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charm anthology

こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。

2013/09/01

プールサイド

こんにちは!
ご訪問ありがとうございます♪


パパッと書き上げたのでアップです。。
誤字脱字等がございましたらご了承下さい。













屋内プールの天窓からゆったりとした午後の陽射しが流れている。
陽射しを受けている水面は規則的に幾何学模様を描き、滑らかに揺れていた。


プールでは誰も泳いでいない。
仲間達は昼食を取りにダイニングルームに向かったから。
僕と・・・珍しく悠理だけがこの場所に残っている。
彼女は今、水着姿でビーチチェアに寝そべって眠っている。
さっきまで魅録と、ずっと競い合いながら泳いでいたから疲れたのだろう。
僕は皆に先に食事を取るように勧め、彼女が目を覚ますまでここにいると伝えた。
彼女はぐっすりと眠っている。
まるで人形のように動きもしない。
ただ僅かに動く胸が(それは小さくても形が良かった)、安定した呼吸を表していた。



こうしていると本当に人形のようだな。



起きていると落ち着きがなく、時には辟易するほどうるさいのに、今は緻密な細工を施されている蝋人形のように美しかった。
美しいなんて形容詞が普段の悠理からは浮かんでも来ないのに、だ。
彼女に顔を近付けてじっと見ていると、すぅっと大きく息を吸い込むものだから、慌てて顔を離してしまう。
その事をちょっと残念に思いながら、僕も彼女と同じように体をビーチチェアに横たえ目を瞑った。
こうしていると小さな音まで聴こえそうだ。
彼女の呼吸する音も、水面の揺れる音も。
僕は急に眠気に襲われ、意識が遠退く瞬間、懐かしい香りを感じた。



“清四郎”と、名前を呼ばれたような気がして目が覚めた。
でも意識だけが覚醒し、体は動かない。やっと瞼を開いた感じだ。
眠る前から今でも香るのは、懐かしい記憶と甘く切ない想い。



「清四郎ってば。起きた?」



僕の顔を覗きこんでいるのは、さっきまで隣で眠っていた悠理。
困ったような、けれど僕の寝顔を楽しんでいた様子が窺える。



「みんなは?」
「昼食。今何時かな?食べ終わった頃かも」
「間もなく午後一時。終わったな」
「そう、ですね。一息ついて、戻るでしょ」
「起こしてくれればいいのに。お腹空いた。メシ、残ってないかも」
「まさか。あるでしょ。それに、魅録と競い合っていたから疲れたと思って、気を遣ったんですよ」
「そう。まあ、いいけど。早く行こうよ!」
「それにね」



昼食を急かす彼女を無視して、僕はまた目を閉じビーチチェアで体を隅々まで伸ばす。



「寝不足だと思って。ほら、僕からの課題があったでしょ?」
「あ、作文?え、期限ってあったの?」
「ないですけど、早めにお願いしますよ。添削だって必要だし、今年中には、ものにしたい」



夏休みの宿題にある作文。
今年は“人権”をテーマにした作文だった。
添削を頼まれて・・・案の定、文法表現はメチャクチャだった、けれど。
悠理の文章にはちゃんとした“正義感”や“友情”、“家族との関係”が描かれていて興味を持てた。



「悠理。学校の宿題はまぁ良いとして、ちょっと小説でも書いてみないか?」



もしかしたら、結構良い作品が出来上がるかも知れない、と僕は思った。
文法的な問題なら、僕が傍にいてアドヴァイスすれば良いのだ。
それに小説とは、文法の技術よりも人を惹き付ける文章力が必要なのだし、
彼女にはその素質があると感じた。
来年度、出版社が主催するコンクールにぜひ出品させたい。



「ジャンルは問わない。まずは自由に書いてみたら良い」



そうして自由に書かせてはみたけれど、最後まで書き上げられるものは何一つない。
時に冒険小説であり、ファンタジー小説であり、ノヴェライゼィション風だったりして面白いのだが、
ほとんどが掌編で完結しなかった。



悠理が吐いた深いため息が、プールサイドに風のように響く。
その小さな振動の所為か、何処かで水の弾く音が聞こえた。
二人で音の方を見たが、プールの水は滑らかに揺れているばかりで、水の輪を描いてはいない。



「もう止めたいんだけど。冒険でも何でも、突き詰めれば勉強不足だし、今更詳しく調べたり、ヤダ!」
「うーん。もっと身近なものを題材にしたら?例えば、僕達の友情とか」
「出逢った頃から、今まで?」
「でも良いし、限定した相手でも良いし。友情じゃなくて、女の子が得意そうな、恋愛をテーマにしても良い」
「恋愛!?まさか、あたしが!!」



ふざけたようにビーチチェアに倒れ込み、手足を椅子からだらりと下げた。
彼女の恰好が可笑しくて、しばらく様子を見ていると不思議な感慨に落ちた。
彼女のスマートな顎のライン、余分な肉などない肢体、細いながらも女性らしい丸みを帯びた腰周り。
困った事に、僕を男と認めていないのか、両足が微妙な形に開いていた。
同時に頭に浮かんだのは、彼女が最後まで文章を書き上げられない理由だった。



