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charm anthology

こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。

2013/05/02

僕を夢中にさせるのは

こんにちは!
ご訪問ありがとうございます。
 

拍手、またランキングへのクリック、ありがとうございます!
とても励みになっております。
 

さて、本日アップの作品は・・・最近何度か読み返している
 

“The Catcher in the Rye”
 

から。
20年位前に“野崎孝”の翻訳で読み、今は“村上春樹”翻訳で読んでます。
互いの微妙なニュアンスを楽しんでいます。
ラストのシーン、ホールデンと妹のフィービーのやりとりがとても感動的で、
何度読み返しても、どちらの訳者でも、感動せずにはいられません。
また、その二人のやりとりが、今回の作品へと繋がりました。
 

まるで子供のような二人の会話を楽しんで下さいね♪
 


次回作は・・・リクエスト作のアップ・・・になると良いのですが・・・







 

 








目が覚めた時、気持ちは晴れていなかった。
身体も重く感じて、僕はその理由を思い出す為に頭を巡らす。
隣のベッドの軋みが大きく、寝返りを打つ親友の背中を見て思い出した。
 

昨夜、魅録達と口論になった。そうだ。
 

僕達は週末を、できたばかりのリゾート地で過ごしていた。
剣菱グループ所有のリゾート地。
遊園地や宿泊施設がある、でも小さめのものだ。
もともと観光地である為、僕達は到着してから温泉やその土地の名所を見て歩いた。
そして今日・・・
遊園地のオープニングフェスティヴァル。
メンバー全員が楽しみにしていたイヴェントだ。
 

だけど・・・
 


「ナンだよ。せっかくみんなが楽しみにしていただろ?」
「ええ。でも、陶器市は明日までだと、その会場のスタッフが言っていたんですよ。だから」
 


たまたま昨日、名所巡りをしていた時に見つけた陶器市。
すっかり見入ってしまったものの、時間が遅かっただけにゆっくり見ている時間がなかった。
オープニングフェスティヴァルが終わったら、と思ったが、陶器市は今日が最終日で、時間は午後三時までだった。
 


「オープニングフェスティヴァルなんて何回も参加してるし、同じでしょ?
僕がいなくても良いじゃないですか」
「そうじゃないだろ?俺達全員が招待されてるんだし、何よりも悠理が楽しみにしているんだぞ」
「そうですけど・・・後で向かいますから。悠理だって遊べればそれで良いんだし」
 


正直、遊園地のオープニングフェスティヴァルなんて、今の僕には興味がなかった。
そんなイヴェントより、僕は・・・
 


「みんなで参加する事に意義があるんだろ?陶器市なんて」
「みんなで?どうせただ騒いで終わるだけじゃないですか!」
「みんなでいるから楽しいんだろ?悠理だって」
「悠理、悠理って、魅録が悠理といればそれで良いじゃないですか」
 


昨夜の寝室での魅録との口論は、ただエスカレートし、最終的には皆を巻き込んでしまったが。
 


「勝手にしろ」
 


と言う魅録の言葉で終息を向かえた。
いつもは一緒になってヒートアップする悠理が、野梨子の後ろで淋しそうに僕を見つめていたのが印象的だった。
 


「僕、オープニングフェスティヴァルにも陶器市にも、出かける気がなくなりました。
悪いけど、明日一番の電車で帰りますよ。雰囲気も悪くしちゃったし」
 


調度、ESP研究会での資料作成を頼まれていたんでね。
 


寝る前に向かったバスルームで、悠理とすれ違った時に僕はそう言った。
 


「うん。分かった。仕方ないよね」
 


彼女はそう、僕を見ずに言った。そしてお休みと言って寝室へ向かった。
 

 

そして、今。
時刻は六時半で、始発はもう行ってしまっただろう。
僕は着替えて、さっと荷物をまとめ、まだベッドで眠っている友人に声をかけずに部屋を出た。
途中、バスルームに寄るのも忘れずに。
真新しいコンドミニアムのエントランスの扉を開け、一歩踏み出すと・・・
 


「わあっ!!」
「おはよ、清四郎」
 


そこには悠理が、初夏のような陽射しを背中に立っていた。
 


「な、何してるんですか?」
「何って。清四郎を待ってたんだ」
「ナンで?」
「んんっと・・・」
 


口ごもる彼女の足元には、奇抜な配色のキャリーバッグ。
 


「何です、これ?悠理のじゃないですか?」
「うん」
「どこに持って行くんです?」
「どこって、別に。自分の荷物だもん。自分で持って帰るんだよ」
「え?帰る?どうして?」
「あ、あの・・・」
 


