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児童公園の噴水まで一気に走ると、悠理は近くのベンチに座りこんだ。
呼吸の乱れと動悸の激しさは、運動不足の所為ではない。
彼女は胸を押さえて前のめりになる。
苦しさよりも哀しさの勝る想いが、表に出ないように。
何度目かの深呼吸で顔を上げると、柔らかな午後の陽射しが彼女を照らした。
ゆっくり息を吐き、陽射しに向かって手を翳す。
まるで木洩れ日のように指と指の間を透る陽がくすぐったかった。
陽射しの向こうで、澄み切った青空が窺える。
秋の空は高い・・・なんて感じた事はなかったが、なるほどこの事なのかと思えた。
そう言えば。。
彼女は思い出したように微笑む。
そう言えば以前、倶楽部のメンバーと川辺に遊びに行った時、秋の空について質問されたっけ。
「悠理。秋の空がなんで高いか知ってます?」
「へ?知らないよ。秋に空って高くなるの?」
逆に質問したら厭きれたように肩を竦めて視線を逸らされた。
「宿題にしときます。何時かの秋が来るまでに、調べといて下さいよ」
そう言われて、でも忘れちゃって。
彼女は結局、今でもその答えを知らない。
「悠理」
後ろから声をかけられて振り向くと、あの時質問した友人が立っていた。
「清四郎」
「みんなが心配してますよ」
「心配?」
「最近部室に寄らないで帰るでしょ?さっきだって、僕と魅録を見たら逃げ出しちゃって」
「・・・魅録は?」
「魅録は・・・」
心配そうに見る清四郎の後ろで、魅録が困った顔で手を上げた。
「よっ!」
「うう・・・魅録なんてキライ!!」
彼女はそう叫ぶと背を向けて走り出した。
けれど、すぐに清四郎に腕を掴まれた。
「放せ~、清四郎!!」
「まあまあ、落ち着いて、理由は?どうしたの?」
「るっせぇ~!」
掴まれている腕を力一杯引くが、清四郎の力には及ばなかった。
「年頃の女の子が、そんな口を利いてはいけません」
「なんだとーっ!!」
「悠理」
バタバタする二人に、魅録が気まずそうに声をかける。
「どうしたんだよ?何を怒ってるの?」
「怒ってる?怒ってないもん!」
「怒ってるじゃん。キライって、ナンだよ」
「だって・・・」
もう逃げる気配がない彼女の腕を放し、清四郎は背中にそっと手を置く。
「話してみたら?どんなに仲良くたって、通じ合えない時もあるさ。ね?」
俯く彼女を心配そうに覗き込む清四郎の顔が何時になく優しくて、彼女はポツポツと話し始める。
「だって、魅録ったら・・・イジワルなんだもん」
「え・・・」
慌てたように魅録は彼女に近付き、足元にしゃがみ込む。
「イジワルって・・・俺?」
「部室で声かけても知ら~んぷり。メールだって返信ないか、とんちんかんなコト送ってくるじゃん」
「とんちん・・・そうだっけ?」
「そうだよ。気づいてないのかよ?」
「だって、わざとじゃないよ」
もういいよ、と呟くように言うと、あっと言う間に背を向け走る。
「あっ!」
「おいっ!!」
呼び止める二人を振り返る事なく、彼女の姿は消えた。
色付き始めた木々の葉が、風にサラサラと揺れている。
川辺で過ごすにはちょっと肌寒い感じ。
けれど陽射しを浴びながら穏やかに流れる川はとても綺麗。
いつも仲間と通り過ぎるだけの道も、少し遠回りをすればこんな素敵な場所がある。
彼女はゴロゴロした石の上に足を伸ばして座った。
「秋の空はなんで高いのでしょう?」
突然後ろから声をかけられて、彼女はびっくりしたように振り向く。
でも今度は声を出さず、逃げもせず、男友達が自分の隣に座るのをじっと見つめていた。
「前に宿題出したでしょ。覚えてます?」
「さっきの公園で、思い出した」
「おや、すごい。忘れちゃってると思ってました」
