こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。
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さて本日アップは、“想いを、遠い明日へ”の続編です。
リクエストをいただいていたのですが、大変遅くなりました。
申し訳ございません。。
魅録の好きな相手も気になるところですが、そこまでは届かず・・・
ただ、悠理の心の変化を感じていただけたらと思います。
旧サイトでいくつかの続編を予定しておりましたが、
なかなか手付かずのままで・・・どうぞお許し下さい。
こちらのブログでは、無理のないように一つ一つ作品を描いていこうと思います。
これからもよろしくお願い致します。
こめかみを流れる汗と静かに吹く風が運んでくる草いきれが夏を思わせる。
まだ夏にはしばらく時間があるけれど、今日はとても暑くて制服のブラウスの袖を巻くっていた。
もう何回目かの水切り。
どうしても向こう岸まで石を届かせたくて。
でも、ちっともうまくいかない。
あたしはもう一度石を手にする。
平たくて、まるっこい石。
細かいフォームは知らないけど、体を低くして石を水面にこすりつけるように投げる。
手首のスナップを利かせて、石を回転させる。
一回、二回、三回・・・また、ダメ。
軽いため息を吐いて、砂利にしゃがみ込む。水切りに相応しい石を探さないといけない。
「悠理。どうしてこんな所にいるんです?」
急に後ろから声をかけられてびっくりして立ち上がり、振り返ると清四郎がいた。
「あ、清四郎」
「あ?って。今日の放課後、図書室で待ち合わせてたでしょ?なんで来ないんです?」
「あ・・・そうだった。忘れてた」
「都合悪いのは、すぐ忘れる。全然来ないから、もう帰る途中でした。
どうします?テストは来週でしょ?僕の家で勉強しますか?」
「うう~ん」
急に現れて捲し立てられても。頭回んないよ。
最近余計に思考回路がストップ気味。
「そうだ、悠理。携帯に電源入ってないですよ。何回も電話したんですから」
「ああ~。それは、そうだよ。携帯は持ち歩いてないもん」
「なんで?」
「なんでって」
そこでまた思考はストップ。
なんでって言われても、なんでだっけ?
清四郎は不思議そうにあたしの顔を覗き込んでいる。
でもしばらくすると納得するように頷き、哀しそうに視線を向こう岸に逸らす。
「ここで何してたの?」
「水切り。向こう岸まで届くように。でも、全然」
「どれ」
清四郎は足元の適当な石をひょいと持つと、姿勢を低くして石を投げた。
一回、二回、三回・・・
「お見事!」
石は清四郎によって、無事に向こう岸に届けられた。
「スゴイじゃん、コツを教えてよ」
「良いですよ。でも、どうして約束をすっぽかしたか教えてくれたらね」
「え~っと」
返事に困っていると、清四郎はまた水切りを始める。
何回やっても、石は簡単に向こう岸に着いた。
そんな光景をじっと眺めていたら、頬に熱いものが流れてきた。
なんで清四郎には簡単で、あたしには難しいのか分からなくて。
携帯がどうとか、テストがどうとか、急に現実に引き戻されて。
ざわざわと草を鳴らしながら強い風が吹く。
さっきと違って風は冷たく、汗をかいた体は急激に冷えた。
「む、向こう岸に石が届いたら、あたしの願いが叶うと思ったんだ。
でも、ちっとも届かなくて。どうして清四郎にはできて、あたしはダメなんだろう」
「悠理・・・」
じわ~っと涙が音を立てるように目から流れ出る。
手足はすっかり冷えちゃってるのに、顔だけが熱い。
「どうして、あたしはダメなんだろ?どうして願いが叶わないの?」
鳴らない電話を待つのに疲れて、だから携帯持つのを止めたのだと思い出す。
清四郎は水切りを止めてあたしに近付き、ポンポンって頭を叩く。
その強さが何時になく優しくって、大声で泣いてしまった。
「泣け泣け。思いっきり泣いて、すっきりしろ」
無責任な男。あたしを現実に引き戻しといて。
「僕なんか気にしないで泣くといい、悠理」
言われた通り喉が痛くなるまで泣いたら、幾分すっきりした。
ちょっぴり照れくさくて、清四郎の視線を避けるようにしていたら、今度は頭を撫でられた。
「悠理。石が対岸に届いても、願いなんて叶わない。そうだろう?」
清四郎の言っている意味、頭では分かってるさ。でも。
「悠理の想いは、魅録に届いている。けれど、これが現実なんだ。
今はまだ辛いだろうけれど、きっといつか、笑って今日の日を思い出す時が来るさ」
やっぱり無責任な男。
見る見るうちに、視界が曇り出した。
「はい、悠理。石をどうぞ」
無責任な男は、薄情でもあるんだ。
清四郎はあたしに石を握らせる。
目をこすりながら手の平を見ると、石はゴツゴツして凸凹している。
「こ、こんなんじゃあ、できないよ。もっと平らでツルツルしてなきゃ」
でも、手の平にあるその石を、そっと上から押さえつけて言う。
「これは、今の悠理の心の中にある痛みの原因。ゴツゴツして凸凹」
これでは、胸に当たって痛いね。
清四郎の言っている意味が分かんないけれど、余計に胸が熱くなって。
胸ん中に石なんか入っているワケないのに、痛かった。
「でね、この石」
まるで手品みたいに、清四郎の片方の手から平らでツルツルの綺麗な光沢のある石を出した。
艶やかな黒で・・・清四郎の瞳に似ていた。
「この石だって、最初は、ゴツゴツの凸凹だったかも知れない。
けれど長い時間をかけて川を流れ、他の石とぶつかり合って、
しだいしだいに角が取れて丸くなったんだと思うよ」
「うん・・・」
今はまだ胸の痛みが酷くても、この石は悠理と共に歩く。
最初はゴツゴツしてるから上手く歩く事ができないけれど、
少しずつ少しずつ角が磨り減って歩きやすくなって行く。
その内きっと、悠理よりも早く走れるようになるかも知れない。
必ず、そうなりますよ。
「さあ悠理、この石で水切りしてごらん」
清四郎は手にしていた艶やかな黒い石をあたしに握らせた。
「その石なら、向こう岸まで届くはず」
ああ、やっぱり清四郎だ。
あたしは、久しぶりに安らいだ気持ちになっている。
「ううん。水切りは、もう止めた」
「なぜ?」
ゴツゴツ石とツルツル石。
あたしは両手にこの二つの石を並べる。
「この二つ、大切に持ってる。いつか、今日の日を懐かしく思い出せるまで、持ってる」
いいでしょ?
見上げると、優しい清四郎の笑顔があたしを見つめている。
清四郎は何も言わなかったけれど、分かってるんだ。
あたしの心の中の石はまだまだゴツゴツしてるけど、
角が取れるまで、そんなに時間がかかんないんじゃないかなって思える。
なんでかな。そう、思えるんだ。