彼女は僕を見上げ、お願いするように両手を合わせた。
 


「あたしも一緒に帰る!いいでしょ?」
「は?何言ってるんです?今日はお楽しみのオープニングフェスティヴァルでしょ?」
「あんなの、いいもん。清四郎が帰るんなら、あたしも帰るもん」
「ダメだ!戻れ!」
 


僕は彼女のキャリーバッグに手を伸ばすと、彼女は素早くそれを手に走り出した。
 


「こらっ!待て!」
 


すぐに追いついたものの、彼女の肩を触れようとしたり、バッグに手をかけようとすると、相変わらずの速さで避けられた。
 


「今日は楽しみにしてたんでしょ?悠理。魅録が言ってましたよ。
お前が行かなくてどうするです?みんながっかりするでしょ?」
「清四郎が行かないんならおんなじだもん」
「ダメだよ。今すぐ戻れ。魅録が心配するから」
「心配なんてしないもん」
 


我が儘で分らず屋な悠理に、僕は完全に腹が立った。
歩くのを止め、大声で怒鳴る。
 


「ダメって言ったらダメ!戻れったら戻れ!お前となんか帰んない」
 


彼女も立ち止まり、びっくりしたように僕を振り返った。
見る見るうちに大きな目に涙が溜まり、顔が歪んだ。
 


「わぁ~ん!!」
 


まるで子供が泣くような姿だったけれど、無視をして前を通り過ぎる。
僕が離れれば離れるほどその泣き声は大きくなるばかりで、正直、チラチラと見る周りの人の目が気になった。
もう七時近くだ。
天気も良いし、朝の散歩を楽しむ人と何度かすれ違っているのだ。
ちょっと迷ったけれど引き返し、彼女のキャリーバッグをひょいと持ち上げた。
今回はすぐに手にできた訳だ。
 


「泣くな。コンドミニアムまで送るから」
 


キャスターを使うほどの重さでもなく、僕は自分のバックパックを背負い直して彼女のバッグを持った。
しばらく歩いても、彼女が追いかけてくる気配がなく、振り返ると彼女は駅に向かってトボトボ歩いていた。
 


「バカ!悠理、戻れ!!」
 


何度呼んでも、彼女は振り返らずに歩いて行く。
仕方なく、また駅方面へと向かう。
 


「悠理、今日のオープニングフェスティヴァル、楽しみにしてたんだろう?
魅録が“すっごく”心配してるんですって」
 


彼女は口を利かない事を決めたみたいに僕を無視して歩き続ける。
 


「僕が送りますから。戻ろう?戻ろうね!」
 


それでも無視する彼女を追う内に、駅が目の前に見えてきた。
 


「分かった!悠理こうしよう」
 


僕は背中にバックパック、手には奇抜なキャリーバッグと言う情けない姿で小走りし、彼女の前に立ちはだかった。
 


「ね、僕はもう帰らない。今決めました。だから戻ろう」
 


決志の僕(もう、どうでも良くなった)の傍を、彼女はなおも通り過ぎようとするので、あいてる片方の手で腕を掴む。
 


「悠理。僕はもう帰んないから、一緒に戻ろう。
陶器市には行かないで、みんなとオープニングフェスティヴァルに行きますから、ね?」
「そう?あたしは帰るって決めたんだ。清四郎は好きにしなよ」
「悠理!」
 


手に力が入り、彼女の顔が歪む。
 


「痛い!痛いってば!!」
 


いっそう泣きそうに顔が歪み、真っ赤になった。
言う通りにならない彼女に本当に腹が立ち、更なる力を込めた。
とうとう彼女はさっきのように大声で泣き出し、その場にしゃがみ込む。
僕は彼女を見下ろし、周りに聞こえない程度の声を出す。
 


