メリークリスマス♪
皆様、いかがお過ごしですか?
こちらは雪がチラチラ舞っているクリスマスです。。
家族や恋人と楽しい時間を過ごされる方が多いと思います♪
さて、私からクリスマスプレゼントとして1本作品をアップします。
クリスマスには・・・ちょっと関係ないですが、
“彼女の恋を知った時”の続きを書き上げました。
よろしかったら、お立ち寄り下さい。
ご訪問ありがとうございます。
拍手も嬉しいです♪
※改稿※
曜日変更~♪(笑)
昨夜、ほんのちょっと降り積もった雪は、朝の陽射しと共に融けてアスファルトに小さな水溜りを作った。
水曜日の午前のそれは冬を忘れさせるほど強く、日中には水溜りすらも消えてしまった。
清四郎はホテルのレストランの席を離れていた。携帯電話に着信があったからだ。
相手は自分の姉で、今夜は母親と出かけるから、夕食も何処かで済ませて来て欲しいという事だ。
「パパも今夜は病院から離れられないんですって。夜食用のなんかは買ってくけど、軽く食べて来てよ。
どうせ連中と一緒なんでしょ?」
状態の良くない患者が、父親の経営する病院にいると言う。
「分かった。適当にやるから」
そう言って早々に電話を切る。
これ以上長く話していると、何か余計な用事を頼まれそうだからだ。
レストランに戻るとランチバイキングはクリスマス当日の所為もあって先程より込み合い、
メンバーの姿が見受けられない。
席に戻ると、悠理がテーブルいっぱいに皿を並べて料理を食べていた。
「あれ、みんなは?」
「デザートかな?野梨子と可憐はケーキバイキングだって。美童はさっき昔の彼女と再会したって、どっか行った。
魅録は、多分野梨子達と一緒だろ」
「ふうん。ねぇ、僕もこの皿の料理、食べて良いです?」
「いいよ」
二人はしばらく黙々と目の前の料理を食べた。
それから清四郎は、一ヶ月程前から気になっていた件を悠理に訊いた。
「あれから、可憐は?元気がないから気になっていたけれど、ここ数日は上機嫌だ」
そう、悠理から聴いた可憐の恋は、その話を知る三人を哀しませた。
「男と別れたって。スンゴクまだ大好きだけど」
「おや。何時?」
「先週くらい」
「ふうん、なるほど」
午後の強い陽射しが二人のテーブルに届く。
良く見ると、彼女はさっきから同じ皿を突付いているようだ。
「珍しく、料理が口に合いませんか?」
「え?」
「だって、さっきから同じ皿にフォークが行ってますよ」
「ううん」
「どうした?」
「うん・・・可憐の話、思い出したら、さ」
「どうして別れたんですかね?やっぱり、辛過ぎましたか、可憐には」
皿から視線を上げ、清四郎を見る。
あの長い秋雨の夜から見せる彼女の表情は硬く、瞳は以前よりも翳りを増した。
「大好きだけど別れるって、どういう事なのかな?ううん、分かるよ、だって好きな男が別な女好きって辛過ぎるもん」
「そうですね」
「どんな相手でも振り向かせる事はできるかも知れないけれど、自分だけの幸せじゃないからって。
うん、と・・・彼の事が大切だから、彼にも幸せになってもらいたいって、言ったかな」
「ん?」
数日前、可憐が悠理の自宅を学校帰りに寄った。
彼女がたった独りで突然来るのは珍しい事だし、彼との件と悠理にも察しが付いた。
「彼ね、わたしを通して好きな人を見てるの。そしてわたしをその人に似せようとしているの。
でもそんなのフェアじゃないわ。わたしはわたしよ。わたしをちゃんと愛してくれる人じゃないとイヤよ」
「可憐は、そう感じるんだね」
「100%、そうだと確信してるの。残念だけど、そうなの」
「うん」
「彼の事は今でも好きよ。だから幸せになってもらいたいの。
彼の幸せはわたしをその人のように仕立て上げて一緒になる事じゃない。
その人の事で自分自身を決断して、前に進む事じゃないかしら?そう思わない?」
「可憐と共に決断するんじゃなく?」
「そこにわたしがいてはいけないの。彼独りで決断するのよ、自分の想いに」
「うん。そうだよね」
「ええ、そうだわ。それにね・・・」
可憐はそこで悠理を見つめる。
彼女の瞳はとても澄んでいて、熱い南国の海を思い出させた。
「わたしの幸せはわたしだけのものじゃないの。
一番大好きな人と結婚して、ママを幸せにする事なの」
「玉の輿に乗って」
「ええ。うんっとお金持ちの美形と結婚して、ママを楽させてあげるの。それがわたしの幸せ」
だから別れたの・・・
「納得した?」
「僕は可憐を愛しているけど、君の心の奥まで届くほどまだ強くはないのかなって。
もっと強くなったら、必ず迎えに来るって」
「そっか」
「うん。でもその前に王子様が現れたら、そっちに行っちゃうかもって言ったわ」
可憐は悠理に向かって微笑む。
それから静かに、少しだけ泣いた。
秋雨を呼び起こさせる泣き方で、悠理はその華奢な肩を抱いた。
「可憐は強いなって思った」
「決断をしたんですね。彼女なりに」
悠理は既にフォークを料理が残った皿に置いていた。
