
 


現在彼は、剣菱商事の海外事業部に所属している。
 


「だから、途中下車しました。
今会わなければ、また何年も会えないような気がして」
 

 


あの時あたしもそう思った。
このまま会わずにいたら、多分また、ずっと会えなくなっちゃうって。
連絡を絶ってしまったらこれで終わるような気がして、席を立ったあいつを追うようにもらったアドレスにメールした。
 

数時間待ってメールが来た時・・・もしかしたらって、思ったんだ。
あいつは“運命”って言葉を後で使ったけれど。
 


婚約まではしていないけれど、そういう付き合いをしている相手がいる事を知らされた時、
多少なりの動揺はしたけれど、でもその時は、余り深く考えなかった。
 

だって七年前までも、そんな感じで付き合っていたから。
 

 


七年前。
当時大学生だった彼等は、高等部と変わらぬ倶楽部の関係を続けていた。
延長線・・・だけど、清四郎と野梨子は友達より少し先の関係が始まり、美童と可憐はそれぞれの相手をいつも求め、
悠理は魅録の想いを知りながら距離を縮めようとはしなかった。
変わらない関係のようでいて、何処か屈折している。
そこには、清四郎が野梨子との関係を友達以上でありながら恋仲にはなり切れず、
悠理が魅録との距離を変えない事にあったからかも知れない。
 

 


清四郎のメールが悠理の元に届いたのは日付が変わる頃。
返信のもどかしさから直ぐに電話をした。
二度目のコールで出たのは、携帯電話を手元から離さない理由が清四郎にあった。
日中の僅かな再会があったから、他人行儀な会話はない。
互いの仕事の流れを報告し合い、どちらからとも無く二人で会う為の計画を企てた。
 


罪悪感は感じない。
彼に見知らぬ女の陰が存在していると知っても。
ただ、嫌悪感は感じた。
それは自分に対してでは無く、彼に対して。
 


あいつはこの七年で、何も変わっていない。
大切なのは自分だけで、誰かが自分の為に傷付く事に気付かない。
 


「じゃあ、ロビーでその時間に待ってる」
「ロビー?人目が気になるでしょ?
部屋が決まったらメールを入れておきますから、直接来るといい」
「そう?分かった。そうする」
「ええ。向こうへの出発は遅らせても大丈夫なように指示しましたから、その日は楽しみましょ」
 


新たに建設されるリゾートホテルの視察の為に清四郎は向かうと言う。
視察後に少し時間が取れるからと、その地で彼女と合流する事にしたのだ。
 


ロビーではなく、ホテルの部屋。
何故?と彼女は思う。
後ろめたい事など無いのなら、堂々とロビーで待ち合わせればいいのに。
食事の約束をしたのだから、レストランで直接会ってもいいはずなのに。
 


体が熱くなるのを感じる。
それは彼の意図する事が、彼女に分かったからだった。









 

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