「経験、でしょうね」
「え?」



悠理はそのままの状態で視線だけ僕に向ける。



「今からいろいろ準備するには、ね。夏休みも終わっちゃうし」
「だから?」



だから“恋愛”なら、これと言った準備は必要ないし、進行しながら描く事だって可能だ。
友情は恋愛よりも相対するものが多いし、ある意味面倒くさい。



「だから、僕と悠理なら、描きやすいと思うんです」
「???」
「経験を積む事によって文章表現も豊かになるし、お互いの成長にも繋がる。
良いことだらけ」
「なんだー?そんなコトより、早くメシ行こうよ!!」



さてそれで?どうやって進行させる?
まずは二人が、恋人同士にならなくてはいけない。
片想いから・・・でも、どちらがって、僕からでないといけないのか?
悠理を振り向かせるにも、やはり僕の想いがないとダメか?



「うう~ん」



僕はビーチチェアで半身を上げ、悠理を見つめる。
そんな僕に、彼女は顔を赤らめて抗議した。
けれど頭の中で妄想が始まり、止める事ができなくなっていた。


例えば・・・例えばこのプールサイドで彼女を押し倒したらどうなるだろう。
力では僕に敵わないはず。
抵抗する体を床に押し付け、口付けと愛撫を繰り返して一気に水着を脱がせてしまう。
そうなると完全に抵抗はできなくなり、その間に僕自身を彼女の中に滑り込ませる・・・



「果たして、それは恋愛と言うのだろうか?」



まだ何か言いたそうな彼女をじっと見つめる。
けれど目の前の彼女と妄想の中の彼女が重なり、思わず自身の体が反応してしまった。
こんな時に水着姿だなんて、と自分を恥じた。
お蔭で彼女側の脚の膝を立て、反応した部分を隠さなくてはいけなくなった。


それにそんな風に彼女との関係を作ったら、恋愛どころか友情すらもなくなってしまいそうだ。



「難しいですね、やっぱり」



せっかくの初コンクールなのに。



「ねぇ~メシは?あたしと清四郎の恋愛小説を書けばいいんだろ?
ガンバってやってみるから、メシ行こうよ~!」



ビーチチェアから起き上がり、僕の腕を引く。



「え?」
「だって“僕と悠理なら”って、そう言うコトだろ?」
「ええ、まぁ・・・」



意外な(妄想はしていたけど)急展開に僕は呆気に取られる。
それは自分の予想を遥かに超えていたから。



「良いんですか?」
「いいって、今更!いいに決まってんじゃん!」



僕は恐る恐る起き上がり、彼女を見つめる。
体の反応はかなり落ち着いていたが、一応両膝を立てた。



「う~ん、さすが野性の勘ですね。僕の気持ちが分かるなんて」
「ひとこと余計だよ」



僕は彼女の細く滑らかな肩に手を置く。
肌はすべすべとして指が吸い付きそうで、弾力もあった。



「ねぇ、そろそろ・・・」
「悠理。黙って」



ダイニングルームに行きたがる彼女を制して唇に人差し指を立てる。



「な、なに?」



プールサイドに先程の静けさが戻る。
天窓の陽射しが幾分傾き、屈折した光が綺麗な線を描いていた。
悠理は少し驚いた瞳を僕に向けたが、重ねるように視線を返すと静かに瞼を閉じた。
長い艶のある睫毛が影を落とし、それが彼女を大人っぽく見せる。



「今から、進行形で」



僕はそう言うと、自然に閉じた彼女のふっくらとした唇に自分のそれを重ねる。
ただそうしているだけでも、心が疼き切なくなった。



「清四郎の匂いって、何だか懐かしい感じがする」



唇が離れて、彼女はそう言う。



「さっき、僕もそう感じた」
「さっき?」
「ええ。悠理が寝てる時」



ちょっと分からない、と言う風に首を傾げる。



「小説の書き出しは、キスからがいいの?」



ああ、と僕は思う。
悠理は、これも小説の為の経験だと思っているのだ。
自分で言っておきながら、何と言う事だろう。
心の疼きが、現実的な痛みに変わる。
やれやれ、これが恋の痛みなのかも知れない。



「小説は、もう書かなくても」
「どうしてさ?あたし、結構いいのが書けそう」
「え?」
「“恋”って、何だか変な感じ。キスも。嬉しいのに、どっか苦しい」



その気持ちを文章で表すって、ステキな感じがするんだ。



「ステキ、ですか?そうですね。悠理がそう思ってくれるなら、きっとステキな恋愛小説になりますね」
「うん」



僕達は見つめ合い、微笑みを交わした。
さっきとは違った僕達の関係に、心が満ち足りる。
ビーチチェアの上で向かい合い、互いの両手の指を絡めてまた唇を重ねる。


プールサイドの向こう側で、仲間達の驚いている顔が見えた。






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