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ありがとうございます。
さて、本日はこちらのブログに“ボツネタ”をアップです。
ボツに相応しい感じに仕上がってしまいました。
ハッピーでもなく、ラストも想像におまかせ風・・・
ですので、それでも良い方のみ下方へお進み下さい。
苦手な方はお引き取りいただいてよろしいです。
週末からの連休を利用して、僕達は紅葉を終えた温泉郷へ泊まりに来た。
先週までは美しい秋の山を映していたであろうが、今日の山は赤黒く、所々は漆黒の陰が見える。
もうしばらくすると、木々は枯れたような枝を見せるのであろう。
メンバーが男女に分かれて湯に入り、長湯が苦手な美童が先に上がって温泉街へ土産店を見に出掛ける。
続いて僕が上がり、こうして近くの展望台で景色を眺めている。
紅葉も去り、今日に限って空一面に冬を思わせる重たい雲が敷き詰められている。
温泉郷ともあって、初雪が見れるかも知れないほど底冷えが厳しくなってきていた。
どこかで女性陣の声が聞こえる。
彼女達も湯から上がり、温泉街へ向かったのかもしれない。
このままここにいたら、湯冷めをして風邪をひいてしまうだろう。
だが、一向に足は皆の元へ向かわず、僕はこうして目の前の光景を眺めていた。
しばらくまたそうしていると、僕の名前を呼ぶ声が聞こえ、振り向いた。
「悠理も上がりました?みんなは?」
「上がったよ。お土産見に行くって。はい、これ」
差し出したのは僕のコート。
すでに悠理も、季節には早いダウンで身を包んでいる。
「ありがとう。この辺は本当に寒い。雪でも降りそうです」
「うん。だから、野梨子がこれを清四郎に持って行けって。風邪ひくといけないから」
僕はコートを受け取り、羽織る。
その間、悠理は僕が今しがたまで見ていた光景をじっと見つめていた。
歓声も上げず、表情も変えず。
まるで人形のような口許は、少し色を失っていた。
「雪でも降ってきました?熱心に見て・・・」
「雪なんて。だって、ほら、陽射しが」
振り返れば、なるほど、雲間から陽射しが幾重にも重なって黒ずんだ山々を照らしている。
「薄明光線」
「薄明光線・・・?へぇ、初めて聞いた」
そしてまた悠理は、口を閉ざす。
どうしたのであろう?
いつもの元気な彼女とは違って、何かを含んでいるようだ。
「小さい頃、あの陽射しの中を死んだ人が天に向かって上がって行くんだと聞いた。だから、陽の射す所には、そうした人がいるんだと信じていて。綺麗だけど、好きじゃない。今でも」
ああ、そう言えば、そんな話を自分も幼い頃信じていたように思える。
そして誰かに・・・そんな話をした。
「小さい頃は皆、そんな迷信を信じますよ。あの陽射しの中を亡くなった人なんて歩きはしません」
それから、彼女は囁いた。
耳をすまさないと聴き逃すほどの小さい声だった。
「天使の梯子」
彼女の口から、そんな言葉が出るなんて。
「ええ、天使の梯子。よく知っていましたね。その名前の由来を知っていますか?」
悠理がそんな言葉を知っているのにとても驚き、同時に意地悪な質問をしたくなる。
「ある旅人が夢の中で、雲の切れ間から射す光のような梯子が天から地上に伸びて、そこを天使が上り下りしている光景を見たから」
「その通り。天使の梯子という名称は、旧約聖書創世記に由来するんです。で、誰から教わったの?驚いちゃいましたが」
そこでやっと悠理は僕に視線を移し、目を見つめられた。
輝きを失ったようなその瞳は、普段の茶色いものとは全く違っていた。
「野梨子。小さい頃に、大切な人から教わったって」
「ふうん」
「清四郎だよね、きっと。こんな話を小さい頃からできるの、お前しかいないもん」
「まあ、僕が野梨子にとって大切な人かは分かりませんが、そんな話をしたかも知れません」
「悠理、清四郎」
その時、魅録が悠理の後方からやって来た。
「珍しく長湯してたら、みんないなくなってるんだから」
「ごめ~ん。てっきり美童と行っちゃったのかと思った」
「まだ入ってた。で、どうするお二人さん。土産でも見る?」
「あたし、行く。魅録も行こうよ!ね、来る時にさ、気になる雑貨店を見つけちゃった」
