おはようございます!
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さて、本日からまた連載・・・先日ちょっと書いていた重い作品です。
下記の注意をよくお読みになって下さいね。
*今回の作品はメンタルヘルス的な要素や現実とは違う症状を描いております。
また年齢制限がある(若い方には不適当な)文章も含んでおります。
その為、このような文章をご理解いただける方のみご覧下さい。
十代のお若い方やメンタルヘルス的・年齢制限を感じさせる表現を好まれない方はご遠慮下さい。
読後の苦情も受けません。
彼女が失声症になったと聞いたのは、三学期を迎えた初日、始業式の後だった。
メンバーが揃わない生徒会室で、魅録が言い難そうに説明した。
実際に入院したのは今年になってからと言うので、多分数日しか経っていないのだろう。
「入院って、何処の病院ですの?」
野梨子が魅録に質問しながら僕の顔を見る。
もちろん僕は知らないのだから、彼女に向かって首を振る。
「郊外にある心療内科を主とする病院。さほど重い訳ではないから、入院病棟とは別の棟にいるらしい」
「そう?」
ちょっとホッとしたように可憐が言う。
「失声症って聞きなれないけど、どんな症状?」
やはり美童が僕に質問する。
だから僕は、簡単にその病気の説明をした。
「失声症とは読んで字の如く、声を失う病の事で、正式には心因性失声症と呼ばれ、
心理的ショックやストレスなどから声が出なくなり、話せなくなる症状を言います。
失声症の症例は、全く声が出ないと言うのもあれば、囁くようなひそひそ声なら出ると言うのもあるそうです。
無意識に独り言を喋れても、意識した途端に声が出ないと言う例もあるそうで、人によって症状の出方も様々なようですよ。
どれ位で声が戻るかと言うのも人によって異なり、数時間で回復した人もいれば、半年以上かかった人もいるそうです。
また、治ったと思っても頻発してしまうケースもあるらしいが・・・
悠理の症状がどうなのか、ちょっと会ってみないと分からないですね」
四人分の視線が、酷く痛い。
「どうして悠理がそんな病気になっちゃうのかしら?
確かに二学期の後半からちょっと休みがちだったわ。体調を崩してクリスマスも忘年会も欠席だったし」
「ああ。確かにそうだったな」
「原因は何だろう?」
「心因性と言うのはストレスなどの精神的なものが原因で起こるものであり、明確な治療法と言うのもありません。
失声症は自然治癒で治るとされていますがね」
野梨子が悲しそうな表情で可憐を見上げる。
「今日、ちょっと行ってみませんこと?心配ですわ」
「そうね。魅録は病院の場所、知ってるんでしょ?」
「いや。おじさんもおばさんも、五代さんすら教えてくれないんだ。
さっきも言ったけど症状はそれほど酷くないし、今はそっとしてやって欲しいって」
「そんな・・・」
清四郎、と誰かが僕の名前を呼ぶ。
「清四郎なら聞き出せるだろ?」
「まぁ、しかし・・・」
普段なら誰よりも先に行動を起こすであろう自分だか、今回はそう言う気持ちには、ならない。
彼女の病気の原因は、多分自分にあるであろう事は分かる、けれど。
今日のところは、と言って僕達は解散する。
けれどその後、魅録が僕の自宅に来たのは言うまでもない。
一度帰宅してから来たのか、魅録はラフなトレーナーにジーンズ姿だった。
着こなした革のジャンパーから、夕方特有の外気の匂いがする。
僕の部屋に入るとすぐに床に胡坐をかいた。
「清四郎なら、積極的に俺を誘うと思ったけど」
悠理の病院について剣菱家を訪ねようとしない僕に向かって魅録は言う。
「心因性でしょ。だとしたら万作さんが言うように、そっとしておいた方が良いのでは?」
「精神的だからこそ、原因を突き止めたいと思わないか?」
「でも悠理が何らかの形で傷付いているのなら、僕達が行く事で余計にストレスに思わないだろうか」
「清四郎」
魅録は僕をじっと見据える。
「何です?」
「らしくないな。お前原因を知ってるんじゃないか?」
「まさか。ただ、悠理を思うなら」
そこで言葉を失う。
「なら良いさ。俺だけで行く」
「・・・・・」
「今から剣菱邸に行って、もう一度訊いて来るよ」
「ええ」
ジャンパーを手に、彼は立ち上がってドアに向かう。
「親友だろ?俺達三人は、特に」
「もちろん」
「どんな時でも、傍にいてやりたいと思わないか?」
「すみませんが、今は」
「分かった」
彼は振り返らずに音を立ててドアを閉めた。
それから数時間して、魅録からメールが届く。
病院の名前と場所が入力してあり、今週の土曜日に見舞いを予定しているともある。
僕はそれに返信せずに、明日学校へ行くまでに気持ちを決めようとベッドに入った。
夜中に目が覚めた。
腰の辺りが重く、パジャマのズボンが生暖かい。
驚いて手をそっと載せると、自分が夢精している事を知った。
こんな事は珍しく気分が滅入ったが、ベッドから起き上がって新しい下着とパジャマを用意し、
汚れた場所を隠すようにバスルームに向かった。
時間が時間だけに、家族は皆寝入っている。
僕はシャワーを浴びながら汚れたズボンとブリーフを洗い、洗濯機に放り込んだ。
それからキッチンで湯を沸かし、インスタントのコーヒーを作って自室に持って行く。
ベッド脇に座り、目を瞑って見たであろう夢を辿る。
断片的にしか思い出せないが、多分あの日の事を夢で見たのだ。
放課後の生徒会室の仮眠室で、悠理と行った事。
シーツの冷たさと彼女の肌の温もりが交差して、現実感を失わせた。
僕は冷めかけたコーヒーを口にする。
そして全てが夢であって欲しいと思う。
けれど・・・ベッドに残る匂いとあの日の仮眠室の匂いが鼻に付き、それが現実だと自覚する。
悠理が病気でないのなら、もっと違った目覚めであったかも知れない。
冷めたコーヒーを諦め、僕はベッドに戻る。
肌に残る嫌な感触と、匂い。
けれどブランケットを頭まで被り、土曜日の見舞いについて思案した。