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再び海外へと向かう清四郎から、メールが悠理の元へ届く。
これからも時間を作り、逢瀬を重ねようと言う内容だった。
七年振りに身体を重ねてからの彼女が抱いている混乱は、このメールへの返信すらも戸惑わせる。
失われたあの日々が、時を越えて再び戻って来たのだ。
清四郎の存在が、再び。
彼がいなくなってから現在に至るまで、計り知れない切なさを持ち続けて来た。
もう二度と戻る事は無いのだと言い聞かせて来た。
けれど・・・
これが清四郎の言う運命だとしたら、結ばれる為に辿った時間なのだろうか?
彼女は思う。
違う。そうじゃない。
清四郎はあたしを、あたしは清四郎を選べない。
あたし達は互いに、逃げる場所でしかなかった。
言葉では表し難い感情や遣る瀬無い思いを抱いた時、互いの温もりを求める事で解消していた。
他の誰かが傷付く事を知りながら。
今だって、あたしが知らない誰かを傷付けている。
あたし達は、変わらなくてはいけない。
彼女は握り締めていた携帯電話を操作し始める。
彼は直ぐに電話に出た。
空港が近いのか、雑踏する気配を感じる。
“今、大丈夫?”
“ちょっとなら。もうすぐ出発だから。どうしました?”
“七年前にさ、最後と思われる日に、あたしに腕時計をくれたの覚えてる?”
“え?何ですか、急に。さぁ・・・何時も何かの度にプレゼントしてたでしょ”
“あれさ、直ぐに壊れちゃったんだよね。動かないの。
で、電池かなって思って入れ替えて貰ったらそれでもダメで”
“そう、不良品だったんですね。腕時計が必要なら、今度会う時までに買っておきますよ”
“清四郎がくれたものだから動かない時計でも大切に仕舞っていたんだけれどさ、最後には無くしちゃって”
“良いですよ。使えないんだから”
“やっぱ、ダメなんだなって思ったんだよね”
“悠理、そろそろ。腕時計はプレゼントしますよ”
刹那、電波が乱れる。
“悠理、ごめん。そろそろ切るよ・・・え?何です?”
“やっぱ、ダメなんだよ、あたし達。その腕時計みたいに”
“何言ってるの?”
“清四郎と止まったままじゃいられない。あたしにはもう、逃げる場所はいらないもん”
“悠理、時間が無いから。また連絡する”
“せっかく独りで歩き始めたんだ。その歩みを止めたくない”
“一方的過ぎるよ!後で話し合おう”
“清四郎”
彼女が彼の名を呼ぶ声で、全ての音が消えた。
“いらないんだ。あたしだけの清四郎じゃないなら、いらないんだ”
許せるのは、たった一人じゃなきゃ。
“・・・・・分かった”
再び雑踏を感じる。
悠理は、彼が自分への自由を失った事を知った。
軽く息を吐くと、彼女は出来る限りの明るい声で彼に問う。
“今でも、あの時と変わらずあたしを好き?”
“相変わらずの直球ですね。ええ、好き・・・愛していますよ”
“ありがと。その言葉を糧に生きて行く”
“悠理。僕は・・・”
彼女は電話を切る。
最後に清四郎が言い掛けた事を知りながら。
震える手で携帯電話を強く握り締めた。
もう一度彼の声を聴きたいと言う衝動を押さえ込むように。
彼女はまた思う。
もし彼の言う“運命”が二人の間に存在するのなら。
本当に結ばれる運命なら。
その時はきっと、互いの気持ちが真っ新な状態なのだろうと。
今の彼等はまだ、渾沌とした人生の“途中下車”でしかないのだ。
1. おひさしぶりです!
kotanさま、お疲れ様でしたー!
清四郎の強さって、ときに人を傷つける強さなのかもしれませんね。気がつかないから強くいられるというか。
悠理はそれかがわかっているんですね。そしてそれを自分が求めていないことも。
kotanさまのシャープな文章とあいまって、せつなさ倍増です。
最後の電話のシーンの、新しい関係に踏み出せそうな期待と、清々しい痛みの余韻が素敵でした!
ありがとうございました!
じんじゃーさま
体調は落ち着きましたか?
私の拙作を読んでいただき、ありがとうございます!
この作品の清四郎は、7年前の関係が再び始まり、
何の疑いも無く変わらぬ関係を続けられると信じているんですよね・・・
悠理はそんな彼を少し大人の目で見ている。
変わらなくちゃいけない。
いつか本当に求め合う時、互いだけを見つめる事が出来ると思います!
じんじゃーさま、
どうぞ無理をしないようにして下さいね。
遊びに来ていただき、とても嬉しいです♪
こちらこそ、ありがとうございます!!