悠理は僕の目の前で魅録の腕を取り、その腕に絡むように抱きついた。
「いいよ。清四郎も来るだろ?」
「ええ、行きますか。ちょっと宿に寄ってから向かいます。お先にどうぞ」
二人が歩き始めるとほどなく、悠理が僕を振り向き、一瞥するように眼差しを向ける。
だから僕は、両肩を上げて左右に首を振って見せた。
“分からない”と言う風に。
二人が去ると、僕はもう一度薄明光線を見ようと振り返る。
けれどすでにそれは消え、雪雲のような灰色の雲が空を重たげに覆っていた。
そしてもう一度首を振る。
分からない、悠理。僕は本当に分からないんだ。
深いため息をゆっくり吐くと、今度は幼馴染みの声が僕の名前を呼んだ。
「野梨子。もう戻ったんですか?」
僕は彼女を振り返らず、前方を見たままそう問う。
「清四郎を迎えに参りましたの。だって、悠理と魅録が仲良さげに腕を組んで歩いて来るんですもの。せっかく私がきっかけを作って差し上げましたのに、無駄な努力で終わったものと察しまして」
「きっかけ?」
僕は視線を野梨子に移す。
野梨子もまた、冷ややかな目で僕を見つめていた。
「ええ、そうですわ。悠理に嫉妬させて、清四郎がその誤解を解くように仕向けましたのよ」
「薄明光線?まさか、そんな偶然」
「自然現象は私にとって必然ですわ。けれど、嫉妬はただの怒りに変わったようですのね。計画を練り直しませんと」
「余計な事を」
「だって・・・いつまで悠理を待たせるんです?気を持たせておいて。このままですと魅録へ気持ちが傾きましてよ」
「それは・・・でも。僕が悠理に気を持たせるなんて、覚えがありませんよ」
「あら、まあ。これだけ悠理が清四郎に近づいているのに、可哀想」
僕がいつ悠理に期待を持たせた?
確かに僕は・・・でも・・・
「野梨子は誰に嫉妬しているんです?まさか、魅録?」
また彼女は、悠理と同じような目線を僕に向ける。
「清四郎は何も分かっていらっしゃらないのね」
「野梨子?」
「私は必然も偶然も操られましてよ」
「自然現象も偶然ではなく・・・魅録は・・・」
その時、夕方の陽射しが雲間からゆっくりと野梨子の元へ降り、彼女の顔を照らす。
「意固地になり過ぎてますのよ。少しはプライドをお捨てになったら?完璧な人間なんていませんわ」
「どういう意味でしょう?」
反対に僕は、顔に翳りを帯びる。
「清四郎は自分のプライドにがんじがらめになって身動きが取れずにおりますのよ。そうでしょう?完璧でなくて良いではありませんか。完全な姿を悠理に見せた所で、悠理だって近寄り難いに決まっていますわ。不完全は、人を共感させますわ。寄り添って、助けたくなりますわ。清四郎の不完全は、悠理を共感させます。そして、清四郎も悠理を共感します」
野梨子は展望台の手すりに歩みより、雄大な山々を見つめる。
すると薄明光線は一斉に、広範囲に射し込んだ。
「悠理の元へ走ってお行きなさいな。魅録は・・・全てを知っていますわ」
僕は驚いて野梨子を凝視する。
「魅録が?」
「ええ、魅録。今頃、きっと痺れを切らしてますわよ」
僕は野梨子の言葉で自分の不完全さを深く覚り、不遜の笑みを溢す。
「こういう事、なんですね」
「そうですわ」
僕は身体中から沸き上がる悦びと共に振り返り、悠理の元へ走り出した。
1. 雲間に…
聖羅様
“ボツネタ”シリーズは、タイトルが浮かばなかったり、以前にアップした作品に似すぎたためにボツにしたり~等の理由で作ったシリーズです。
それでもせっかく書き上げたので一応アップしたいし・・・と言う思いもあります。
“雲間”は私自身お気に入りの作品で、遠い幼い頃の思い出もあります。
この二作品の野梨子はちょっと冷たいイメージがありますが、本当は心の奥に達するほどの深い切なさを秘めています。
恋愛としての「愛」と家族や仲間としての「愛」の中で揺れ動くような・・・
大切な仲間が幸せになって欲しい、けれどこの心の痛みは何だろうと言う感じの。
似たような作品がたくさんあって、私自身もどちらのブログにどのようなタイトルでアップしたかな~なんて探すときもあります(汗)。
けれどもそれだけたくさんの有閑二次を描いたんだな~と嬉しくもあります♪
いつも心暖まるコメントをありがとうございます!
とっても嬉しいです♪