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charm anthology

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2012/05/23

星空の散歩

こんにちは!

先程何とか書き上げました~。

前回の記事にも書き込んでますが、
“月の魔力”の別ヴァージョン(と管理人は思っている・笑)ですので、
似たような表現が出てきますがご了承下さいませ。。


ご訪問ありがとうございます♪













ヴェランダから空を見上げる。
真夜中過ぎの空には、数え切れないほどの星。
まだ汚れていない空気を思い切り吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
 


「降ってきそうだよな、星が」
 


思わず両手を空に掲げている自分に苦笑いをする。
満天の星は、まるで音を立てるように輝いている。
 


「マジ、きれい・・・」
 


週末、自分の両親が所有する別荘で仲間達と過ごすのは良くある事。
今だって、そう。
現にメンバーの一人が参加していない事以外は当たり前の週末。
悠理はまた息を吐く。浅く、不満気に。
静かな夜を過ごすには充分に立ち直れていない彼女は、
ジーンズのポケットから古い携帯ラジオを取り出してスウィッチを入れる。
流れてくるのは名前の知らない曲。
でも聞いた事はある。よく耳にする・・・
 


「ボサノヴァ?渋い」
 


突然後ろから声をかけられて、悠理は飛び上がるように振り向いた。
 


「び、びっくりした!」
 


声をかけたのは、中等部の頃からのケンカ友達。
ケンカ・・・だけど一緒にいて、一番安心できる友達。
 


「魅録も眠れないの?」
「んー」
 


彼は彼女の肩をポンッと叩くと、彼女が持つラジオを手に取った。
 


「けっこう年代モノ、だよな」
「うん。清四郎からもらったの。
ホントはあげられないって言われたんだけど、イッパイお願いしたらくれた」
「ふうん」
 


きっと彼自身も、誰かから譲られたのだろうと魅録は思う。
だからあげられない。
けれど・・・彼女の我が儘な懇願だから・・・それを断り切れない彼は・・・
ラジオはまた、別のボサノヴァを流し始める。
 


「あ、この曲なら知ってる。イパネマの娘」
「うん、知ってるかも」
「よくショッピングセンターで流れてるよな。何か、相乗効果があるのかな?」
「そーじょー?ワカンナイけど。こないだ可憐とスーパー行ったらさ、
“ウルトラセブン”流れてた。セブンセブンセブン♪」
「あはは!きっと何かあるんだろな」
 


二人は小さく声を立てて笑う。
けれどその笑い声はすぐに途切れ、また一つ、彼女に溜息を吐かせた。
 


「清四郎、別に遠くに行くワケじゃないし」
「うん」
「大学に無事合格したら、また頻繁に遊べるさ」
「うん」
「アイツなら、合格するに決まってる」
「・・・・・」
 


仲間とは違う大学。
医大に行くと告げられたのは数週間前。
もちろん、反対する者なんていない。
ただ、清四郎がそこに行くと言う事は、今までの倶楽部の関係が違って来ると誰もが思う。
多分彼女にだって、魅録の言う“頻繁”が慰めの言葉だと・・・
 


「あたし達、腐れ縁だから」
「そうだな。離れているようで、離れていない。離れられない」
「うん」
 


風がさーっと吹いて、ラジオの電波が乱れる。
 


「きっと、ずっと前から決めてたんだと思う」
「清四郎?」
「うん。なんかさ、そんな話し方だった」
「そう」
 


メンバーの誰よりも淋しさを抱いているのは分かっている。
でも・・・
音が途切れ途切れに流れるラジオのスウィッチを切り、そっとヴェランダのテーブルの上に置く。
暫く二人でそのラジオを見つめていた。
ラジオを通して、不在の親友を思っているのかも知れない。
 


「眠れないな。ちょっと散歩でもして来る?」
「うん」
 


半袖でいるには少し早い初夏の風が、二人の間を通り過ぎる。
月の光にも負けない小さな星の数々の光が、足元を照らしていた。
池の辺までの道を並んで歩く。
彼女は、魅録とのこの距離が好きだった。
触れそうで触れない、この距離が。
 


「やっぱ、もうずっと前から、決めてたんだ、アイツ!」
 


突然、まるで裏切り者のように清四郎を言うものだか、魅録はなだめるように彼女の腕に触れた。
 


「なあ、悠理。人には運命があるよ」
「うんめい?」
「ああ、決められた道の事だよ」
 


何を言っているのか分からないと言う風に、彼女は口を尖らす。
彼はそんな彼女に微笑み、触れていた腕を軽く掴んで池の辺のベンチに座らせた。
 


「この広大な宇宙に俺達が存在するんだってさ・・・」
 


魅録は夜明け前の、薄らと太陽の光を含み始めた空を見上げた。
 


「人が空気を吸って血液が体内を巡って何時しか肉体が朽ちるように、
宇宙にとって人は空気であり血液であり抗体であり、コレステロールであり・・・
そうやって何時か宇宙が朽ちるまで延々とそれぞれの運命に沿って、宇宙と言う体内での役割を果たして行く。
そんな感じでさぁ。
因みに清四郎が善玉コレステロールなら、俺は悪玉コレステロールってとこか?」
「なんだー???」
「ま、悠理は盲腸だろなー。役に立たねーけど、ちょっかいだすと暴れるから」
「えー?」
 


腕を組み、首を傾げる彼女を、魅録は胸に痛みを感じながら見つめる。
 


「清四郎には清四郎の決まった役割があるってコトなの?」
「ああ、そうさ。悠理には悠理の役割があるように」
「決められたコト・・・なんだ」
 


悠理は魅録を淋しそうに見つめ、ほんのちょっとだけ唇の端を上げた。
 


「あたし達の出逢いも、運命」
「倶楽部の存在も。俺達の役割だから」
「腐れ縁は・・・?」
「運命。だから、大丈夫さ」
「うん」
 


夜明けが始まったすみれ色の空を、彼女はじっと見つめている。
何処か懐かしさを感じてしまうのは、宇宙と言う体内で優しく抱かれているからなのかも知れない。
 


「それに、悠理には俺がいる」
「んん?」
「ま、今んトコは、さ」
 


慌てたように彼へ抗議しようとする顔が染まっているのは、太陽の所為?それとも・・・
 


「魅録。ワカンナイゾ!」
「あはは!俺も分かんなくなってきた!」
 


自分の顔を隠すように、彼女は外方を向く。
 


「でも、今は、お前には俺がいる」
「魅録・・・」
「先の事はもちろん、俺にも分かんないけどさ。
今のお前には俺がいる。それだけ」
 


そう、先の事なんて誰にも分からない。
悠理が今、魅録ではない男友達に気持ちが向いていても。
例えその友達が、その事に気付いていても・・・
 

決められた未来への道が、それぞれの役割を果たす為に既に用意されているとしても。







 

 

 

 

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