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charm anthology

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2013/10/04

夢のあとさき

おはようございます。
ご訪問ありがとうございます!


本日アップはショートストーリー。
大人の悠理ちゃんです。















窓の外ではまだ強い風が吹き続けている。
昨夜は嵐のように風が吹き荒れ、冷たい雨が窓ガラスを叩き付けた。
まだその激しさが残るように、目の前の林の木々が煽られるように円を描いている。
悠理はしばらくその光景を眺めている。
やがて灰色の雲から陽射しが洩れてくる。暖かな陽射しだ。
けれど風は無表情に木々を煽り続け、雲間には冷たさを感じさせる真っ青な空が窺える。
室内のエアコンディショナーの温度を上げ、コーヒーを作ろうとキッチンに向かった時、ドアがノックされた。
相手はもちろん分かっている。清四郎だ。
昨夜数年振りに父親の会社で再会し、食事と酒を共にしたのだ。
時間が随分遅くなった為に、彼女は現在所有するマンションの一室に彼を泊めた。
リビングのドアから廊下と壁で隔てたもう一室のリビング。そして寝室やシャワールーム。
彼女が友人達を時々泊める為に使用していた。


「鍵なんて掛けてないよ。入って」


ドアが音もなく開けられ、彼が入って来る。


「おはよう」
「おはよ。ゆっくり眠れた?」
「ええ。悠理は?昨夜は余り飲んでなかったけれど」
「最近、睡眠が浅いんだ。お酒の力を借りてもね、眠れない」
「何か悩んでるの?」
「ううん。体調の所為かな。月の半分はこんな感じ」
「そう。病院で診てもらったら?カウンセリングだけでも効果的ですよ」
「様子みて。コーヒー飲む?今作ろうと思ってた」
「ええ」


彼女は対面式のキッチンでコーヒーの準備をする。
清四郎はリビングのソファで、そんな彼女を何ともなしに見ていた。
顔色が優れない、化粧っ気を感じさせないその顔は、学生の頃とは随分違って大人びている。
端正な顔立ちが、余計にそう見せるのだろう。
もしあの時・・・と彼は思う。


もしあの時、僕が彼女の気持ちに応える事ができたのなら。
仮に今を、どのように二人で過ごしていたのだろう。
このような時間を過ごしていたのだろうか?
毎朝このように目覚めのコーヒーを彼女が淹れ、テーブルで向かい合いながら飲んでいたのかも知れない。
全て、良い仮定として。


「やだ。ジロジロ見て」
「思い出していたんです。あの時の事」
「あの時?」
「ええ。悠理が・・・僕に告白してくれた時の事」
「・・・・・」


彼女は目を逸らし、意識をコーヒー作りに集中させる。
思い出したくない記憶を、悪戯に甦らせたからなのか、彼女は怪訝な顔を隠せないでいる。
お湯が沸騰し、ポットからドリッパーにそれは移され、程なくコーヒーの香りが辺りを充満させる。
マグカップを食器棚から二つ取り出し、それぞれにたっぷりと注ぐ。


「正直に聴いていい?」
「ええ」
「あの時、どうしてあたしは断られたのかな?」


悠理は清四郎にカップを手渡し、彼の隣に座り込む。
彼女の手には、彼と色違いのカップが包まれるように持たれている。


「君には、僕が相応しくないと思ったから」
「!!」
「きつく聴こえるでしょ?多分。けれど、あの時の君には、僕はまだ不完全だった」
「・・・不完全?」


彼女は掠れたような声を出し、目を瞑り、ゆっくりと口元にカップを持っていった。


「不完全。僕は不完全だった。あのままでは君を傷付けるだけだと思った」
「恋愛に完全も不完全もあるの?」
「分からない、けれど」


彼女の両手で大切そうに包み込まれているカップは、まだ充分に湯気を湛えている。
ゆっくりと何度かに分けて、コーヒーは彼女の口に入っていった。
そんな彼女を清四郎は見つめ、自身のコーヒーを飲む。
少し濃いが、その苦さが二人の心情を表しているようだ。
それを察するように、悠理は口を開く。


「清四郎に振られてからもね、あたし、他の人に対して何度かそういう気持ちになった事があったよ。
恋愛って言うのかな・・・片想いの時もあったしね。ちょっといい感じになった時ももちろんあった」


けれどね。


「初めから完全な気持ちで挑んだ恋愛なんてなかったよ。
ちゃんとした想いだから好きだと認識するとか、完全だから気持ちを伝えるとかなんてないよ。
完全になってから恋愛をしようなんて、清四郎はおかしいよ」


不完全だからこそ想いはいつも不安で、脆くて、切なくて。
だからその想いを大切にしたいって願う。
もし互いの気持ちが通じ合えたなら、不完全なその想いを一緒に培って行くんだと思う。
手探りしながらさ。


清四郎はカップをテーブルに置き、軽いため息を吐いてから口を開く。


「随分大人になってしまったんですね、悠理は。僕は、まるで置いて行かれたようだ」
「今も変わらないの?恋愛すらも、完全じゃなくてはいけないの?清四郎君」
「どうだろう。多分、自分に自信がないんでしょうね」
「まさか。清四郎は完全だよ。うん・・・あの時は、そう思ってた」
「確かに、完全なんてあり得ない。殊に、恋愛に関して言えばね」
「清四郎は何でもできたけど、恋愛は不器用だよね」


二人は顔を見合わせて微笑む。
悠理もテーブルにカップを置き、ソファから立ち上がる。
窓の外では幾分風が弱まったようだ。窓辺に凭れ、じっと外を見つめる。


「前よりも況して、僕は君に相応しくないように思える。想いは、変わらないけれど」


彼女はゆっくり振り返る。


「あの時僕は、何時か君に相応しい男になって僕の想いも伝えようと思った。
でも時はただ過ぎて行くばかりで、あの出来事も現実だったのか分からなくなりそうだった」
「想いは、変わらないけれど?」
「ええ。想いは、変わらないけれど」

「もしあたしが今、ここでもう一度交際を申し込んだら何て言うの?」


清四郎はまっすぐ悠理を見つめ、微笑み、彼女へと向かう。


「こんな僕でも良いのなら、もちろんお受けしますと言います」

「何時かこういう日が来るといいなって思ってた。まさか現実になるなんてね」
「僕も。君は遠くなって行くばかりで、過去は過去のままだと思ってた」
「偶然?」
「いや、なるべくしてなったと信じます。長い道のりでしたが、僕の想いも悠理の想いも変わらなかったのですから」
「必然」
「ええ、必然です。僕にとって、今までの時間は必要でした。そうでなければ、完全さばかりを求めていました」
「あたしも必要な時間だった。清四郎への想いが強固だと分かったもん」


悠理・・・


彼は彼女の名前を囁き、華奢な体を抱き寄せる。
しばらく互いの温もりを確かめ合う。


夢みたいだ。


そう思ったのはどちらだろう?
けれど夢は、現実になるべくして二人の前に訪れた。








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