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ドライブしていたらふわぁ~と浮かんだので文章にしてみました。
誤字脱字等ございましたらお許し下さい。。
それでは、良かったらどうぞ~。
はらり、と古い文芸雑誌の間から色褪せたカードが落ちる。
手に取って良く見ると、それはセピア色の写真。
多分、カラー写真がすっかり褪せてしまったのであろう。
写っているのは男の子。小学校中学年くらい。
「清四郎?」
悠理はじっとその写真を見つめる。
そう、清四郎。初等部の頃の清四郎。
前髪が短く前にまっすぐ垂れていて、横の髪も耳に揃えるように切られている。
まだ幼さが残るふっくらとした頬。
目鼻立ちははっきりしていて、引き締まった口元は意志の強さがこの頃から窺われる。
けれどその写真の瞳は、何だか頼りなげで不安そうだ。
困ったような、どんな表情をして良いのか悩んでいる感じ。
慣れない写真撮りに緊張しているのだろうか。
恒例の勉強会。
明日は数学のテストで、赤点の場合は週末に追試験が待っている。
今週末はメンバーで一泊の温泉旅行を予定しているから追試験は受けていられない。
放課後、直接清四郎の家に来てこうしてテスト勉強をしている。
さっきまで野梨子も手伝っていたが、日本舞踊の稽古があるとか。
ちょっと休憩しようと、清四郎は台所に降りて悠理の為におやつを用意している。
「待っている間に三問は解いていて下さいよ」
と、彼がいなくてもサボらせてはくれない。
そこは悠理。
一問目から気が抜けてすっかりサボりモード。
近くにあった雑誌(まさか文芸雑誌とは思わなかった)を手に取ったら、この古い写真を見つけた訳だ。
どうしてこんな不安そうな顔をしているのだろうと彼女は思う。
写真撮りくらいで、彼がこんな顔をするのだろうか。
あるいはこの時、何か面白くないことがあったのかも知れない。
ここはどこ?
背景も色褪せていて分かりにくいが、川縁のよう。
誰に向かってこんな顔をしているの?
誰が、この写真を撮っているの?
悠理は写真に向かって心の中で問いかける。
気になって仕方がない。清四郎が、幼い頃の清四郎が気になって仕方がない。
あたしの知らない清四郎がここにいる。
悠理の不安はここにある。
毎日近くにいて悪ふざけばかりして。
何をさせても優秀で、マルチな男。
けれどこの写真は?まるで知らない男の子のよう。
「こらっ!」
突然後ろから声をかけられ、彼女は驚いて写真をカーペットの上に落としてしまった。
清四郎はアイスティとビスケットが載ったトレーをテーブルに置き、悠理の横にかがんでそれを拾う。
「何を熱心に見ているのかと思ったら」
そう言ってくすりと笑う。
「僕も最近この雑誌にはさまれているのに気付いたんです」
顔を上げると意外にも近くに彼の顔があり、悠理は思わず頬を染めた。
「へ、へぇ~。誰に撮ってもらったの?」
彼女は何気なく、気になるところを訊いてみる。
「誰だったかな?多分サマーキャンプの所長さんか誰か」
「サマーキャンプ?」
「青少年センターか何かの」
「そういうのにも参加してたんだ」
「うん。学校行事以外にも機会があれば必ず参加しなさいっておふくろに言われてたからね」
悠理は、残念ながら参加したことがない。
「へぇ、なんだー」
思わずホッとして、悠理は言う。
自分の知らない清四郎が存在するのが不安だった。
理由は分からないけれど、それならばと安心する。
「野梨子は?参加してないの?」
「ええ。こういうのには、彼女は参加しない。
当時の野梨子は、ほら、人付き合いが苦手だったでしょ」
「うん、そうだったよね」
野梨子も知らない清四郎の表情なのだろうかとまた思う。
そうして、何故こんなにも彼のことが気になるのだろうと悠理は思った。
清四郎は悠理の横に座り込み、彼女に写真を見せながら話す。
「この時ね、ちょっと緊張しているの」
「あっは、やっぱり。ちょっと顔が固まってるよ」
「それでね、この写真を撮ってくれた人に言われたんだ」
「うん、なんて?」
「何か楽しかった事を思い出すと良いよって」
「へぇ」
「それでね、学校でいつも奇行を繰り返す同じ学年の女子を思い出した」
「ふうん」
「楽しい思い出って言われたんだけどね、何故かその女子を思い出しちゃって。
男の子みたいな腕白な女の子」
「ふぅ・・・ん」
「そしたらね、ほら悠理、僕の表情を見てごらん」
悠理はちょっと不可解な表情で差し出された写真を覗き込む。
「恋する少年みたいな顔に写っちゃった」
びっくりしたように彼女は清四郎を見上げる。
見る見る顔が赤くなり、そんな彼女を彼は声を上げて笑う。
「もうっ!!ばかぁ~」
マルチな男は悠理の心まで見透かしている。
けれど彼女は自分の不安な原因を知り、また清四郎がそれを理解して受け入れてくれていると、特別な言葉がなくても分かった。