「そう言う形の恋も、あるんだね」
「そうですねぇ、お互いを思っての恋、ですかね」
「可憐は、悲しいの?」
「ある意味では。でも悠理が言う通り、二人の愛の形でしょうかね。
何時か、可憐に王子様が現れる前にその彼も決断したら、上手く行くかも知れません」
テーブルに射し込む陽射しの中で、細かな塵が螺旋を描くように上っている。
その向こうで悠理が清四郎に向かって微笑んだ。
「何か、元気もらった」
「僕も、です。可憐の決断は、僕達に勇気を与える」
「自分の気持ちに素直になるって事も大切。
相手の幸せを願うのも大切だけど、自分の幸せも大事だよね」
「悠理なら、どうします?」
「え?」
「あの日、可憐の気持ちが分かるって言ってましたね」
陽射しの中で、一瞬明るくなった彼女の瞳や表情が動きを止める。
思わず口にしてしまった清四郎の心臓が早鐘を打つ。
「今は?」
「今は・・・」
表情は留まったまま。
「自分の事になると、難しいな。可憐とは立場がちょっと違うよ」
「好きな相手に、悠理の気持ちは伝えていないから?」
「うん。好きな相手に、別の好きな子がいるって事だけ」
「僕は悠理の幸せを願ってますよ。大切な仲間ですから。
でも悠理が、例えば、可憐のような立場になったら、“そんな恋、止めてしまえ”と言いそうですね」
「そして・・・どうするの?あたしは止めなくちゃいけないの?」
清四郎は後悔した。心に陽が射した彼女に、また秋雨を降らせてしまう。
だから、思わず口にしてしまう。
「僕が傍にいますよ。悠理が立ち直って、前に進めるようになるまで」
「そんな事しちゃあ、野梨子が悲しむよ!!」
南下した秋雨前線がまた北上してしまう。
「ええっ!何で?」
そして彼もまた、柄にもない頓狂な声を上げてしまった。
「だって、だって、そんな事したら、野梨子との仲がダメになるだろ!?」
「野梨子との仲は、今までと変わらないと思いますが」
「ダメだよ。仲間通しの付き合いなら分かる。でもさ、好きな相手とは違う女の傍にいちゃあ、いかん!」
近くにあったグラスの水を飲み干す。
どうやらそれは悠理のものだったらしく、彼女は抗議の声を出した。
けれど彼はそれを無視し、頭の中を整理した。
バラバラになっている事実を、真っ直ぐに整列させないといけない。
「僕の事が先で恐縮ですが、僕は野梨子と個人的な付き合いはしていません。
よく二人で行動してますけどね、兄妹のようなものですから」
「ああ・・・そう、なんだ。そうだよね」
「だからもし悠理が魅録に告白して、“でもやっぱり俺は王女が忘れられない”ってなっても、
僕がいるから大丈夫です」
「え?魅録?どうしてあたしが魅録に告白するの?」
せっかく整列をしているのに、何故悠理はまたバラバラにしようとするのだろうと彼は思う。
「ああ・・・悠理の好きな相手は魅録ではない、と」
「そんな事言った覚えはない」
悠理は彼の顔を楽しそうに覗き込む。
一気に真夏の太陽が、雲間から顔を出したような笑顔だ。
「清四郎は好きな人がいないから、もしあたしが告白に失敗しても傍にいてくれるんだ」
「ええ・・・そう、言いました?」
「立ち直るまで、ずっとね」
「ええ・・・まあ・・・ずっとって言うのも、辛いかな。僕にとっては、ねぇ」
二人はしばらく見つめ合い、バラバラになった事実を無言の内に一緒に整列させた。
「日曜日にクリスマスパーティは終わらせちゃいましたけど、今夜、どうです?
二人でクリスマスを祝いましょうか?用意されたようにクリスマス当日です」
「いいねぇ。パーティは大好き♪何回でも歓迎」
ちょうど今夜の夕食は外でと、彼は姉に言われていた。
「じゃあ、後でね」
「ねえっ!悠理、清四郎!」
可憐と野梨子がトレーいっぱいにケーキの皿を載せて来る。
「見て見て!美味しそうでしょう。全種類のケーキを盛って来たの」
「可憐ったら。食べ切れませんわって言いましたのに」
「大丈夫よ!ケーキは別腹よー。それに悠理だっているわ」
二人の静寂な時間が失われ、思わず顔を見合わせ笑ってしまう。
「おーい、清四郎。テーブルあけてくれ」
可憐達の後ろに、魅録と美童がトレーにコーヒーやらジュースを載せて来た。
清四郎はテーブルの料理皿を重ね、悠理がケーキが載ったトレーを可憐から受け取る。
「クリスマスパーティは早々に終わっちゃったけど、ここでまた簡単にやりましょ」
可憐の言葉に、メンバーはそれぞれのテーブルに着く。
清四郎はすっと悠理の隣の席に座って言う。
「良いですね。じゃあ、皆さん、グラスやカップを手に」
好みの飲み物を手に、皆は中心に掲げた。
「二度目のクリスマスパーティに、乾杯!」
「かんぱ~い!!」
グラスやカップが触れる音、メンバーの笑い声。
何より、可憐の笑顔が輝かしく思え、清四郎と悠理はまた顔を見合わせて微笑む。
「悠理、明るい未来に、乾杯」
「乾杯。ヨロシク~」
清四郎はコーヒーカップを、悠理はオレンジジュースが入ったグラスを小さく掲げた。