「魅録が悠理を思って言っていたのが分からないのか?
ここでお前が帰ったら、来た意味がないようなもんでしょ」
 


僕もしゃがみ込み、彼女の肩を抱くようにして立ち上がらせる。
 


「ね?」
「知らないも~ん!」
 


あっと言う間に悠理は僕を払いのけ、駅へと走る。
 


「勝手にしろ!僕は戻るから。じゃあ」
 


何だか本当にどうでも良くなった。帰りたいなら勝手に帰ればいいさ。
僕は僕で過ごせば良いのだ。
この奇抜なバッグをコンドミニアムのエントランスに放り込み、陶器市に行っても構わないのだ、もう。
悠理を完全に無視し、僕は通りを歩く。
足早に歩を進めていると、カーヴミラーに彼女が映った。
そう、彼女は僕をこっそり追って来ていたのだ。
僕は心持ち歩を緩め、コンドミニアムへの道を逸れた。
案の定、僕の背中に声がかかる。
 


「清四郎、どこ行くの?そっちは違うだろ?」
 


僕は急に彼女を振り向き、その腕を取る。
 


「わっ!」
「悠理、遊園地に行ってみよう」
「え?でも、まだ開いてないよ」
「良いですよ」
 


もう反抗してこないのが分かったので、腕を放し、その代わりに手を握った。
念の為、互いの指を深く組む。
片方にはキャリーバッグ。もう片方には彼女の手。
まるで保護者のようだった。
 


「ねぇ、清四郎。あたしもう逃げないよ」
「知ってますよ」
「だからこの手、放してよ」
「もうちょっとしたらね」
「うん・・・ねぇ・・・」
「何ですか?」
「あのさ、その・・・本当に帰んない?」
「ええ、帰りませんよ」
 


素っ気ない僕の返答に、彼女はまだ不安そうだった。
 


「怒ってないの、清四郎?」
 


今度の質問の答えにほんのちょっと悩んでいると、目の前に大きな観覧車が見えた。
すぐに悠理の注意はそちらへと向かい、僕の手を引くようにして前に進む。
 


「わぁ。もう少ししたらここが開園して、観覧車に乗れるんだね」
「そうですね」
 


早朝からたくさんのスタッフが、忙しそうにオープニングフェスティヴァルの準備をしている。
派手な装飾が、剣菱所有を思わせる。
彼女は食い入るように遊園地の柵を片手で掴み、中を見つめていた。
しばらくそうしていると、指を絡めていた手に、彼女はぐっと力を込める。
 


「清四郎、本当に本当?さっき言った、帰らないってこと」
「ああ、本当です。もう帰らない。悠理と一緒にオープニングフェスティヴァルに出ます」
「約束?」
「ええ。約束」
 


不意に悠理は、空いている片腕を僕の首に巻き付けるようにして抱きついてきた。
 


「ど、どうした?」
「清四郎・・・」
 


彼女は・・・とても甘い香りがする。
それは、初めて知る香りだった。
彼女のキャリーバッグを放し、僕もその片手を彼女の背中に回した。
もっともっと、彼女の香りを知りたい。
 


「ねぇ、魅録と仲直りしてくれる?」
 


僕達は指も腕も身体も、しっかりと絡め合っている。
 


「ええ。大丈夫ですよ。ちゃんと謝りますから」
「良かった」
「うん」
 


悠理はギュッと僕を抱き締めてくる。
 


「清四郎、大好きだよ!」
「えっ?あ、僕も。僕も、悠理が大好きです」
 


周りの目がちょっと気にはなったが、朝、起きた時とは打って変わり、僕の心は完全に晴れ上がっていた。
互いの存在を確かめ合うようにしっかりと抱き合うと、どちらからともなく身体を離す。
目を合わすと、悠理が照れくさそうに微笑んだ。
 


「悠理、朝ごはんを食べに行こう。朝ごはん、まだでしょ?」
「うん」
「きっと今戻っても、僕達の朝ごはんはないですよ。駅前に行って、ハンバーガーでも食べよう」
「うん。お腹空いた」
 


身体が離れても僕達の指は組まれたままで、彼女は僕を引っ張るように足早に駅へと向かう。
キャリーバッグは、相変わらず僕が持って。
でも、彼女の汗でシャツが貼り付いた背中を見ていると、楽しい気分になった。
 

彼女の行動には多分、深い意味はないと思う。
友達として、仲間として、再確認をしたかった。安心したかった。それだけなんだと思う。
 


太陽の陽射しが段々と強くなり、心持ちか空が青くなった。
今日は、遊園地のオープニングフェスティヴァルに相応しい日だ。
それを感じてか、彼女も嬉しそうに僕を振り返る。
 


ねぇ悠理。
魅録みたいに“愛してる”では、ないんですね。
僕は声に出して聴きたかったけれど、彼女が大好きって言ってるんだからそうなのかなって思えた。






 

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