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さて、皆様のお住まいでは桜の花は満開ですか?
私の田舎は、今週やっと咲き始めました♪
そんなこんなの小品です~。
川辺の桜並木は今が満開と咲き乱れている。
道路沿いには屋台が並び、料亭のお花見弁当を平らげたばかりの悠理だが、さっそく買い食いに走っている。
もちろん、魅録は悠理に付きっきりで忙しい。
他のメンバーと言えば・・・
清四郎と野梨子はレジャーシートの上で向かい合い、穏やかな風と柔らかな陽射しを浴びながらまったりと会話している。
美童と可憐はまるで恋人のように並び、辺りを散策している。
二人はお花見客の視線を一斉に受け、満足している。
「待てよ~、悠理。さっきたこ焼き食ったばっかだろ。なんで今度はお好み焼きなんだ?」
「おいしいから食べたいんだもん」
「だってお前、たこ焼きもお好み焼きも似たような味じゃないか」
「へ?全然違います~。たこ焼きはタコだよ?」
「ふ~ん・・・」
「魅録も食べる?」
「いらない。あんまり食べるとお腹壊すぞ」
「だいじょーぶ!」
そうして彼女は屋台でお好み焼きを一個だけ買うと土手へと向かった。
「あれ?あっちに戻んないの?」
「うん」
「なんでこんなとこで食べるんだよ」
「だって・・・」
それから彼女はしゅんとしたように土手に座り込み、あっと言う間にお好み焼きを食べた。
ビニール袋に食べ終えた空のトレーと割り箸を入れると自分の脇にそれを追いやり、
膝を抱えてゆっくり流れる川を見ているようだ。
「また清四郎となんかあったんだろ?」
さっきから彼女の横で草の上に体を伸ばしていた魅録が、寝ころんだまま訊く。
拗ねたように両膝の間に小さな顔を埋め、黙っている。
「そうだろうと思った。お前ら、ちっとも話をしてなかったもんな。野梨子が話をふってもしらっとして。原因は?」
それでも黙っている彼女の様子から、魅録は推測する。
「は~ん。週明けにあった学力テストだろ?結果が悪かったとか」
ピクリと華奢な背中が動く。分かりやすい。
「そりゃあ、お前、そうだろ。週末は清四郎、お前のために時間を潰してやったんだ」
「・・・・・だってぇ」
「だって、なんだ?」
「だって、さ。だって、文章が変わるとちょっと分かんないもん」
「読解力がなさ過ぎなんだ」
「ふぇ~ん」
「あほ」
「それにあいつ怖いだろ?とにかく答えを暗記してその場を逃れた」
「答えを暗記できるくらいなら・・・」
そこまで言って、悠理がしくしく泣き始めた。
「まあ、お前なりにがんばったんだよな。分かるよ。じゃあ今度から俺が勉強を見てやるから」
魅録はいつでも悠理に甘い。
「でも、そんなこと言っても、清四郎が許さないもん」
「俺がちゃんと説得するから」
でも、と彼女が思う。
例の留年の件で、清四郎との秘密の約束がある。
魅録と言えば、彼女の濡れた真っ赤な頬見ると、元気づけたいと思う。
何とかしてやらないといけないとも思う。
彼は起きあがり、その背中をポンと叩く。
「約束するから、もどろ」
「うん」
しぶしぶ立ち上がる。
少しの間二人で川の流れを意味もなく眺めていると、突然草むらから仔犬が現れてお好み焼きを食べた後のビニール袋に飛びついた。
「あっ!犬!」
申し合わせたように声をそろえて叫ぶと、びっくりしたように仔犬はビニールを噛んだまま逃げる。
「待て待てー!」
必死で逃げる仔犬だが、あっと言う間に魅録の大きな手に捕まった。
「こらっ!捕まえたぞ」
「かわいーっ♪」
横から覗き込む悠理がビニール袋を引っぱる。
「こん中にはなんにも入ってないんだ。ごめんね。あたし、全部食べっちゃった」
そう言うと、不思議に仔犬はビニール袋を放す。
「わー。こいつあたしが言ってること分かるんだー。賢いなぁ、お前」
魅録と顔を合わせて微笑むと、今度は悠理が仔犬を抱いた。
