こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。
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可憐は、衛生的とは言い切れないショッピング・モールのパウダー・ルームで震えていた。
鏡の中の自分は、今まで見た事が無い程蒼白で、やつれたように思える。
嘘吐き!!
彼女の頭の中は、先程からその言葉だけがぐるぐると回っていた。
鏡の向こうで、清掃員が不思議そうに彼女をちらりちらりと見ている。
彼女の様子に、窃盗でも働いてきたのかと思っているのかも知れない。
保安員に突き出されはしないかと懸念したが、決してそうでは無いのだからと言い聞かせる。
半年付き合っていた彼の事だ。
彼が遠く離れた地方へ転勤すると言う。
会社組織再編の為に、暫く転勤は凍結すると言ってたくせに、と彼女は怒りを顕にして思う。
「ごめん。ちょっと、断れなくて」
嘘よ!わたし、知っているんだから。
彼の奥さんが妊娠して、彼女の実家の最も近くの支社に転勤を希望したって。
彼と同じ会社に勤める可憐の先輩が、彼女に知らせてくれたのだった。
公に出来る間柄では、無い。
可憐が求める将来の相手では、決して有り得ない。
けれど、互いが不思議な力で惹かれ合った事実を、信じない訳にはいかない。
いつか一緒になる約束なんてしていない。
そんな事、望んでいない。
ただ、時々会って同じ時を過ごす、それだけで良かった。
それだけで、彼女は充分に幸せを感じていた。
少なくても後一年、一緒にいると。
それまでに、後悔が無いように、少しずつ距離をおいて行くつもりでいたのに。
初めは穏やかだった電話でのやり取りが、激しい言い合いに変わる。
一方的に捲し立てられると、彼女は閉口して仕舞うしか無かった。
まるで、他人みたいね・・・
電話を黙って切った後に、彼女は彼にメールをした。
何度かメールを続けたが、与えられる全ての言葉が、言い訳にしか見えなかった。
兎に角今は何を言われようが、決まってしまったのだから無理です。
頬から耳にかけて熱くなるのを感じた。
暫くは単身赴任だから、遊びに来るといいよ。
彼の考え方に腹が立った。
遊びに行って何になる?
どれだけの距離が、わたし達の間に出来ると思うの?
今までのように会えなのよ!
分かって言っているの?
怒りと哀しみで、身体が震えるのを感じた。
もうわたしを心から求めてくれる人は、いない。
倶楽部のメンバー以外なら、誰でも良かった。
今、自分の心にある隙間が埋まるなら。
彼女は片っ端から、携帯のアドレス帳にある男友達へ震える指でメールをした。
何人かは直ぐに返事をくれたが、全て断りのものだった。
その内の一人は、夜だったら時間が出来るから仕事が終わるまで待って、と言うものだった。
うん、ありがと。
何処で待っていれば良いの?
駅構内の喫茶店で。
七時には、行けると思うよ。
分かった。
気持ちが少し落ち着いた。
自分は独りじゃない、誰かが、わたしと会ってくれると言うのだから。
けれど友人は、七時を過ぎても来なかった。
それまで余り見ないようにしていた携帯だったが、約束時間が充分に過ぎた為に。
友人から、会議が長引いて無理だと言うメールが入っていた。
その他に、彼からも数件入っていた。
可憐は読みもせずに削除した。
それからちょっと考えて、彼との今迄のデータ全てを削除し、
電話番号もメールアドレスも着信・受信拒否設定をしてから削除した。
これで良い。
今までが間違っていたんだから、これで良いの。
これで、全て、終わり。