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charm anthology

こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。

2012/11/03

男心は

こんばんは!

すっかり秋は深まり・・・

今月末には初雪が降りそうな私の田舎です。。


拍手ありがとうございます!
サイトにも拍手がたくさん届いており、とても励みになっています!

この間アップした“女心と・・・”の続編がちらりちらり書けたのでアップしてみますね♪

よろしかったらお立ち寄り下さいませ。


ご訪問ありがとうございます!













門を抜けると、悠理は玄関には行かずに庭へと向かう。
勝手知ったる他人の家とは、彼女のような行動を取る者を言うのかも知れない。
親友の部屋は母屋とは別にある。
庭の奥まった場所にある部屋は、機械好きに相応しい外観だった。
庭木の枝の間から零れる陽射しは、先程の川辺とは違って弱く肌寒い。
けれど彼女の心は逸っていて、頬が熱かった。
ドアノブに手をかけると、聞き慣れた二人の笑い声がする。
一人は、この部屋の主。もう一人は・・・
 

いつもならそんな声に余計誘われ中に入るくせに、今は何故か手が動かない。
罪悪感を感じながら聞き耳を立てている自分が辛かった。
 

そう、何でもない会話だ。
二人には、隠し事などないのだから。
 

けれど・・・彼女はどうしても中に入る事ができなかった。
 

息を殺すように、身を潜めるようにして外壁に凭れる。
公園で落胆した彼とは別人のように楽しそうで、二人の声が胸に響いた。
 


“男は鈍感”
 


何て清四郎は言っていたが、まるで女性の喜ばせ方を知る男のような会話。
優男のもう一人の友達とはまた違う雰囲気だ。
 

手元に届く陽射しが、いつしか赤みを帯びてくる。
顔を上げて見ると、空一面が夕焼け色に染まっていた。
庭木の枝々が本来の色を失ったように真っ黒で、悠理は哀しくなる。
空も枝も、まるで今の心情を表しているようだ。
 

二人の笑い声はやがて聞き取れないほど小さくなる。
帰り際のやりとりに違いはないにしても、一度に下がる気温のように心は冷たかった。
 


「魅録、助かりましたわ」
 


突然ドアのすぐ傍で声がして、彼女の足は竦む。
 


「いや、いつでも」
「ええ。それでは、明日」
「ああ、じゃあな」
 


女友達はドアを閉めて振り返り、壁際に立つ彼女に気付く。
けれどその存在に驚く風でもない。
 


「あら、悠理でしたの?良かったですわ。魅録が心配してよ」
「魅録が?」
「ええ。悠理の気分を損ねてしまったと気にしてましたわ」
「ふうん。で、野梨子はなんで・・・?」
「機種変更した携帯電話の使い方が分からなくて。ちょっと教えてもらっていましたの」
「そう」
「早く会いに行かれたら?」
 


一瞬、不穏な空気が二人に流れた。
ではまた、と野梨子は彼女を通り過ぎる。
途中送り届けようと足が動いたが、すぐに立ち止まる。
野梨子の背中は、それを必要としていないと感じたからだ。
 


清四郎?
 


そう、野梨子には清四郎がいる。
今頃電話して、迎えをお願いしているかも知れないのだ。
しばらくその場に立ち竦んでいると、彼女の肩に手がかかる。
驚きはしない。
何故なら、その手が誰のものなのか分かったからだ。
 


「寒いだろ?早く中に入れよ」
 


ゆっくり振り向いて、小さく首を振る。
 


「まだ怒ってるの?」
 


魅録を見る彼女の瞳には表情がなく、それは表現し難いこの空の色によく似ていた。
 


「悠理、何か話したくて来たんだろ?」
「ううん、別に」
「だって」
「さっきちゃんとバイバイできなかったしさ」
「・・・バイバイって?」
 


二人の笑い声が、甦る。
悠理の胸は何かを含むように痛んだ。
 

刹那、強い風が吹き荒れ、草木は円を描くように激しく揺れる。
 


「ごめん、魅録。違うんだ」
「どうしたんだよ?」
 


彼女に向かって伸びる魅録の腕を避けるように後退る。
 


「ごめんな。今日はやっぱ帰る」
「悠理?」
 


薄暗い庭を慣れたように走り抜け、門を過ぎる。
理不尽な怒りと切なさが彼女を満たす。
全てを振り切るように走っていると、住宅街の十字路で思わぬ相手とぶつかった。
 


「あれ?また悠理?」
「清四郎!?」
 


向き合うと、先程別れたばかりの男友達。
苦笑するその顔を見ていると、彼女は安堵したように深く息を吐いた。
 


「魅録と話し込んでいると思ってたけど。ちょっと野暮用で」
「今なら、誰もいないよ」
「今?他に誰かいたの?」
「野梨子。新しい携帯の使い方を教えてもらってた」
「ほう」
「さっき帰ったばかり。迎えに来いって、連絡なかった?」
「ないですよ。何で僕に?」
 


まるであり得ないと言う風に、清四郎は肩を上げた。
それからぷぅっと吹き出してニヤニヤと笑う。
 


「女心と秋の空」
 


今日は驚かされてばかりだけれど・・・と彼は思う。
感情の激しさには、やはり男は敵わない。
彼女が嫉妬をしているのだから。
 


「あっと言う間に日暮れですね」
 


清四郎は彼女の視線を避けるように空を仰ぐ。
一緒に見上げると青紫色に一面が染まり、弱々しい光を放つ星が散っている。
 


「秋の空って、夕暮れ時も澄んでいて綺麗だ」
「ええ。そうですね」
 


乾いた空気が、耳元で音を立てる。
彼女に与える言葉を探しながらゆっくりとそちらに目線を移すと、
まだ空を見上げている彼女の頬に一筋の涙が伝っていた。
 


先走ってどうする?
 


そう言おうとして口を噤む。
独り善がりはお互い様なのだ。
 


「送りますよ。魅録の所は明日にします。一緒に帰ろう」
「うん」
 


既に乾いた頬に触れる事もなく、彼女は進路方向を見つめる。
頑なな彼女をそのままに、自身に向けたいと強く思う。
感情の激しさは女には負けるけれど・・・愛情の押し付けと独占欲は・・・
 

訪れた暗闇に街路灯が灯る。
 

清四郎の中に小さく灯った光は、しっかりとした熱を帯びていた。







 

 

 

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