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さて、やっと連載もラストです。
なんだかパッとしませんが・・・お許し下さい・・・
感情が失われているようでいながら強い光を放つ彼女の瞳が僕を捉える。
冷静さを取り戻した瞬間、僕は鋭い侮辱と怒りを感じた。
そして咄嗟に、“悠理こそ卑怯だ!”と口にしそうになった。
行きたくもない旅行に都合をつけさせ、呼びもしないのに部屋に入り込むなり卑劣な言葉を浴びせる彼女へ言い返したくなるのを何とか抑えた。
そして低い声を出して「何故?」と訊いた。
すると悠理の形の良い細い眉毛が片方だけ吊り上った。
「何故?」
彼女はおうむ返しにそう答える。
僕は“卑怯”と呼ばれる意味を自覚しながら、普段は彼女を見下す態度を取る自分が逆に指摘された事に得意のポーカーフェイスで隠し切った、と彼女が捉えたと思った。
「何故って、清四郎が一番よく分かってるだろが」
「さあ、僕には分からないから聞かせてもらおうか」
隣の部屋には姉が控えているし、感情に訴える悠理の性格もよく飲み込んでいるつもりだったから、彼女が落ち着いて話せるように普段よりも低く優しい口調で応えたが、却って彼女を苛立たせたようだった。
「それが分からなければ、お前はバカだ!」
僕は何時になく心が波打った。珍しく頬が熱くなるのも感じた。
けれどそれを彼女に覚られないように冷静さを取り戻すのにも必死だった。
そしてただその為に彼女を見据えていた事だけは鮮明に記憶している。
やがて彼女の瞳の中に感情のある温かな光が宿り始めた。
僕は安堵し、その光を自身の中で更に温めて彼女へと送り返した。
「確かに僕は感情を表に出すのは苦手だし、時にはそれが冷淡に見えて相手に伝わるだろう。
悠理のような無邪気な愛らしさや感情表現の豊かさを僕は持ち合わせていない。
だから悠理が僕を“卑怯”だと思うのは仕方がない事ではあるんですが」
「誰がそんなコトを卑怯と言うもんか」
「けれど、そんな僕を軽蔑する時もあるでしょう。分かってはいるんです」
「軽蔑しているのは清四郎だろ?お前はいつもあたしをバカにして」
僕は答えに窮した。
普段の僕の行動で、やはり彼女は傷付いているのだ。
愛しいと思うが余りの事と、彼女は信じてくれないだろう。
「清四郎はあたしの頭の悪さをバカにして、軽蔑してるじゃん!」
「それは悠理が僕の表現の不器用さをからかっているのと同じ事です。
確かに僕はそのようだから“卑怯”と言われても構わない。
けれど徳義的な意味で“卑怯”と言うのならそれは悠理が間違っている。
今までどんな場面においても、真正面から取り合って来たでしょう。違いますか?
もし悠理が“卑怯”と言う意味を徳義上として捉えていないのなら、どのように理解すれば良いのか説明して下さい」
「ああ。説明してやるよ」
何時になく悠理は冷静だった。
けれどすぐに見つめる澄んだ瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
刹那、僕の心は揺れ動いたが、自己の体面を飾る普段の彼女の強弁が口から出るのを僕は待ち設けた。
「清四郎はあたしを頭の悪いバカな奴だといつも心ん中で笑ってるんだ」
「それはからかっているだけで、本気思ってはいない。
悠理はやらないからできないだけで、ちゃんとやれば試験の点数だって上がるじゃないですか。
その為の僕との勉強会でしょう」
「あたしを、その、キライなくせに、さっきみたいに優しくしたり」
「嫌いだなんて、そんな事、ある訳ない」
「黙って、聞けよ」
「悠理」
彼女の透き通るほどの白い頬に、幾筋もの涙が流れた。
瞳の奥には強い意志が感じられ、僕はただ、次の言葉を待つしかなかった。
「あたしを好きでもなんでもないくせに傍において・・・
そ、そして、キスして、バカにして・・・突き放したり・・・なのに」
彼女はここで次の言葉を躊躇した。
自分の彼女に対する言動を恥じ、痛みも覚えたが、できる限りの優しさを持って彼女を促した。
「なのに?」
「な、なのに・・・なんで嫉妬するの!?」
語尾を荒らげ、それから激しく泣き出した。
僕は頬が熱くなるのを感じ、また同時に手足が冷たくなるのを感じた。
悠理は両手で小さな顔を覆い、嗚咽を洩らした。
僕達は暫くそうして向き合ったままでいた。
隣の部屋で引き出しを閉めるような音がし、それをきっかけのようにしてまた彼女は口を開く。
「清四郎は卑怯だ!徳義的に卑怯だ!魅録に対して卑怯だ!
