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自室に戻ると、男山が何事もなかったように俺を迎えた。
ソファの上にはさっきと変わらずに悠理の携帯電話が置かれたままだ。
多分明日の朝一番に、元気な姿でここに入って来るんだろうと思う。
声に出してみれば、意外と簡単なコトって多い。
「結局良かったんじゃねぇの?なぁ、男山」
つい数時間前まで悠理がそうしていたように男山はソファの上を陣取って、
この数日間の彼女の存在すら感じていないようだった。
緊張感がまるでないように大きな口を開けてあくびまでしている。
俺もソファに深く座り込み、両足を投げ出した。
目を瞑り、昨夜の記憶を呼び起こす。
悠理はいつも夜になると、俺の特大サイズのベッドに寝そべった。
一緒に寝ようとか、俺を誘い込むとか、そんな色っぽい意味ではない。
俺達二人に限って・・・そんな事は、ない。あってはならないのだから。
昨夜もそうして悠理はベッドに寝そべった。
だから俺も、大袈裟にベッドに倒れ込んでみた。
ベッドが大きく揺れてちょっとびっくりしたようだったけれど、彼女は声を出して笑った。
本当は、俺の気持ちが分からない彼女への仕返しのつもり。でも通じなかった。
仕方なく、俺も笑った。
「お前達、もっと話し合えないのか?」
悠理の顔から笑顔が滑り落ちる。
「清四郎・・・怖いから・・・今は、上手く説明できない」
「そうか」
一瞬にして沈黙が訪れる。
気まずさだけが俺達の間に流れた。
「なぁ、悠理。今すぐに答えを出すんじゃなくてさ、何て言うのかな、これから考えればいいよ。
こうして距離をおいて清四郎の事決めるんじゃなくて、二人でゆっくり答えを出して行くってできるだろ?」
また気落ちしたようにベッドにうつ伏せる。
男山が心配そうに顔を探って舐めていた。
悠理の細い腕が、男山の背を摩る。
その姿が痛々しいと思うと同時に、こんな風にさせた清四郎へ怒りが込み上げた。
「あんな冷たいヤツなんて忘れて俺と一緒になればいい。
俺なら、悠理を笑わせてばかりいるぜ。いつもさ」
思いもかけない自分の言葉に、一層気まずさがだけが漂う。
上げた顔は今にも泣きそうで、笑って誤魔化そうにも唇が引き攣った。
「あっは。清四郎の親友とはムリだよ。魅録はあたしにとっても大切な親友だもん」
必死に笑顔を見せようとする健気さに、罪悪感を感じる。
よりによってこんな時に、だ。
「確かに、そうだよな」
「そうだよ」
もう寝るね。
悠理はベッドから起き上がると寝室へ向かう。
「悪かったな。おやすみ」
「ううん。ありがとね。嬉しかったよ」
“親友とはムリ”と言う彼女の言葉を思い出す。
「親友とはムリって、清四郎だって最初は友達じゃん」
きっと意味なんてないんだろうけど。
何だか胸にポッカリ穴が開いたみたいだ。
失ってもいないのに・・・俺は、何も失ってはいないのに、やけに虚無感があった。
二人は今、どうしているんだろう。
夕方の公園から、清四郎と帰ってしまったけど。
「きっと、うまく行くさ。男山もそう思うだろ?」
ソファで居眠りをしている男山に問いかける。
でも男山は、面倒臭そうに片目を開けただけだった。
互いの想いが上手く通じ合っていなかった、ただそれだけ。
明日、どんな顔で悠理を迎えればいいんだろう。
携帯電話を取りに来る彼女を、どんな風に?
いつも通りの顔が思い出せないなんて、どうかしてる。
「まあ、何とかなるか、男山」
聞こえない振り。
もう、考えるなってコトか?
「でもさぁ、もうちょっと一緒にいたかったな」
そう呟いた時、男山は顔を上げて小さく吼えた。