こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。
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引き出しの中を整理をしていて、僕はある物を見つけ出す。
名刺サイズの、プラスティックのようなカード。
「懐かしいな・・・」
思わず声に出す。
そう、それは一度も使われていないテレフォンカード。
何処か知らない、会社の設立記念の物だった。
パンチの後がない事でちょっと得をした気分になったけれど、一人で携帯電話を複数台持っている時代、一体誰が使う?
自分に問い質して笑ってしまう。
もちろん捨てるなんてしないけれど持ち歩いても使う事はないと考えて、僕はまた元の場所に戻した。
「おや?」
自分の指の先に、もう一枚。
今度はエアメールだった。
郵便物は決まった引き出しに保管しておくようにしているので、どうしてここにあるのか。
けれどそれを手にしてすぐに納得がいく。
「やれやれ、これも懐かしい一枚」
僕はまた声に出し、ため息混じりに微笑んだ。
差出人の名前も、その見慣れた文字も、僕の心をちょっとだけ締め付ける。
裏を返すとそのエアメールは写真入りで、その中の二人は幸せそうに僕を微笑みながら見つめている。
もうかなり前の写真だ。
だからその間、二人はずっと微笑み続けていた事になる。
きっと今も幸せだから・・・そう、だからこうして僕に見つけられたのだろう。
「私、幸せになりますわ」
そう彼女は僕に伝えた。
人付き合いが苦手で、僕から離れた事がない彼女が初めて本当の恋を知った。
憧れの延長線ではなく、それは未来を確実に手にしたような恋だった。
もちろん反対なんてしなかった。
彼女が決めた相手だし、何より、信頼のある僕の親友だったから。
けれど・・・ほんの少しだけ(それは強がりもあるかも知れないけれど)、嫉妬心を感じない訳にはいかなかった。
彼女は僕の大切な幼馴染で、妹のような存在だった。
いつも振り返ればすぐそこにいる、そんな印象があった。
僕がいないと何時も不安そうにしていて・・・
だから彼女の意思で僕から離れるなんて正直、思ってもみなかった。
一緒にいて当たり前だったものだから、離れてしまった時は一人でいる事に不自然を感じたりもした。
彼女からのその電話は、長期で旅行に行く直前だったと思う。
駅か空港の公衆電話の向こうは騒々しく、時々アナウンスが聞こえた。
普段と変わらない口調を装うけれど、ちょっと緊張で声が震えていた。
最後の最後まで反対しない僕を、あるいは不思議に思っていたのかも知れない。
不自然を感じるのは、僕だけではないはずだから。
「時間、大丈夫?僕への電話で遅れたなんて言わないで下さいよ」
「まぁ、清四郎ったら。大丈夫ですわ。ちゃんと時間を見て電話してますのよ」
伝えたい事はたくさんある。
でも、何から話して良いのか分からない。
僕達はお互いそう思っていた。
だから彼女は、一番に伝えたい言葉を僕に言ったのだ。
「私、幸せになりますわ」
僕の中の小さな嫉妬心が邪魔をして、上手く返事ができない。
「清四郎」
「・・・うん」
早く答えないと、彼女を困らせてしまう。
一瞬、焦燥感に襲われ言葉を失っていると、テレフォンカードが切れる警告が響いた。
彼女が息を呑むような音がして、すぐにコインが入れられた。
「もう、小銭もないの」
「ああ」
かけてあげられる言葉が見つからない。
「清四郎」
「気を付けて。気を付けて行って来るんですよ」
「ええ」
違う。そうじゃない。
彼女はそんな言葉を求めちゃいない。
彼女は・・・僕に心から祝福されたいのだ。
「野梨子・・・」
今だったらもっと簡単に言葉を伝えられた。
携帯電話と言う便利なものが、意固地な僕の心を解いてくれるだろう。
彼女の微かな息遣い。
その向こうの喧騒。
アナウンスは、旅立つ人々に何かを告げている。
突然、公衆電話がまた警告をする。
時間は僕を待ってはくれなかった。
「清四郎。清四郎も幸せになってね」
声が掠れ、言葉にならない。
「お願い。幸せにな・・・」
