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charm anthology

こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。

2015/07/30

高等部三年、一学期終業式前日

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久しぶりに“学園物語”シリーズをこちらのブログにアップです。







一年前・・・清四郎は覚えているだろうか?
あたし達はこの神社の裏で、初めて口づけをした。
そうなったのは偶然で、あたし達には必然だった。
けれど気持ちは、その時までは魅録にまだあって、秋を過ぎ、冬を迎え、春には桜が散るように想いも二つに別れた。
魅録と野梨子は、初夏には完全な恋人になった。
メンバーにそう告げた。
だからあたしは、今までのように魅録と一緒にいる訳にはいかなくなった。
大切な仲間で、たった一人の親友。それは変わらないけれど。

「ここの神社の宵宮は毎年混みますね」

屋台の照明に照らされた清四郎が、あたしを振り返って言う。
今年は家に帰って着替えてから、夜に二人で来てみた。清四郎が誘った。
本当は気が進まなかったけどね。
だって、思い出したくないことがいっぱい。
あの日の、あの二人の姿がくっきりと甦る。
金魚すくいを仲良さそうにして、それから・・・それからチビッコ達で混み合うその場所を、野梨子へ気遣うように立ち去った。
あたしは近付いてはいけないって感じながら後を追った。
でも、すぐに次の記憶がなくなった。
気が付くと、あたしは清四郎の腕の中にいて、しっかり抱かれていた。
・・・・・・・・・・

「何か買って食べる?」
「うん。お好み焼きと焼き鳥とトルネードポテト」
「そんなに一度に食べると、また気持ち悪くなりますよ」
「うん・・・」
「あ、ごめん」
「いいよ。気にしてないから」
「うん」
「うん」

結局たこ焼きを買って、二人で分けて食べた。
それから射撃ゲームをして、スーパーボールすくいをして、わたあめとトロピカルジュースを分け合った。
心が弾むようなことも、沈むようなこともなく過ぎて、そろそろ帰ろうかと言うときに魅録から清四郎の携帯に連絡が入った。

「どうしたの、魅録」

通話が終わった清四郎の顔がちょっとだけ険しかった。

「野梨子が、軽く熱中症に」
「え・・・」
「彼らもこの宵宮に来てたみたいで。神社の裏で休んでると」
「行ってみよう」
「ええ、そうですね」

あたし達は神社の裏へ急ぐ。
魅録達は、照明がうっすら届く大きな木の下に座り込んでいた。
清四郎はすぐに野梨子に近付き、顔色を見て、額と体の熱を掌で測った。
それから耳元で何かを囁くと野梨子が軽く頷く。
清四郎は野梨子を横にすると、素早く制服のブラウスのボタンを二、三個外し、スカートも弛めた。
胸がギュウっと痛くなる。

「悠理、スポーツドリンクを買って、このハンカチを近くの公園で濡らして来て」
「え、あた・・・」
「早く!」
「分かった」

清四郎のハンカチを受け取り公園に急ぐ。
ここなら自動販売機もあるし水道もある。
夜の公園を見回すと、去年と同じ静かで無機質で、遊具はみんな眠っているみたい。
あたしは外灯の下の水飲み場で蛇口を捻る。
水が勢いよく飛び出し、ポロシャツとジーンズが濡れた。
グッと鼻と喉が痛くなった。

「い、急がなきゃ」

ハンカチが水に濡れると、ふうっと清四郎の匂いがする。
突然目の前が曇り、頬が熱くなる。
頬を滑り落ちる滴が涙だと気付いたとき、魅録があたしの名前を呼んだ。

「ちゃんと濡らしてるか見て来いって、清四郎が。泣いてるのか?」

慌てて手の甲でゴシゴシ目を拭う。

「ちゃ、ちゃんと濡らしてるよ!ナンだよ、野梨子にばっか優しくしやがって!」
「アホか。野梨子は体調を崩してるんだぞ。嫉妬すんな」
「嫉妬なんて誰が!こんな暑いのに、ずっと野梨子を連れ回してんの誰だよ」
「ぐ・・・ドリンク買って来るよ」

