こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。
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通りを歩くと、街には何時の間にかイルミネーションが飾られている。
”ああ、もう、そんな季節なのね・・・”
彼女はまだ明瞭ではない意識の中にいる自分に厭きれ返るように口元に笑みを浮かべた。
同時に思う。
けれど、違う。
そう、数時間前までの自分とは違うのだ。
何時までこんな状態が続いて行くのだろうと、数時間前にこの通りを歩いていた時は思った。
けれど今は、この通りを軽やかに走って通り過ぎても良い感じに思える。
時折吹く、頬を刺すような冷たい風から逃れるようにコートの襟を立たせる。
上目遣いに雑踏の中を足早に歩く。
意識をもっとしっかりと持つ。両足に力を入れて。
もう、この人込みから守る人はいない、守れるのは、自分自身なのだと言い聞かせながら。
今の彼女には、そう思えるだけの力と自信があった。
数時間前にこの通りを歩いた。
通りの向こうのカフェで、悠理と待ち合わせていたから。
気分が乗らない野梨子を、無理矢理街へと呼び出した。
来週のクリスマスの日にパーティをしようと、その計画をあのカフェで練ろうと突然呼び出された。
「連中はバラバラになっちゃったけれど、当日、来れる人だけで。
あたし、みんなに連絡してみるから、野梨子はね・・・・・」
何時かのあの日から経過した時間を遡る事は無くてもなお、影を落としたままの野梨子を思う悠理が今日も彼女へ電話をする。
彼女の不器用でも温かな優しさが、野梨子にとって支えだった。
けっしてあの出来事に触れる事は無くとも、まるで魅録に代わるように、彼女はいつも野梨子の傍にいた。
それが野梨子にとって良い意味を持たぬ甘えでも、彼女無しの生活はまだ考えられずにいる。
けれど、そう、けれど。
一番大切な人から失われた信用はもう二度と取り戻せないその現実を、野梨子は受け入れられないで何年も過ごしている。
悠理はその事を言葉としてではなく、野梨子が出す感情で理解していた。
語彙に乏しい彼女は、野梨子を導く術を行動で表すしか無かった。
カフェの前で、相変わらず時間を守れない悠理を待つ。
どんよりとした空は、予報通りに雨を降らせた。
それでもカフェの中に入らないで待つ野梨子を、走って現れた悠理は呆れたように彼女の手を取って中に入った。
自分の遅刻を謝りもしないで。
「冬の雨は淋しいけれどわりと好き」
悠理は野梨子を椅子に座らせて言う。
「冷たい雨を感じると冷静になれる。この悠理様も」
彼女は声を出して笑った。
ねぇ、野梨子・・・
あの日から本当の笑顔を見せない野梨子へ、温かな視線を向ける。
ちょっと照れたように、濡れた前髪を指で梳きながら。
「イメージかな?いいイメージを持つ!うう~ん・・・
楽しいコト、綺麗なコト。 うま~い飯に、あったかいスープ♪
衝動買いに・・・そう!ドライブ!それから宝くじ当選~~~!!あっは!
そんないいイメージが大切だよ」
既に社会人として働いている悠理が、しっかりと今を見据えて、また、今の野梨子を見据えて言う。
「失った信用は確かになかなか取り戻せない。
あたしももショッチュウやらかすよ。
でも大切な相手への信用回復は必要だけど、時には、スッパリ忘れるちゃうのも手かもよ?」
昔と変わらない、チャーミングなウィンクを野梨子に見せる。
「時に深く、時にあっけらかんと、自分が一番大切なんだから。ね♪」
パーティの計画なんて・・・
そう、悠理は、野梨子にこの事を伝えたかったのだ。
彼女の温かさは、まるで想い人と初めて心を通わせた時のように心をときめかせる。
ああ、私は、けっして独りぼっちではないのだ。
こうした今も、私の存在を肯定してくれている。
野梨子はしっかりとした足取りで歩く。
今の彼女の気分は、先程までとは違う通りを駆けて行きたいようだった。
さっきと同じ通り。
でも全く違った通りに見える。
夏の日のリゾート地。
土産物店が並んだ商店街。
真っ黒に濡れたアスファルト。
どれもこれもきっと、あの夏の日とは違う景色が今の野梨子には見えるかも知れない。
もしこのまま、あの場所まで駆けてしまえば・・・・・
自宅の部屋へ戻る。
やはり、出かける前とはちょっと違う自分を感じる。
何故だろう。
あの人への想いも、消せない過去も、彼女の中にそのまま存在すると言うのに。
その時、自分が以前まで使っていた携帯電話を手にしていた。
機種が既に古かったし、悠理の勧めもあって新しい物にした。
新しくなったからと言って、電話番号もメールアドレスも変更がある訳ではないのだから、
それに関しては悩む事無く済ませた。
中は殆ど空だった。
以前のデータは一度、SDカードに全て保存させていたのだが、あの人と関わる全てを削除していたから。
けれど指は、自分の意志とは関係なく動いた。
あ・・・何故?
携帯電話に入れたままのSDカードに、幾つかのデータが残っている。
仲間達とのメールのやりとりと・・・写真データ。
写真?
全て削除した筈なのに。
野梨子は不思議に思いながら指を進める。
まあ!
懐かしい!!
一番に彼女はそう思った。懐かしいと。
ほんの数枚の写真。
そこには魅録から送られた写真データが、何故か。
まあ・・・魅録ったら。
そう、そうでしたわね。
防衛大の寮に入舎してしまった魅録に、淋しさを紛らす為に写真を撮って送って欲しいと頼んだ。
それなのに彼は自身の写真ではなく、ルームメイトの写真やその日の夕食のメニュー、
学校近くの商店街の八百屋の野菜等を撮っては野梨子に送っていた。
そんな写真を、野梨子も苦笑しながら保存していたのだ。
全て削除していたと思っていたのに。
それから、気付く。
自分が、微笑んでいる事に!
口元に笑みを零し、懐かしんでいる事に!!
ああ、私は・・・
私は成長したのだ。
今、野梨子の胸の傷が僅かに疼く。
魅録がまた野梨子に想いを向ける奇跡は、起こらない。
”奇跡は、決して起こらないから奇跡”なのだと、その事は確信を持って言える。
けれども・・・
野梨子が心の中に灯す魅録への想いが本当の思い出になると言う奇跡は・・・彼女の小さな掌に・・・
1. 完結!
野梨子さんが吹っ切れた!よかったー!でもこうして吹っ切れて前向きになれたら、いつか魅録とも友人に戻れて、あの時は辛かったんですのよって言えるようになるかもしれませんね。そんでまた恋に落ちちゃうかも。(笑)でもこういうとき、魅録の方が未練もってたりして。(笑)
余韻が気持ちいい、素敵なエンディングでした。
ありがとうございました!
じんじゃーさま
本当に嬉しいです。
かなりの時間を要したけれど、何とか、悠理のおかげで吹っ切れた・・・かな?(笑)
そう、魅録は、どうなっているんだろう?
こういう時の男性の気持ちって分からないんですよね。
いろいろと時間がかかっちゃいましたが、何となく、淋しい・・・(笑)
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