受話器の向こうで彼女の声が切れ、電話が切れてしまった。
僕はしばらくの間茫然と立ち竦み、ゆっくりと受話器を置いたのを覚えている。
「何を見てるの?」
後ろから声をかけられて、でも驚きはしない。
僕を驚かせないように気遣ってくれたからだ。
エアメールをそっと引き出しに戻し、今度はテレフォンカードを手に振り返る。
「なぁ~に、それ。ん、見せて」
彼女は僕の手から取り上げる。
「わぁ!テレフォンカードなんて懐かしいな。未使用じゃん。
会社設立?どこのだろうね」
彼女も僕と同じように得した笑顔になり、けれど、すぐに使う事がないと覚ったようだった。
小首を傾げ、困ったように微笑する。
「コーヒーが入ったから。下に降りておいでよ」
「ええ。ありがとう」
視線を交わした時、一瞬不安そうに瞳を震わせる。
僕が、何か秘密を持っているんじゃないかって思わせたのかも知れない。
「悠理」
彼女の華奢な肩に腕を回して抱き寄せる。
「コーヒーを飲みながら、テレフォンカードみたいな懐かしい話をしてあげましょう」
「え~、なんの話?」
今度は子供のような、純粋な瞳を向ける。
「僕にとっても悠理にとっても、大切な親友の話」
「うん。みんな、どうしてるかな?」
幸せですよ。
幸せになってますよ、野梨子。
君と同じくらい、幸せにね。
妹のような存在だった野梨子の心配ばかりして、僕は大切な事に気付いていなかった。
そういう意味では、野梨子の方が先に大人になってしまったのかも知れない。
けれどもそうした中、僕も本当の恋を見つける事ができた。
そしてその恋は、永遠の愛に実ったと確信している。
自分だけ幸せになろうとしている事に罪悪感を感じていた。
だからあの時の電話は自分の幸せを祝福されたいだけではなく、嘆願の意も込められていたと思う。
「久しぶりにみんなと会おうか?」
「うん、いいね!計画しよう!!」
いい加減、野梨子を長い長い不安から解放してあげないといけない。
「さっそく、野梨子と可憐に連絡してみるよ!」
いや・・・もうとっくの昔に解放してるんだろうな。
僕の大切な人を、彼女は知っているのだから。
1. こんにちは
携帯電話が当たり前の時代に於いてテレフォンカードは非常に懐かしい感じがします。公衆電話も今や見つけるのが難しい位ですから。
清四郎がノスタルジックな感情に浸る本作品の雰囲気が大好きです。「野梨子を案じる清四郎」の目線がとても優しくて…悠理とは違う意味で「大切な人」という気持ちがあふれていて心がほっこりとなりました。
清四郎と野梨子の関係って誰にも踏み込めない聖域的な感じですよね。
私的には清四郎が先に恋人を作って野梨子の元を離れるという事は何となく無いような気がするんです。心配が先に立つというか…。野梨子の方が先に恋人を作るのだろうな…って思います。
本作品では野梨子の相手は「信頼のある僕の親友」と記されていたので、魅野スキーの私としましては魅録が相手と勝手に妄想して読ませて頂きました(笑)
これも私的な考えですが、清四郎は女好きな美童には野梨子を安心して任せられないような気がします。
まぁ相手が魅録でも安心はしないかも…
長々と書いてしまいましたが、ご容赦願います。
また新作を楽しみにしております。
寒さ厳しき折、ご自愛下さいませ。
聖羅
聖羅さま
コメントをありがとうございます♪
テレフォンカード、懐かしいですよね。
本当は小銭使用の公衆電話にしようと思ったんですが、
10円3分だと短すぎるし、100円だと・・・何分だろう?(笑)
何となく今でもテレフォンカードって、引き出しの何処かに隠れていそうだと思い、清四郎の記憶と重ね合わせてみました♪
おっしゃる通りですよね!
清四郎はきっと、どんな時でも、野梨子より先に幸せになんてならないと、
私も思います!!
やはり野梨子は・・・特別な存在なんだと、どんなお話を書いていても感じるからです。
野梨子のお相手は、もちろん『魅録』ですよ~♪
このカップリングも大好きなので♪♪
作品への感想をありがとうございます!
聖羅さまも風邪などをひかないようにお気をつけて下さいね。