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charm anthology

こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。

2012/08/23

哀しき誤解

ご訪問ありがとうございます!

作品への拍手、また過去作にもいただいております。
心から感謝を申し上げます。


さて、ショートショートと言うか、掌編と言うか・・・小編なのか・・・

アップです♪

よろしかったら、どうぞお立ち寄り下さいませ!
















フロントガラスに夜のネオンと黒い街路樹が通り過ぎる。
真夜中。
でも通りは人で賑わっている。
週末だもんね・・・
 

ぴゅうって、音を立てて溜息を吐く音。
何時になくバカみたいに酔っている、隣に座る男。
 


「おい、大丈夫かよ、清四郎?」
 


後部座席の三分の二は占領してるよ。
ダルそうに両手両足を軽く開いて、シャツの襟もだらしない感じ。
 


「大丈夫ですよ。ちょっと、飲み過ぎただけ」
 


目も開かないでそう答える。
エアコンの心地よさと、酒臭さ・・・
 

今日は(正確に言うと昨夜か)清四郎の送別会だった。
二年かそれくらい、留学するって。
ま、長期休暇には帰って来るんだろうし、
あたし達で会いに行っても全然大丈夫だから、淋しくなんてないんだけれどね。
一応カタチで。
ぐだぐだ飲んでいたら、野梨子と可憐が潰れて美童に送られて帰った。
って言うか、美童は別のデートがあの後に予約されていたらしいけれど。
それから魅録と清四郎とあたしで飲んでいたんだけれど、
予定外で清四郎がこんなんなっちゃってタクシーに放り込んだ。
魅録が助手席であたしが清四郎の横。
酔っ払いの世話はしたくないって、魅録が自分の家へと先にタクシーを回す。
 


「裏切んなよ」
「バカ言え。気ぃ遣ってんだ」
「ナンの気だよ?」
 


止めてくれ。
こんな所で気を遣うのは。
 

確かに。
魅録にはあたし、清四郎への気持ちを相談したさ。
魅録は伝えなよって言ったけど、留学する忙しい清四郎に伝えたって・・・迷惑じゃん・・・
それに、清四郎の気持ちは、きっと、絶対、幼馴染のお隣さんにあるって決まってる。
こんな時に(?)傷付きたくないし、これからギクシャクしちゃうより、今まで通りの方が気が楽。
 


魅録の家の前にタクシーが到着する。
車を降りると、後部座席の窓をコンコンと叩いた。
窓は、音を立てずにゆっくりと下がる。
 


「今夜しかないって」
「ナニが?」
「こ・く・は・く♪」
 


あたしは魅録を睨むと、運転手に出発するよう伝えた。
 

フロントガラスは夜の闇を映し出し始めた。
一人がいなくなっただけで、エアコンが効き過ぎるくらいだ。
清四郎は静かに眠っている。
魅録がいなくなった事で、余計に清四郎の存在が大きくなる。
 

ちょっと気付いたんだけれど、清四郎も香水を使うんだ。
窮屈そうに身動きした時に、匂ったんだ。
何の香りだろう。
不思議な程に懐かしい香り。
魅録のとも、美童のとも違う。けれど、知ってるんだ。
 

どちらを先にって、運転手が再度確認する。
あたしはもちろん、酔っ払いの介抱する為に清四郎の住所を伝える。
 


「剣菱邸を先に」
「清四郎?」
「眠ってないですし、そんなに酔ってないですよ」
 


目を瞑ったままで言う。
“剣菱邸”と伝えただけで、もちろん運転手は理解して車を回す。
 


「そっちの方が近いじゃん」
「いいから」
 


また静けさが訪れる。
苦手なんだよね・・・って、じゃあ、さっきの魅録との会話は聞こえてたんだ!
はぁ。。
 

何を話したらいいかって考えている内に、タクシーはあたしんちに到着する。
 


「お先、あんがと」
「ちょっと待って」
 


ドアが開き、車を降りようとするあたしの腕を清四郎が掴む。
ん、って振り向いたら・・・
 

唇に温かいのが触れた。
それが何かって分かっても、身動き一つできなかった。
夜の暗闇の中、車内灯のオレンジ色だけがぼんやりと見える。
足元に湿度を帯びた空気がゆらゆらと入ってくる。
 

目を瞑る事も、抵抗する事も、できない。
 


“どうしてお酒の匂いがしないんだろ?”
 


なんて、そんなバカな言葉が頭を過ぎる。
でも、そう。
清四郎の、あの香水だけが唯一匂う。
懐かしさと温かさと・・・ちょっとだけ切ない、香り。
 

口の中に清四郎の舌が入ってきたと同時に、車のドアがバタンと閉まる。
運転手が気を遣ったんだな。
夜の闇が車内にも忍び込んだみたいに真っ暗だ。
 

キスって、こんなにあったかいんだ。
 

初めてなのに、こんな不思議な温かさを知ったのに。
記憶の鍵がゆっくりと回される・・・
 

唇が離れる。
あたしの手は、腕を掴んだままの清四郎のシャツをしっかりと握っている。
あたし達の間に、エアコンの冷たい空気が流れた。
 


「ほんとは、君の部屋に行きたいけれど・・・」
 


俯き加減の清四郎が言った言葉を理解したのは、あたしがタクシーを降りてから。
どうやって降りてきたのか、どうやって清四郎を見送ったのか、全然覚えていない。
外灯で照らされる裏門の前で、佇む自分の影に気が付いた。
生暖かい風が頬を過ぎる。
 

清四郎の匂いがする。
 

あたしは自分自身を強く抱き締め、記憶の鍵を完全に回す。
 

 

 

ああ、夏だ。

あの夏の夜だ。


 

開け放された窓。

心地よい風が運ぶ香り。


 

ベッドの上で転寝するあたしにそっと口付けたのは・・・












 

 

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