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charm anthology

こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。

2014/02/10

あしたのむこう 6

ご訪問ありがとうございます!
作品への拍手も届いており、とても嬉しく思います。
ありがとうございます♪


さて、本日も続きをアップです。。


*この作品はメンタルヘルス的な要素や現実とは違う症状を描いております。
また年齢制限がある(若い方には不適当な)文章も含んでおります。
その為、このような文章をご理解いただける方のみご覧下さい。
十代のお若い方やメンタルヘルス的・年齢制限を感じさせる表現を好まれない方はご遠慮下さい。
読後の苦情も受けません。















自宅に戻ると午後七時を過ぎていた。
玄関のドアを開けると室内の暖かさと夕食の匂いに安堵する。
ホールには見慣れた革のジャンパーとブーツがあり、僕への来訪者を知らせた。
キッチンから母親が出て来て、応接室で魅録が待っていると言う。


「僕にほうじ茶を持って来て」
「分かったわ」


緊張が和らいだ所為か頭痛がする。コーヒーと言う気分ではなかった。
応接室のドアを開けると、ソファに座る魅録が片手を上げた。


「清四郎、何だか疲れて見えるぞ」
「ええ・・・とても疲れました」


悠理の様子が知りたくてこうして待っていたのだろう。
けれど何から話して良いのか、どこまで知らせれば良いのか、頭が酷く混乱した。


「疲れている時に悪かったな。日を改めようか?」
「いえ。ちょっと一息つけば」


すぐにほうじ茶が運ばれ、使い慣れた湯飲みで一息に半分飲んだ。


「悠理ちゃん、どうだったの?」


魅録より先に母親が訊く。母にしてみれば、悠理は娘のように心配なのかも知れない。


「大丈夫。時間はかかるかも知れないけど治るよ」
「まあ、本当?良かったわ」
「話せるのか?」
「いいえ、それはまだ。だけど彼女自身、病気の原因に立ち向かうつもりでいるから。
後は少しずつカウンセリングをしながら・・・」


僕は言葉を選びながら説明した。
母親は安心したように部屋を出て行く。後で夕食を二人で食べなさいね、と言いながら。


「そんなに良くなったのか?この間行った時は、回復にはかなり時間がかかりそうだと思った」
「もちろん、すぐには。でも悠理は事実と向き合おうとしている。
それだけでも充分に回復の見込みはあります」
「事実って・・・やっぱり病気の原因を知っているのか」
「いえ、それはまだ。けれど感情を押し殺すほどの事でしょうから。
緊張の糸を少しずつ解して行きたいと考えてます」
「分かった。俺に何か手伝える事はあるか?」
「ええ。もう少し落ち着いたたら、また悠理を見舞って下さい。ありのままの悠理を受け入れてあげて」
「もちろん。例え会話ができなくても、あいつの元気な姿を見れれば」
「僕は明日の日曜、もう一度病院に行ってみようと思っています。
彼女の行動や僅かな表情の変化を見たいので」
「ああ、頼むよ」


魅録は疑いなく了承したようだった。



翌日悠理の病院に着いたのは午後一時を過ぎた頃だった。
昨日と同じように受付を通り、直接病室へ向かう。
ドアは開け放され、悠理はベッドで寛いでいた。


「悠理」


ドアをノックしながら彼女の名前を呼ぶ。ゆっくり身体を起こして僕を見た。


「昨日約束した通り、来ましたよ」


昨日別れ際に、今日も見舞いに来ると約束したのだ。もちろん僕の一方的なものだが。
悠理はベッドから下りて襟のないブラウスとスウェット生地のスカートを整えた。
それから僕に近付いて腕を取る。


