今日は午前授業で部活のない日。
あたし達メンバーは学校帰りにショッピングモールに立ち寄って、フードコートでそれぞれ好きなランチをチョイスして食べた。
それからブラブラ好き勝手に歩いている。
清四郎と野梨子は書店。美童と可憐はアジアン雑貨店。
あたしと魅録はバラエティショップにいたけど、途中、魅録がバイク仲間とばったり会っちゃって立ち話・・・
一緒にいてもつまんないから、一人でブラつく事にした。
カジュアルショップやアクセサリーショップを一通り歩いて、エスカレーターで上ったり下ったり。
そうしている内に書店の通路側で背の高い学生服の男子を見つける。
清四郎だ。
山積みにされた新刊をいくつか手に取ってパラパラ捲っては元の位置にきちんと戻している。
それから店の奥に戻るようにして背中を向けた。
あたしは気付かれないように女性誌の並びに行く。
興味もない雑誌を手に取って眺めるようにして清四郎の背中を追った。
うまい具合に二列向こうの斜め前で清四郎は止まった。
何のコーナーかは知らないけれど、今度は熱心に立ち読みが始まった。
だからあたしは遠慮なくその背中を見つめる。
広くて、背筋が伸びて、綺麗な後ろ姿。
メンバーとして近くにいて、でも一番遠い存在のように思える。
何を考えているか分からない。メンバーの事、メンバーとしてのあたしの事、どう思っているのか。
一緒にいて当たり前のようにして、知らない所でいろんな人と繋がっているみたい。
小さい頃から気になっていた。
その当時は分かんなかったけど、勉強も運動もできてクラスをまとめられるから、羨んでいたんだと思う。
憧れの存在?多分そんな感じ。
気がつけば清四郎はちょっと横に移動していて、横顔が見えた。
背が高いからすぐに分かるよ。
鼻筋が通っていて、やっぱり綺麗だなって思える。
それでいて男らしいんだから、言う事ないよね。
・・・・・あたしには、手が届かない存在・・・・・
メンバーといるから、傍にいられるんだよ。
誰かに呼ばれたのか、清四郎は振り返る。自然な笑顔が出る。
多分小さな野梨子が清四郎を呼んだんだ。
いつも一緒にいるもん。
小さくて、日本人形のような愛らしい野梨子。
清四郎にとって一番近くて、一番頼りになる存在なんだろうな。
キュッて胸が痛くなって、居た堪らない気持ちになって、あたしは書店を出た。
バラエティショップに戻っても、そこに魅録はいなかった。
メールを確認しても、誰からもナンにも入っていない。
する事もないから、その店で輸入菓子やジュースをカゴいっぱいに買ってみた。
特別おいしいワケではないけれど、珍しそうなのをチョイスして。
レジが終わると同時に可憐から着信。
“食品売り場で野梨子とみんなのおやつを買うから、モールの正面で待ってて”
あたしは正面入り口近くに向かい、ベンチに座る。
湿度が低い爽やかな日で、陽が当たるベンチでも気持ちが良かった。
どうせしばらく待たされるんだろうからと思い、ショップで買った炭酸の強いジュースを出して飲む事にした。
キャップをひねると黒い液体のジュースが勢いよく噴き出す。
慌てて口に含むと、炭酸の強さとジュースの甘さに驚いた。
「いたいた」
背中をポンポンっと叩かれて振り向くと清四郎が立っている。
「あ、清四郎」
「野梨子達が買い物に行くから、悠理とここで待っていてくれと言われましてね」
「うん。可憐から連絡が来た。美童は?」
「美童は途中、前の彼女と会ったから一緒に出かけたって。魅録は?」
「こっちも。バイク仲間とどっか行っちゃった」
「なるほど。どうせしばらく待たされるんでしょうから、ここに座って待つとしますか」
そう言って、あたしの隣に座り込んだ。
小さな胸がキュキュッと甘く痛む。
さっきまで遠くにいた清四郎が、体が触れるくらい近くにいる、そう思うだけで頭がクラクラする。
あたしは何気なさを装うためだけにジュースを口にした。
「何を飲んでいるの?」
「輸入ジュース。でもただ甘いだけでおいしくない」
「どれどれ」
清四郎はあたしの手からジュースのボトルを取ると、それを当たり前のようにゴクゴクと飲んだ・・・
「わっ、炭酸が強くて甘い!」
「だ、だからおいしくないって言ったじゃん」
「コーラみたいな色だから、そんな味かと思った」
「もう、捨てる」
今度は清四郎の手からボトルを取り返す。
「せっかく買ったんですから捨てないで、少しずつ飲みましょ。たいした量がある訳じゃないし」
「でも・・・」
もう一度あたしの手からジュースのボトルを取ると、清四郎は二口飲んで差し出す。
ちょっと震える手で受け取ると、あたしも二口飲んだ。
「なれると不味くもないですよ」
「うん」
清四郎がまたボトルを取ると、最後にそれを飲みきる。
真横からじっと見ていると、唇とボトルの間から午後の柔らかな陽射しが射し込んですごく綺麗だった。
「何見惚れてるの?」
「ば、ばか!ジュース飲んじゃったって思っただけだい」
「あ、ごめんごめん。喉が渇いてたから、けっこう美味しく飲めました」
清四郎があたしを見て微笑んでいる。
その肩越しに、さっきの陽射しが見える。
二人だけの確かな時間。二人だけの、記憶。
でも、清四郎はすぐに忘れちゃうかも知れない。
あたしは清四郎の手もとに視線を移して、空のボトルを手にする。
よく見るとボトルのラベルは、南国の海辺を鮮やかな色で簡素に描かれている。
清四郎も気が付いて、一緒にラベルを覗き込むようにして顔を近付ける。
「常夏って感じのデザインですね」
「うん。夏っぽい」
「こうなると、今年の夏休みも南の島ですね~」
「そうだね!思いっきり夏を楽しみたい!」
「ですね。今年は僕と悠理で夏休みの計画を立てる?」
「うん。みんなが喜ぶとこ」
「了解。今度の週末、一緒にいろいろ調べるとしますか」
うん、うん!
あれほど遠くに感じた清四郎がこんなに近くにいる。
こんなに、笑顔が近くにある。
その時柔らかな肩越しの陽射しが、真夏の強さに変わった。
1. 青春♪
それも何度も!
甘酸っぱさ満点ですね。悠理が清四郎に見惚れているところにグッと来ました。
悠理→清四郎ってなんでこんなに甘いんだろう。
清四郎→悠理だとなんか澱んでしまう・・汗。
これからの夏が楽しみな悠理ちゃんがたまらなくかわいいです!
うつき様
悠理ちゃんの淡い恋心・・・
実は清四郎の確信あり!のお話です♪
清四郎は悠理が自分に向ける恋心を知っていたんです。
だから悠理の幼い恋心を、清四郎が引っぱってあげたんです。
暑くて、熱~い!二人の夏が始まりますね♪