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さて、連載の続きです。
誤字脱字等ございましたらお許し下さい。
清四郎の話は思った以上に長く込み入っていた。
そして何より驚いたのは、彼の中では悠理との事を過去形にしてしまっていたのだ。
まさか、と思う。
何故なら二人は今でも(もちろん先程までも)普段通りであるし、言葉少なくても通じている事があるからである。
「僕達は今までもこれからも平行線の関係を続けて行くんです、きっと」
彼は諦めているかのように、ため息混じりにそう言った。
「平行線?私は、あなた方がお互いに惹かれ合っている思っていましたわ」
「惹かれていると常日頃感じてはいますが、彼女はどうでしょう。
僕を異性として意識しているかどうか。そんな時もあったでしょうかね」
異性としての意識については、メンバーそれぞれの不可解な不文律によるものと、私は感じてはいた。
今の関係を崩さぬようにする為の気遣いと思われる。
ただ、誰もメンバーとの恋愛を禁止している訳ではない。
そうなれば、多分、歓迎するのではないか。
もし、歓迎せざるおえない相手に恋愛感情がなければ、であるが。
倶楽部のバランスが崩れるのは、確か。
あるいは、清四郎も悠理も、倶楽部のバランスが崩れるのを恐れているのではなかろうか。
「清四郎が悠理を一人の女性として見ているのは分かりますわ。女性らしくない部分はもちろんですけど。
けれども悠理が清四郎を異性として見ていないと?」
「今は、大切な仲間の一人として僕を認識してくれているでしょう。異性としてではなく、むしろ」
「今・・・それではやはりそのような時があったのですわね。過去には」
「ええ。悠理の中では、過去に。悠理が僕を意識してくれていた時、僕は彼女の気持ちに気付いてやれなかった」
「詳しく話して下さいな。何故発展もせぬままに過去にしてしまうのか」
清四郎は空になったコーヒーカップを見つめ、もう一度ため息を吐くと私へ視線を動かした。
「野梨子はさっき悠理について“女性らしくない”と言いました。
確かに彼女はそうでしょう。言動は、褒められたものではありません。けれど・・・」
そう言って彼は、悠理との間に起った出来事を私へと話し始めた。
僕は悠理と出逢った幼稚舎から初等部の低学年頃まで、彼女を毛嫌いしていた。
それは野梨子も同じで、財閥の娘でありながら乱暴な挙動や下品な言葉遣いに甚だ呆れていた。
けれど僕の中で何故か彼女は気になる存在であり、気付くと視線はその方へと向かっていた。
多分興味から来るもので、幼馴染の野梨子との比較が僕をそうさせているのだろうと深く問わずにいた。
野梨子はもちろんクラスメイトは彼女を嫌っていたが、僕は彼女の言動は、例え過ぎたものとしても正義感から来るものと知った。
決して悪意ない言動は僕に新鮮さと清々しさを与え、次第次第に気持ちが奪われた。
「僕はね、野梨子。悠理はあなたや可憐と同じように、最も女性らしい女性と思っているんですよ」
僕と悠理の関係について配慮する野梨子に向かって僕は言う。
「彼女の言動が常に猛烈に見えるのは女性らしくない粗野なところを持っているからではなく、
余りに女性らしい優しい感情に前後を忘れて自分を投げかけるからだと僕は感じているんです。
彼女が持っている善悪是非の分別は豊富な経験や教養から来るのではなく、ただ直感的に、時に野性的に行われている。
だから当たりが激しく、相手は甚だ恐れてしまうのではないかと思うんです。
その証拠に、メンバーの誰一人として彼女を嫌っている者はいない。現に野梨子だってそうでしょう。
皆彼女に激しく当てられると間違いに気付き、心が洗われたような気持ちになった事が何回もあった。
正義感にあって誰よりも前に立ち、最も女性らしい女性だと僕は信じて疑わないんです」
そういった悠理の真っ直ぐな思いや芯の強さは純粋な感情から来るもので、人としてとても美しいと思われる。
けれど自分はどうであろう?
悠理に以前より続く想いを告げ、果たして彼女を幸せにできるのであろうか?
彼女のように想いを直向きに与え、受け入れる事がこの僕にできるのであろうか?
素直ではない僕は、きっと彼女を傷付け、悲しませるに違いない。
ありのままを恐れる僕は、彼女のような純粋で強い、恐れを知らない女性へ悦びを与える事はできない。
じっと清四郎の話を聴いていた私は口を開く。
「清四郎自身を変える事はできませんの?」
私の言葉に、彼は愁えを帯びた顔を向ける。
「もう全ては、遅過ぎるんです」
そうして彼はテーブルの伝票を持って立ち上がった。