こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。
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剥き出しの土の上にレジャーシートを敷いて寝転ぶにはまだちょっと早い四月の日曜日。
悠理は清四郎と二週間ぶりのデートを楽しんでいた。
水辺に近い広域公園のアスレチックで体を動かし、お弁当を食べてベンチに寝転ぶ。
昼下がりの風が心地よい。
寝転ぶ彼女の横で、行儀良く座って遠くを見つめている清四郎の存在もまた。
「う~んっ!」
悠理は思い切り身体を伸ばす。
「気持ちぃー♪」
「春ですね」
「春だなー」
「芽吹いた桜も蕾が花開くばかりに準備され、そろそろですね、花見」
「うん!計画しょっ!今年はどこ行くかな」
「そうですね。悠理が行きたい所で良いですよ。僕も行きたい」
「うふふん♪」
何とも幸せいっぱい腹いっぱいの二人の頭上を、白い大きな鳥が優雅に飛ぶ。
「うわっ、白鳥だ!まだいたんだ。今からシベリアまで帰るんだな」
悠理は体を起こして立ち上がり、両手を大空に向けて振った。
「さようならー。気を付けて行くんだぞ!また来年なー」
後ろで座ったままの清四郎が、呆れたように声をかける。
「悠理・・・あれはサギだ」
「へ?サギ?サギってナニ?」
「・・・・・」
彼女は照れくさそうにベンチに座りなおす。
「へへっ。間違えちゃった」
「まぁ、似てなくも、ないですからね」
ちょっと気まずい雰囲気を壊してくれるように、清四郎の携帯電話にメールが受信される。
「あ、清四郎、メール」
「ええ。あ、魅録ですね」
なになに?と、横から覗き込む。
“明日、いつもの喫茶店で。時間は六時でいいか?”
小さく息を呑む気配に、清四郎は悠理を振り向く。
彼女は携帯電話を指差し、目を剥いて叫んだ。
「あああっ!やっぱりそういう仲だったのか!」
「違いますよ」
「前から怪しいって思ってたんだ。時々二人でコソコソしてるだろ?
あたし以外にもこうして約束してぇ~」
「違いますって。僕が所属する同好会に、ちょっと顔出してみたいって言うから。
ESP研究会ですよ。大学に入ったら、魅録も英語を専門的に学びたいってね。
心配なら悠理も一緒に行く?」
「い?い、いやあ・・・英語?・・・そうだったんだー。ならいいんだ。安心しちゃったし♪」
クスクスと清四郎は悠理を見て笑う。
彼女は極まり悪そうに彼の携帯電話を閉じたり開いたりしている。
「ねぇ、この待受画面、変えたら?変な模様。これなーに?斑の白」
清四郎は携帯電話を大事そうに取り上げ、画面をいとおしむように見つめた。
「これはある日の空です。
悠理。僕は、実は・・・この空から舞い降りたんですよ」
「え?ホント?」
「ぶぇ~。んなワケあるか。空ねぇ。
どう考えたって、清四郎は土から這い出た感じだよな」
「僕はゾンビか」
画面を興味深そうに見つめ、首を傾げる。
彼女には、その画面が空の写真に見えないらしい。
「まぁ、空から舞い降りたのは冗談として。
でもその空は、僕にとって特別な空なんです」
ん?と悠理は眉間に皺を寄せて彼を見つめる。
そんな仕草を、仲間は彼に似ていると言う。
成程、長く一緒にいると似てくるのかも知れない。
「この空は、悠理と初めてデートした日に一緒に見た空なんですよ。
今日みたいに気持ちの良いお天気で。
悠理が始終“綺麗だ。綺麗だ”って空を見上げては言っていた空なんです。
だから僕にとって特別な日の、特別な空なんです」
清四郎は真っ直ぐ悠理を見つめ返す。
彼女は思い出したように澄んだ茶色い瞳を大きくした。
それから嬉しそうに頬を染めてにっこりとする。
「思い出した。あの日、綺麗な空だった」
彼も嬉しそうに頷き、それからゆっくりと視線を空に移す。
「今日の空も、あの日のように綺麗ですね」
彼女もその視線を追うように空へと移す。
「うん」
清四郎の手に、悠理の小さな手を感じる。
彼は自分の指を彼女のそれに絡めた。
「悠理と見る空は、いつでも、どんな時でも特別です」
「うん」
心地よい風が、また二人を吹き抜ける。
どんな時、どんな物でも一緒に見れば・・・なんて、声に出さずに二人は思った。