「どうしました?」


彼女はもちろん何も話さないまま僕を廊下へ連れ出し、それから奥へと進む。
僕の腕に自分の腕を絡め、時々僕を見上げては前方を指差した。


「何処へ行くの?」


途中、説明を受けた看護師に会う。



「あら、こんにちは。デートみたい。剣菱さん、良かったわね」


彼女は立ち止まり、頷く。


「あ、温室に行くのね」


看護師は僕を見て微笑み、それから悠理のように前方を指差した。


「向こうに大きな温室があるんです。と言っても、今の季節は空っぽの花壇だけですけどね。
患者さんが自由に散歩できるように暖かく温度設定しています。
剣菱さん、そこに菊正宗さんを連れて行こうとしてるんです」
「分かりました。ちょっと行ってきます」
「行ってらっしゃい」


奥にまた小さなエレベーターがあり、そこから一階まで降りる。
扉が開くとホールの前方にガラスのドアがあり、その向こうに温室が広がっていた。
悠理は僕の手を取ってガラスのドアを開ける。
中に入ると病院内と同じ位の温度が設定されていて暖かく、薄着の彼女も心配が要らないようだった。
温室と言うよりまるで巨大なサンルームのようで、壁も天井もガラス張りの為、陽射しが充分に取り込める。
看護師が言ったように花壇には土しかなかったが、地面に敷き詰められた板石や木製のテーブルとベンチが高貴さを醸し出していた。


「剣菱が寄付したんじゃない?」


彼女の背中に聞いてみる。けれどちょっと首を傾げただけだった。
温室には僕と悠理だけだった。
昼食を終えた患者は、ベッドでゆっくり休んでいる時間なのかも知れない。


「いつもここに来るの?」


僕の質問に、今度は振り向いた。
彼女の頬はほんのり色付き、普段の顔色で、とても病気とは思えない。
昨日久しぶりに会った時は、色のない頬に正直驚いた。魅録もそうであっただろう。
時々・・・と彼女の唇は答える。そして目を細めた。


「時々、来るんだね。悠理、凄いぞ」


彼女は口角を上げる。けれどすぐに顔が強張った。


「無理しないで。でもかなり良い感じ」


もう一度目を細め、それから僕の手を放すと同時に翻って僕から離れた。
慣れたように花壇の周りを歩く。
歩調はゆっくりで、目線は低く伏し目がちだが、歩く順番を決めてあるようで迷いがない。
僕はそんな姿をじっと見つめる。
広いと言っても周りを見渡せる程度だ。彼女を見失う事はない。この場所では・・・
スウェット生地の柔らかなスカートは彼女の平たい腹部にぴったりと沿い、細長い脚が裾から伸びている。
薄いブラウスの胸の僅かな膨らみは以前よりも存在があり、それがあの日の出来事を思い出させた。

僕はあの華奢な身体へ自身の肉体を埋め込み、貫くほどの勢いで中に全てを放った。
彼女はそれを受け入れた。
それは彼女が希望した事だ。彼女だけが・・・そうだろうか?
目の前を歩く彼女にもう一度触れたいと思う。
もう一度彼女の肌の温もりや匂いを感じたい。自身の肉体で彼女のそれを感じたい。
それが事実であり、この問題の鍵を握っているのではないだろうか。
彼女から発した突然の問題だが、僕を入り組んで解決の糸口がある。
彼女は口を利けないのではなく、声で伝える手段を一時的に失っているだけ。 
ならば僕がその失った手段を与えてやれば良い。

悠理を目で追いながら茫然と立ち尽くす僕を不思議に思ったのか、彼女は僕に近付く。
感情を帯び始めた瞳に不安の色が走る。
だから僕は彼女へ腕を伸ばし、うっすらと紅潮した頬に両手で触れる。


「僕は悠理の笑顔が見たい。悠理の・・・声が聴きたい」


彼女も僕の両手に手を重ねる。頬を寄せ、目を瞑る。


「悠理が、最初の相手に僕を選んだ事をまっすぐ受け入れたい。
理由は・・・今はいらない。いや、理由なんていらない」


彼女はじっと僕の言葉に耳を傾けている。

そう、僕には理由を聴く必要はなかった。







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