なんであたしを弄ぶの?キライなら、はっきり言ってくれればいいのに。
あたしの心をめちゃくちゃにして突き放して、なのに、嫉妬して」
「僕は悠理に嫉妬した覚えはないです」
驚くほどに冷たい口調で僕は答える。
「出来心で悠理に口付けした事は謝ります。
また、無意識な内に思わせ振りな言動で悠理を傷付けていたのなら改めます。
もう、二度とこんな事はないように気を付けますから」
僕の言葉に、彼女は声を殺してまた泣き始めた。
清四郎の長い話は終わった。
同時に長いため息と共に目を伏せた。
私は察して顎に手を置き、それから考えるようにして呟いた。
「そうですの。そのような事が、二人の間にあったんですのね。知りませんでしたわ」
「ええ。でもだからと言って、特別に意識した関係には見えないと思います。
今まで通りの、大切な仲間です」
「私は・・・それでも、二人が特別な感情を持ってずっといると思っていますのよ。
もし悠理に清四郎をどう思っているのかと訊いたら、清四郎と同じように答えるのでしょうけれど」
私がそう言うと、清四郎は淋しそうに微笑んだ。
母の弟子が、気を利かせてコーヒーを運んで来た。
濃いキレのある味で、挽いたばかりの豆の香りが部屋中を満たした。
「それらの出来事は、二人にとって必然的な事だったのでしょうね、きっと」
「そうでしょうか」
「例えそれぞれにすれ違って見えても、互いを想っている事ははっきりしてるではないですか」
「悠理が、僕を想う?」
「これだけの話の中で、悠理の叫びが聴こえませんの?
清四郎に傍にいて欲しいと叫んでいるではないですか」
彼はまるで子供の頃のような幼い表情で天井を見つめている。
「けれど、今はやはり、悠理との距離を変える事はできないと思うんです。
どちらかが近寄ると、意識的に離れてしまう・・・不幸な一対を形作っている」
「不幸な・・・一対?」
好一対ではなくて?
私は思う。“好一対”とは二人の為にある言葉なのだから。
「間違っていますわ。そして、ただ自分の気持ちを悠理へ向ける事を恐れてるんですわ。
清四郎は悠理に突き放されるのではと臆病になっているんですわ。
悠理は、何度も何度も清四郎に近付いているのに!」
私の言葉に、清四郎ははっきりとした意志を持った瞳を私に向けた。
「やはり悠理は、恐れを知らない女性でしたか」
「ええ。想いに真っ直ぐな」
「時間はただ過ぎて行きますが、想いは・・・募るばかりです」
「そうでしょうね。全く、その通りですわね」
では、また明日。
清四郎はそう言って居間を出て行った。
多分行く先は、隣の彼の自宅ではないのであろう。
魅録と鉢合せになるのだろうが、隠し事を好む彼等ではない。
むしろ、はっきりした関係を魅録は好むであろう。
テーブルには一対のコーヒーカップ。
そう、“一対”とは私と清四郎の為にある。
そして“好一対”とは、悠理と清四郎の為にあるのだ。
不幸な一対など存在はしない。
私は、コーヒーカップを片付ける為に立ち上がった。