「忘れちゃってたけど。答えは調べてない」
「うん。でしょうね」
彼も同じように足を伸ばす。
身体を支える互いの手が触れた。
「悠理。寒いの?」
すっかり冷え切っている彼女の小さな手に、彼は自分のそれを重ねる。
「大丈夫。ありがと」
「そう?こんな格好で、余り長くいる場所ではないね」
「でも、陽射しが気持ちいい」
「うん」
二人はもう一度空を見上げる。
「清四郎。なんで秋の空は高く見えるの?」
「あはは。調べもせずに聞くとはナンですか?」
「えへへ・・・」
「空の透明度。秋になると大陸から移動してくる高気圧に覆われて空は晴れるようになる。
夏の海から来る高気圧よりも水蒸気が少ないから、透明度も増して空がより青く、澄んで見えるんですって」
「へ、へぇ。だからなんだ・・・ちょっと分かり難いけど」
「僕の説明、分かり難い?」
「あ、いや・・・あたしの理解力のなさかな?」
「ふうん。まあ、夏の間に立ち籠もった魅録との関係も、この秋空のようにすっきりすると良いですね」
「・・・・・」
魅録の名前が出て、彼女は自分の膝を抱え込んだ。
「今日は傍にいない方が良いのかなって、魅録は先に帰りましたよ」
「そう」
「喧嘩でもしたの?」
「ううん。さっきも言っただろ。ちっとも構ってくれないから」
「関心がない?まさか」
「だって・・・だってさ・・・」
「うん。だって男は鈍感だから」
「えー」
清四郎は気持ち良さそうに身体を伸ばし深呼吸をする。
「空も空気も川の水も澄んでいて気持ちが良い」
「・・・・・」
滑らかな風が二人を通り過ぎ、それと同時に彼は彼女を振り返る。
「一緒にいて当たり前だから、悠理達。風が吹いて木々が揺れて、そんな自然な関係」
通り過ぎた風を追うように、彼女は視線を動かした。
「それなら・・・清四郎と野梨子みたいだ」
「僕と野梨子?」
ちょっと驚くように呟いて、なるほどと頷く。
「そうですね。意識してないけれど、そんな風に捉えられる。
個々に、それぞれなんですけれど。一緒にされる」
「それぞれ。だから魅録の考えはおかしい」
「なるほど。そうか。悠理は、魅録にちゃんと見てもらいたいんだね。
一緒にいて自然だと思われるより、独りの・・・女性として?」
「分かんないよ。でも、さぁ」
清四郎が思うよりも女性として意識していたと知る彼女に、彼は頬を染めて見つめる。
「僕と野梨子は違う。似ているけれど、違う」
「うん?」
「魅録は多分・・・今の関係がその関係だと思ってる・・・」
「だからさー、分かんないって!」
「悠理は、関係を深めたい?」
彼の言う意味を全て理解しなくても、それが何か感じ取れる。
だから彼女も、真っ赤になって顔を背けた。
「今の悠理の気持ちを、素直に魅録に伝えると良い」
「ぇぇぇ」
「きっと・・・恥ずかしがるけれど喜ぶさ」
「あたしだって、恥ずかしいよ」
「でも、ちゃんと言葉にしないと、今の魅録には伝わんない。
この状態を改善させるには、ね」
彼女の小さな肩に触れると、ゆっくり彼を振り向き頷く。
そこには意外にも、恋を覚えた女の表情と少女のようにはにかんだ微笑が窺えた。
彼女は静かに立ち上がる。
「清四郎、ありがと。あたし、行くね」
「ん」
「じゃあ、またね」
「ええ、また」
ぴゅうっと風のように小さな音を立てて彼女は走り去る。
彼は大切な人を見送るように、彼女が見えなくなるまでそうしていた。
女心と・・・何て言うけれど、確かに秋のお天気みたいに喜怒哀楽が激しいのは女の方。
清四郎はゆっくり立ち上がり、大きな深呼吸をしてもう一度空を見上げる。
けれど知ってます?悠理。
もともとは“男心と秋の空”。愛情が移ろい易いのは男の方。
魅録がそうだとは言わないけれど、僕は・・・
興味の矛先が、さっきの表情で変わっちゃいましたね。。