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過去作への拍手も嬉しく思っています。
ありがとうございます!
台風が心配ですね。。
皆様のお住まいは大丈夫でしょうか。
外出時はどうぞお気を付け下さい。
さて、本日は連載の続きです。
小出しにアップで申し訳ございません。。
(参考図書を使用しております・・・念の為)
「清四郎、起きてよ!急ぎの用事って、なんで寝てんの?」
夢うつつに求めていた声が、現実となって耳へ届いた事を受け入れるのに数分を要した。
僕はゆっくり目を開け、目の前の悠理を認める為に目を擦り、何度も瞬きをした。
「悠理?なんでいるの?」
彼女は僕のベッド脇に座り込み、ブランケットの上から胸元を叩いていた。
「あのね、野梨子がね、清四郎が帰ってすぐに体調を崩したの。
夜中にさ、近くの病院で診てもらったんだけど、夏風邪かな?大した事はなかったけど、朝になってから家の車で連れて来た。
さっき野梨子の部屋に布団敷いてもらって寝かせたんだよ。
落ち着いた感じでね。多分もう大丈夫」
一方的にこちらに戻った理由を話すと、悠理は僕に向かって悪戯っ子のように微笑んだ。
「清四郎、嘘吐いたでしょ?」
彼女は僕がこちらに戻って来た理由を追及しているのだ。
僕は起き上がって悠理に顔を近付けた。彼女は少し動揺したように体を反らした。
「いえ。こちらに来てすぐに用事を終えたんです。ま、今日の午後から本格的に手を付けるんですけどね。
朝方までかかって。さっきベッドに入ったばかりなんですよ。
で、野梨子は大丈夫なんですね」
「うん。大丈夫。時間ができたら見舞ってあげてよ。安心するから」
「分かりました。で、他の連中は?」
「今頃こっちに向かってるんじゃないかな。清四郎も野梨子も、あたしまでこっち来ちゃったから。
もう帰ろうってなった」
「それは、残念でしたね」
「ん、でも美童と可憐は夜に、何とかって言うパーティに参加するってさ。だから気にしてないみたい」
「ふうん」
そして僕は“魅録は?”と訊こうとして戸惑った。
彼を意識していると思われるのが嫌だったからだ。
「悠理はどうするの?これから。帰る?」
そう質問したと同時に、僕の姉が部屋のドアを突然開けた。
「悠理ちゃん、おはよ」
「和子姉ちゃん、久しぶり~」
「あら、二人して顔を近付けて何のお話?内緒話?」
その言葉に悠理は恥ずかしそうに頬を染め、立ち上がって僕から離れた。
それから野梨子の件を説明し、ここにいる理由を話して納得させた。
「野梨子ちゃんは落ち着いたのね。良かったわ」
姉はドア越しに笑顔で僕を見ている。
僕は姉に、全てを見透かされているようで不安になった。
「悠理が今朝、わざわざ野梨子を送ったって。落ち着いたのなら独りでも帰れたでしょうに」
「だってあたしが野梨子達を誘ったんだもん。途中で何かあったら大変だろが」
「だったら昨日、僕も送ってもらえば良かった。タクシーの手配も必要なかった」
「だって急に用事ができたって。さっさと帰ったの清四郎だろ。名輪の車が使いたかったらそう言えばいいのに」
「清四郎は悠理ちゃんに送ってもらいたかったのよ」
姉の注目を逸らそうと、返って自分に集中してしまう。
姉は、やはり僕を知る姉なのだ。
「なんだー、それ。ヘンなの。清四郎、ヘ~ン!」
悠理も何かを感じたようにまた頬を染め、話を旅行に移した。
朝方眠りにつくまで、僕は悠理がここへやって来るなんて予想もし得なかった。
昨日の別れが、まるで二人の距離を遠ざける現実と受け入れる覚悟でいたのに。
僅か半日で打ち切られるとはと、しかし心が明るくなるのは事実だった。
しばらく姉と二人で旅行の話をしていたが、姉は思い出したように悠理を自室に誘った。
「ちょうどね、悠理ちゃんに用事があったの」
訊くと、姉が以前購入した服が雰囲気に合わず、悠理に譲りたいと言う。
少し丈が短いデザインで、購入当時はまだ相応しい年齢だったようだが、今はちょっと難しいと。
姉は悠理とクラスメイトのように楽しそうに会話しながら部屋へと連れて行った。
僕は呆れたように肩を竦め、洗面所へ向かった。
それから台所で三人分のコーヒーを作り、迷ってから自分の分だけカップに入れて自室に戻った。
すっかり眠気も覚め、ベッドに戻る気など当然なくなり、部屋着に着替えてパソコンを立ち上げた。
どうせ構成案をいくつか考えなくてはならないし、面倒な作業は早めに済ませようと思った。
それに悠理へ示す理由として、この作業は必要不可欠だった。
冷めたコーヒーを飲みながらしばらく作業をしていると、悠理が着替えたから見て欲しいと部屋に入って来た。
「ミニスカートなんて穿いたコトないよ」
彼女は照れ臭そうに裾に片手をやり、もう一方を前髪に添えた。
薄い生地の丈の短いワンピースで、裾の部分が何枚も重ねてあるような女性らしいラインのデザインだった。
「とても良く似合ってますね。女の子らしいですよ」
首元にゆったり巻いた深い色のストールが、彼女の肌の白さを際立たせた。
見ればいつもあちらこちらに跳ねた癖のある髪は、綺麗にブラッシングされている。
彼女が本当に美しい女性だと僕は再び知った。
何時になく優しい気持ちになれた僕は、心から素直に彼女へ言う。
「これからは時々、このような女の子らしい服装をすると良いですよ。
普段の服装も活動しやすいのでしょうが、こうした服装は悠理の良さを際立たせますからね」
彼女も僕の優しい言葉を素直に受け止めたように嬉しそうに微笑んだ。
「そう?何だか自分らしくないような気がする。
けれども和子姉ちゃんや清四郎が言うんだから時々はスカートも穿いてみようかな」
「そうすると良いですよ。きっと魅録も喜びます」
その時、僕は自然に魅録の名を口にしてしまった。
僕と悠理は姉によってとても良い雰囲気へと修復していたのに、そこに僕の隠れていた嫉妬心が明るみに出てしまうのは僕自身も考えてもみない事だった。
彼女は一瞬の内に顔を曇らせ、動きが止まった。
僕達は無言のまま見つめ合った。
「魅録の事がそんなに気になるの?」
彼女の色のない唇が僕に訴える。
僕が答えに迷っていると、感情のない両の瞳が強い光を僕に浴びせた。
「お前は卑怯だ!」
言葉の意味を理解するまで、僕には数秒の時間を要した。