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2014/06/01

ただ、過ぎて行くのは 清四郎・悠理編 3

ご訪問ありがとうございます!

少し遅れましたが、続きをアップします!





悠理の大きな瞳は茶色に澄んでいて、まるで僕の心の内を読んでいるように見えた。
僕は焦点を合わせるように見つめ返すと、彼女は「嘘だよ」と表情を変える事なく僕に告げた。

「え?」
「だから、お嫁に行くなんて、嘘」

冷え切っていた僕の体は急に温かさを取り戻した。
同時に羞恥に似た感情と安堵が入り乱れ、彼女に向かって歩き出していた。

「ごめん、清四郎。怒った?」

心配そうに僕を見つめる彼女の表情には、軽い笑みが宿っていた。
だからと言って僕は彼女や何かに対して怒りを覚えた訳ではない。
結果として覚ったのは僕の彼女に対しての想いが真実であり、
また僕の気持ちを(例え試す為であっても)彼女の行動でその真実を知る為には必然であった事だった。

「こら!人を騙すんじゃない」
「驚いた?」

僕はそれには答えずに、彼女の腕を乱暴に掴んだ。
彼女は小さな悲鳴を上げて腕を引いたが、存外な僕の力に驚いた様子だった。

「ごめんなさいをするから放してよ」
「ダメです。今、罰を考えてるんですから」

何度か自分の腕を引いては僕に強く掴まれていたが、僕以上に機敏な彼女は隙を狙って僕から離れた。
あっと言う間にベッドの向こう側に彼女は逃げ、嬉しそうな笑顔を放った。

「あたしが結婚するの、本当は嫌なんだろ?」

僕はそれには答えなかった。
代わりに彼女は僕の気持ちを故意に試したのだろうか、と脳裏を横切った。
自身の真実を知る事はできたが、何故このような事を彼女はしなくてはならなかったのか?
そこに彼女の想いがあるのか知りたかった。
僕は彼女の反対側にある机に向かって歩き、その引き出しを開けてすぐ前にある消しゴムを手にした。

「清四郎、何するの?」
「この消しゴムは僕が預かります」
「え?ナンでさ?」
「僕が良しと認めた相手と悠理が結婚する時にこれを持たせましょう。
それまでは僕が預かります」
「結婚なんてしないもん。それにその消しゴム、読み方記念にもらったあたしんだから返してよ!」

悠理は焦るように僕の傍まで走り寄り、僕の手の中にある消しゴムを取ろうとした。
今度は上手い具合に彼女をかわしたが、動物的な彼女の機敏さには敵いそうになかった。
そうして僕達は何度もその消ゴムを取り合った末、僕は彼女に覆い被さるようにベッドの上に転んでしまった。

「悪い」

僕はそう言って彼女に体重がかからぬように両腕を突っ張るように伸ばしたが、僕の体はすぐには動かず、暫く彼女に覆い被さり、驚いたように僕を見上げる澄んだ茶色の瞳を見つめていた。
窮屈そうに僕の腕に彼女は手を置いたのをきっかけに、僕の両腕は彼女の手首を押さえつけ、その自由を奪い、衝動的に唇をも奪った。
すぐに彼女は身を捩って僕を突き放し、両手で顔を覆って荒い呼吸を続けていた。
泣いている気配はなかったが、衝撃を受けた様子ではあった。
悠理が落ち着いた時分を見計らって僕は彼女に近付き、その肩を抱いて申し訳なかったと告げた。
僕をゆっくりと見上げた彼女の瞳は感情が欠け、その表情は口付けによって滑り落ちていた。
僕はもう一度申し訳なかったと告げたが、彼女はただゆっくり頭を左右に揺らしただけだった。

 

 


野梨子が淹れてくれた緑茶はとても濃く、乾いた喉と心に深く浸透した。

「それで、悠理とはその後、ギクシャクしませんでしたの?何だか、そのような感じはあなた達の間に見受けられませんでしたが」
「ええ。悠理はあれで、僕よりも数倍も大人ですから。ただ・・・」
「ただ?」
「ただ、暫くしてから僕を見つめた、感情の戻った瞳で言われました」
「まあ、何と?」
「“もう少し、早ければ良かったのに”と」
「もう少し、早ければ・・・」
「ええ。もう少し、早ければ、です。言葉の本当の意味は分かりません。
悠理の婚約は嘘でしたし、だから婚約前に僕の気持ちを知っていれば、と言う意味には取れません」

多分ああ言った僕との狎れ合いで知り得た二人の感情が、もう少し早い時期であったら良かったのにと言う意味合いではないかと思われた。

「それはどう言う意味ですの?」
「僕への想いは、既に過ぎ去ったと言う意味だと思います」

野梨子は暫くその事について深く考えていたようだった。
次に口を開いた時、緑茶はすっかり冷めて喉を通った。

「私は逆だと思いますわ」
「逆?」
「つまり、清四郎の悠理への気持ちが既に過ぎ去ってしまったと彼女は感じたのではないかしら?」

衝動的に悠理の唇を奪ってしまったのに?

「その通りですわ。衝動的な口付けや悠理の結婚相手に対する清四郎の意見が、彼女をそう思わせたんですわ。きっと」

時は既に遅過ぎていたのだ、やはり。僕は思った。
取り返しがつかないのだ、もう。
分かってはいながら、こうして野梨子によって目の当たりにする事でそれが想像の世界ではなく現実なのだと突き付けられたようだった。

「元通りには、ならない」

僕は不意に口を開く。
そうして影灯籠のようにその後の悠理との間に起きた出来事が甦った。


 

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