こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。
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遠くで鳴ったクラクションが響き渡る。
同時に視線を交わし、清四郎は口を開く。
「悠理を傷付けてしまいました」
そんな事は分かっている。
だから、わざとらしい溜息を吐く。
俺の態度に気付いているだろう、フッと諦めたように笑みを浮かべる。
「今朝、彼女が僕に会いに来てくれたんです」
清四郎の意外な言葉に顔を向けると、普段と変わらない微笑を浮かべ俺を見ていた。
男山の散歩途中だって、玄関を出た僕に彼女は言いました。
それで今、魅録の所に一緒にいるんだって分かりました。
彼等はそれからほとんど会話らしい会話をしないまま、近くの川辺まで歩いた。
初夏を思わせるほどの温かな陽射しは彼女の頬を染め、久しぶりに見る笑顔に彼は安堵した。
でも、男山が彼を警戒しているのを感じ、きっと今の彼女の心情を表しているんだと知った。
「あたし、みんなと出逢えて良かった」
リードを外された男山は、それでも彼女から離れる事なく傍に座り、彼女もそんな男山に腕を回して寄り添う。
まるでその姿は、何年も連れ添った夫婦のように自然で通じ合うものがあった。
「だって、みんなもあたし達が好きだから」
「・・・・・」
「あたし、清四郎を好きになって良かった」
だって清四郎も仲間としてなら、あたしを好きでいてくれるもん。
「でも今のあたしじゃ、まだ足りてない。そうだよね」
あの日、悠理が俺の部屋に突然入って来た時、見た事がないほど狼狽えていた。
“清四郎があたしを、別の誰かに仕立て上げようとしてる”って、唇を震わせて言うんだ。
お前達が婚約した時の騒動を思い出したよ。
でもあの時と、状況が違う。二人の感情も違う。
大声を上げて泣く事もせず、蒼白になって震えて床に座り込んでるの見てさ、こいつ壊れるって、正直思った。
このまま放っておいたらこいつダメになるって、本当に思った。
清四郎は辛そうに息を吐いた。
「ずっと、彼女に憧れていたんです。幼稚舎の頃からずっと」
天真爛漫で誰よりも元気があって、乱暴だけどそれが彼女の正義感を表す姿だって分かった時、
滑稽なほど自分が喜びに溢れているのに気付きました。
僕にないものをたくさん持っていて、いつもキラキラしていて、こんな女の子もいるんだって思いましたよ。
穏やかだった夕焼けは、不自然な配色で空を覆っている。
悠理が、部屋に戻っているに違いない。
僕の彼女への想いは自分が知る以上に強く、彼女を欲しくなればなるほど狂暴になった。
だから僕の心の内を気付かれないように必死に隠そうとするほど、彼女には冷たくなってしまった。
焦がれる想いは、ありのままの彼女を否定する事で抑えた。
そうして彼女の想いは、僕への恐怖心で一杯になって、伝わらなくなってしまった。
「あたしどんなに清四郎に冷たくされたって嫌われたって、好きだよ。」
川辺を通り過ぎる風は強く、それは心の奥底まで浸透するように冷たかった。
彼女は風に向かって微笑み、それから清四郎をしっかりと見つめて言う。
「清四郎。あたしが清四郎に相応しい大人になれたら、もっとちゃんと好きになってくれる?」
そうじゃないんだ、と俺ではない誰かに呟く。
「悠理は僕にとって充分な女性なんです。今のままで良いんです」
「だって」
「僕は今の悠理を、独りの、たった独りの女性として・・・欲しいんです」
やがて来る暗闇を避けるように、公園内の外灯が灯る。
「そうなるには、彼女はまだ幼いでしょ?強引にそうなったら、今よりも傷付けてしまうでしょ?」
恋愛に不器用な俺に、清四郎は不安げに聴いてくる。
「彼女が欲しい。けれどそうする事で、彼女を失ってしまう事が怖い」
砂を踏む音に気付いて振り返った時は遅かった。
悠理はすぐそこまで来ていて、薄明かりに映る彼女の表情は人形のように白かった。