静かな公園に、自動販売機のペットボトルが取り出し口に落ちる音が響く。
砂を踏む靴底の音が今度は耳に届く。

「戻れる?」

魅録の不器用な気遣いを感じる。

「うん。急ごう」

走りながら魅録は言った。

「清四郎と野梨子は心配ないさ」
「分かってる。ただの幼馴染み。それに・・・野梨子は魅録が好きだもんな」
「ばーか」

清四郎達の所に戻ると、野梨子が落ち着いた感じに微笑んだ。

「はい、スポーツドリンクとハンカチ」
「ご苦労様」

清四郎も振り返ってあたし達に微笑む。
似ているようで違う微笑み。
二人の視線の先が、それぞれなのをあたしは知っている。

野梨子がかなり元気になり、魅録とタクシーで帰ると言う。

「明日は終業式だけど無理しないで。今夜はゆっくり休むと良いですよ」
「ええ、分かりましたわ。三人ともありがとう。本当に助かりました」

あたしと清四郎は、タクシーに乗り込む野梨子と魅録を見送った。
それからあたし達は、宵宮を見ながら帰ろうと言うことになった。
けど人混みはいっそう酷くなっていて、並んで歩くのも大変だった。
気が付くと清四郎はずっと先を歩いている。
背が高い分、目立って便利だけど・・・このまま・・・離れて行くまま・・・
清四郎はあたしに気付かずに行ってしまったら・・・
魅録がいなくなってしまうより切ない気持ちの行方は。
蒸せ返るような暑さと目に見えない不安で息が上がり、ちょっとだけ目眩がした。
立ち止まって深呼吸をする。
後ろからやって来る人達があたしにぶつかって、どんどん端に押し寄せられる。
俯いてもう一度深呼吸していると、生温い風が通り抜けてだいぶ気分が楽になった。

「大丈夫ですか?」

声の方へ顔を上げるとそこに清四郎が立っていた。

「うん」
「歩ける?」
「大丈夫」

あたしの言葉に、作ったような微笑みをする清四郎。
すぐに背を向けて歩き始める。
神社を抜けて人気が落ち着いたとき、

「あたしのことは歩かせるんだね」

とわざと聞こえるように言ってみる。
すると清四郎の足が止まり、振り返ったその目はまるであたしを睨んでいるみたい。
まずいと思って前を見て歩こうとした次の瞬間・・・
清四郎はあたしの腕をつかんで通りを急に曲がり、裏通りの袋小路に入った。
つかまれる腕が余りにも痛くて、泣きたくなった。

どうして?野梨子にはあんなに優しくするくせに。
魅録だって、野梨子には気遣って・・・あたしは・・・あたしには・・・

人気の全くない裏通りの、むき出しのコンクリートの壁に清四郎はあたしを押し付けた。
強い力で、あたしは自由を失った。
二年前の秋よりもずっとずっと強い力で押し付け、去年のあの時よりも狂おしいほどに切ない口づけ。

痛いよ・・・でも、離さないで。


その日、家に帰って鏡を見ると、下唇が紫色に腫れていた。

拍手[21回]

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コメント

1. どきどき・・・

こんばんは。熱帯夜にはもってこいの甘酸っぱい作品ですね。
悠理が切ないです。
私が今書いている作品も、野梨子絡みの切なさ・・なんですけど、うーん、難しいのはやっぱりあの二人の距離感だな。

清悠どっぷり派なので野梨子ちゃんの存在はかなり、かなーり際どいんですよね。

学園物語・・・続きワクワクしております。
しかし下唇・・・大丈夫かしら・・・

うつき様

いつもありがとうございます!
拍手コメントも届いております。ありがとうございます♪

このシリーズもそろそろ終盤ですが、移ろう悠理の想いを描いてきました。
四人が絡むと難しいのですが、悠理以外は気持ちの揺らぎがないんですね。
今のところ・・・
この先をどう進めるか、検討中です。。

下唇・・・清四郎の悠理への想いの強さを表現しました♪♪

ありがとうございます!

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