「柴犬?秋田犬?産まれてどれくらいだろ?かわいいなぁ。迷子かな」
顔を寄せて抱きしめると、仔犬は小さく震える。
まだ鼻先が真っ黒で、目はおどおどしていた。
「怖くないよ。お母さんは?誰と来たの?」
震える口元に、悠理は自分の頬をあてる。
まだミルクの匂いがしそうなほど幼い。
「捨て犬なら、あたし連れて帰る」
「うん。どうかな。とりあえずみんなのとこに戻ろう。その内飼い主が現れるかも知れないし」
「うん・・・」
悠理はもう放したくないと言う意思表示に、ぎゅっと仔犬を抱きしめる。
仔犬は馴れてきたのか、じっとされるままになっていた。
メンバーの所へ戻ると野梨子も可憐も仔犬を喜んだが、怖がって触ろうとしない。
美童はちょっと頭を撫でただけだった。
「かわいいのにぃ」
「別れが惜しくなりますもの。それに早く飼い主を見つけて差し上げないと、かわいそうですわ」
野梨子が悠理を心配するように言う。
「うん」
「そろそろお開きにして。俺と悠理で飼い主探しながら帰るよ」
「分かったわ」
可憐も悠理の様子を見ながら答えた。
みんなはシートや弁当を片付けて、その場で解散する。
悠理は淋しそうに仔犬を抱きしめていた。
「きっと見つかりますよ」
そう言って清四郎が近付いた。彼だって悠理をいたたまらない心境で見ていたのだ。
「うん」
悠理は彼を見上げる。
不安そうな瞳が仔犬そっくりで、清四郎は思わず微笑むと仔犬の頭に手を伸ばした。
すると突然、仔犬が強い力で悠理の手を振りほどくように身をよじてするりとその手を抜けた。
「あっ!」
悠理は急いで仔犬の後を追い、悠理の後を清四郎が追う。
気付いた魅録も追いかけようとしたが、後ろから野梨子が叫んだ声で振り向いた。
「野梨子、どうした?」
「一人では、この荷物は持てませんわ」
「わりぃ。そうだよな」
魅録は野梨子の足元にある荷物を両手に持った。
清四郎が木陰に隠れるようにして何かを見ている悠理に追いつく。
彼女の視線の先には、飼い主らしい男の子が犬用のキャリーに仔犬を入れるところだった。
「悠理」
「仔犬の飼い主が見つかった」
「ええ」
「良かった。本当に、良かった・・・」
静かにそう言ってじっと動かない悠理は、きっと哀しんでいるのだろうと感じる。
「僕が仔犬の頭を撫でようとしたから、驚いて逃げっちゃったんですね。
悠理に悪いことをしました」
「ううん」
首を大きく左右に振り、彼女は清四郎を振り向く。意外にもその顔には笑顔があった。
「違うよ。清四郎が悪いんじゃないよ。あの時、わんこは飼い主の匂いを嗅ぎ取ったんだ。
ほら、嗅覚が鋭いから」
「僕を怖がったんじゃなくね」
「そう。だから謝んないで」
「ありがとう」
そうして二人は久しぶりに向かい合って微笑む。
「しかし、悠理も魅録も動物好きですね」
魅録と野梨子が待つ場所へと歩き始める。
「うん。大好き」
「仔犬も、悠理に抱かれるままでした」
「えへへ。犬好きが分かるんだな~♪」
「悠理も魅録も心が優しいんですよ。だから動物もなつくでしょ。僕はそうはいきません」
「そんなことないよ」
悠理は立ち止まって清四郎を見上げる。
今度の瞳は、しっかりとした意思が映っている。
「そんなこと、ない」
「悠理」
「清四郎は厳しいけど優しいよ。そうじゃなきゃ、あたしに勉強を教えられないもん」
「そう?そうかな」
「根気よく教えてくれるよ」
「あはは。ありがとう」
「こないだは、ごめん」
やっとごめんが言えたとばかりに両手を合わせて顔を隠す。
ねぇ悠理、と清四郎はそんな彼女の耳に顔を近づける。
「ん?」
「悠理も根気よく教えられて下さいね」
音をたてるように頬を赤らめ清四郎を睨む。
「そ、そんなこと、耳元で言うことか」
「ひと言余計でした」
「もうっ!」
笑いながら走り出す清四郎を、悠理も笑って追いかける。
ざーっと風が強めに吹く。
桜の花びらがばらばらと、二人の後を追うように散り始めた。