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charm anthology

こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。

2014/02/15

あしたのむこう 7

ご訪問ありがとうございます!

お天気が大荒れで心配ですね。。
昨夜分の積雪は午前中で何とか払ったのですが、
午後から明日にかけて私の田舎ではまた大雪のようです。
ちょっと外出は控えた方が良いのかなと思っています。

皆様も外出時は気をつけて下さいね。


さて、本日も続きをアップです。
次回がラスト予定です!



*この作品はメンタルヘルス的な要素や現実とは違う症状を描いております。
また年齢制限がある(若い方には不適当な)文章も含んでおります。
その為、このような文章をご理解いただける方のみご覧下さい。
十代のお若い方やメンタルヘルス的・年齢制限を感じさせる表現を好まれない方はご遠慮下さい。
読後の苦情も受けません。















土曜日に急遽他校との生徒会長協議会に参加する事になった清四郎の代わりに、
魅録は悠理を見舞いに行った。
彼が最初に見舞ったのは二週間前で、それ以来である。
別棟施設の受付で、女性事務員は魅録の訪問を病棟の看護師に電話で告げた。


「はい、了解しました。ここで」


電話の受話器を置くと彼女は席を立つ。
受付のドアが開き、そこから事務員は出て来た。


「剣菱さん、今温室にいらっしゃるそうです。こちらの奥に温室がありますので私が案内します」


そう言って口元で微笑む。
魅録も微笑んで隣に並ぶと、恥らうように顔を温室へ向ける。
出逢った頃の野梨子を思わせる清らかさがあった。


「随分良くなられたそうですよ。院長先生のカウンセリングも大切ですが、
お友達の力もあったのだと、私思います」
「まだ話せないって聞いてるけど」
「はい。でも、感情表現がかなり回復しているようです。
毎日温室で軽い運動をしていますよ。多分、今も」
「そっか。良かった。悠理の笑った顔、今日見れるといいな」
「松竹梅さんのお見舞い、きっと喜びますよ。あのガラスのドアの向こうに温室があります」


二人は温室前に着く。
若い事務員はガラスのドアを開けた。


「剣菱さん、お友達がお見えですよ!」


事務員の声で悠理は振り向く。
彼女は温室の奥で、春の陽気のように晴れ上がった外の様子を窺っているようだった。


「悠理、元気か?」


魅録が近付こうと歩み寄ると、彼女は完全にこちらに身体を向ける。
では、失礼しますと魅録へ告げる事務員に顔を向けたその一瞬に、
悠理は素早く彼の目の前の花壇にジャンプして上がった。


「おっ・・・びっくり、した」


二週間前とは全く違う悠理の態度。
見上げる彼へ刹那、片方の口角を上げたように思えた。
綺麗だ、と魅録は素直に思った。
透き通るような白い肌とスカートから伸びる細い足、何より、心持ち女性らしいラインになった上半身。
今まで全く彼女に対して恋心を抱いた事はないと言い切れないが、ここまで“女”を感じた事はなかった。


「あ、危ないから、降りなよ」


視線を逸らそうとする彼に、悠理は両手を差し伸べる。
細い指先が、綺麗に十本並んでいる。
魅録は恐る恐るその指に触れ、自身も両手で彼女の手を握る。
数秒間、二人は見つめ合う。
午後の陽射しが彼女を包み、全身を輝かせた。
魅録思う。
自分は、この時を生涯忘れないだろう、と。
そして今後、このような形で彼女に触れる事はないのだと・・・
彼は彼女を、自分へ引き寄せるようにして降ろす。
目の前の彼女は魅録をじっと見つめ、“ありがと”と唇を動かした。


その後、悠理は魅録の腕を取って施設内の食堂に向かった。
午後の三時はお茶の時間と決められていて、病室か悠理のように軽い症状の患者は食堂でその時を過ごす。
彼女は手馴れたように自動販売機で食券を購入し、カウンターにいる職員に手渡す。
すぐに二人分のティーカップがトレーに置かれ、彼女はそれをテーブルまで運んだ。
魅録は心配そうに見守っていたが何事もなく席に着く事ができた。
食堂を見渡すとほとんどが病院関係者で、所々紛れるように患者がいた。
交代で休憩を取るのか、食堂の定食を食べたり弁当を広げている者が多い。


「この間よりずっと良くなっていて驚いた。声はまだ?
表情はかなりいいみたいだ」


彼女はうん、と頷く。
そして“清四郎”と口を動かした。


「清四郎は生徒会長協議会で他校と交流してる。急に決まったんだ」


悠理は唇をちょっとだけ突き出し、肩を竦める。


「何だ?俺では役不足か?」


もう一度頷き、目を細める。


「ははは。せっかく来たのに。俺だって傷付くぞ」


今度は首を左右に何度も振る。冗談だと伝えているのだ。


「うん、分かってるさ。なあ、悠理。みんな心配してる。
野梨子も可憐も、美童も。みんな会いたがってる」


もう少し、と悠理は親指と人差し指を使ってジェスチャーする。そして“待って”と口を動かした。


「ああ、もちろんさ。何時までだって待ってる。
もし悠理にとって待たれる事が苦痛じゃないなら」


彼女は表情を硬くする。
けれど何時かはメンバーとも向かい合わなくてはいけない現実を、彼女は既に承知している。
“大丈夫”と彼女の口は言う。


「悠理に何があったのかは知らない。原因は親友として知りたいが、それでお前が苦しむんなら知らなくてもいい。
何時か話せる時が来たら、話すといいさ。
俺だけじゃない、メンバーみんながそう思ってる。
今はありのままのお前を受け入れてる。そしてこれからのお前も大切にしたい。
これが待っているメンバーの思いだ。今日はそれを伝えに来た」


彼女はしっかりと首を縦に振る。


「俺は悠理の良いとこも悪いとこも、正しさも過ちも、全てを含んで好きだ。
それだけは忘れないで欲しい」


感情を含む瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
少しだけ聞こえる嗚咽が、もうすぐで声を取り戻せるのだと魅録は思う。
顔を覆って泣き顔を隠す仕草は以前の彼女のものではないが、この物腰の柔らかさは彼女がここで得たものなのだ。
そしてそれを与えたのは清四郎なのだと、彼は覚った。



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