ご訪問ありがとうございます!
すっかり冬になりましたね~。
私は先日の雪予報で、タイヤ交換しました。
新しいスタッドレスタイヤを購入して装着してもらいました。
今年の冬は、アイスバーンでも安心して運転できそうです!
さて、久しぶりに連載を始めます。
と言っても、長い文章を一度に書けないので連載の形にします。
すみません。。
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魅録と悠理が僕の家に来たのは、土曜日の昼過ぎだった。
その日は珍しく予定もなく、朝から自室に閉じこもって読書をしていた。
「清四郎、何してるの?」
電話をかけてきたのは悠理で、近くまで魅録と来ていると言う。
「特に何も。朝から部屋でずっと本を読んでいました。どうした?」
「今ね、魅録と近くまで来てるの。お昼ご飯は食べた?」
彼女の質問はいつも前後の流れがない。
「まだですね。朝食を食べたきりです」
「ちょうど良かった。ランチ買って来たから、そっち行っていい?」
家族はみんな留守で、手伝いの者も休みだった。
だから昼食を持って遊びに来る友人達を歓迎するのは当たり前だった。
「ええ。もちろん」
「サンドイッチとフライドチキン、シーザーサラダ」
「良いですね」
「何か飲みたいのある?コーラは買った」
「いえ。コーヒーならありますよ。作っておきます」
「サンキュ。十分くらいで行く」
彼女はそう言うと唐突に電話を切った。
僕はそんな彼女の態度に苦笑し、それからざっと自室を見渡した。
特に乱れている感じではない。
ベッドの毛布を整え、椅子の背にあるジャケットをハンガーに通して壁にかけた。
エアコンディショナーの温度を低めに設定し、一階のダイニングルームに降りた。
もちろんここも母親の手によって整理整頓されていた。
続くリビングルームも同様で、ソファの上の新聞紙をマガジンラックに戻し、ファンヒーターのスウィッチを入れた。
壁にある鏡に自分自身を映して見る。
ちょっとくたびれたシャツにコットンパンツ、洗ったまま乾いてしまった髪。
けれど不潔な感じがないのでそのまま迎える事にした。
キッチンでコーヒーを作る為の湯を沸かした時に玄関のチャイムが鳴った。
珍しく時間通り。
「よおっ!」
ドアを開けると元気な声と共に紙袋を差し出される。
その向こうで悠理が白い歯を見せて笑っている。
「どうも。魅録は?」
「魅録はコンビニで今日発売の雑誌を買ってから来るって。さっきまで一緒だったけど」
「そう。ま、入って。ダイニングで良いでしょ、お昼」
「うん」
彼女は僕の横を通り過ぎ、玄関を上がる。
後は勝手にダイニングへと向かって、テーブルに食べ物を散らかすのだろう。
僕はキッチンでコーヒーの続きを作り、トレーにコーヒーポットとマグカップ三人分を載せる。
そうしている内に、魅録も勝手にダイニングのテーブルに着いていた。
「勝手に上がってたぞ」
「どうぞ、気遣いなんていりませんよ」
「昼飯まだだって?ちょうど良かった」
「ええ。他のメンバーは?誘いました?」
「いや・・・」
僕の質問に彼は目を逸らし、適当ながらもテーブルを整える悠理に視線を移した。
「片付けなんてしないように、紙皿買ってきたんだ」
「悠理にしては気の利く事で」
「まあな~」
「後で話があるんだ」
低く響く声は、僕に向けられた言葉。
魅録は今度、僕の視線を捉えるように見ている。
含みのある視線。胸騒ぎを覚える。
「分かりました」
僕はしっかり彼の視線を受け止めた。
思っていた以上に空腹だった僕達は、それぞれに食事に集中した。
見た目よりも量があり、悠理だけが自分の分を食べきった。
「けっこう、ありましたね」
「今はもうムリだな。苦しい」
「新しいコーヒーを作って来ますよ」
「ああ」
魅録と悠理はリビングに移り、適当にテレビをつけたり、DVDが並ぶ棚を眺めたりしている。
食事中、特別変わった雰囲気はなかった。
悠理も普段通りだし、魅録も思わせぶりな会話をする事はなかった。
話とは・・・その事について思い当たる事がないとは言えないが・・・
僕はコーヒーを作る事に集中した。
リビングに戻ると、悠理がソファで寝そべっている。
「これこれ、そんな所で寝ないで下さいよ」
「清四郎、眠~い。毛布を貸してよ。ちょっとだけ寝たい」
「悠理、清四郎の部屋で寝て来いよ。俺、まだいるからさ」
「うん。清四郎、いい?」
「ええ、まぁ。部屋はエアコンで暖かくしてましたが」
「じゃあ、ちょっとだけベッドで寝かせてよ」
「ああ。行きましょうか」
眠そうな目を擦る悠理を、僕は自室へと連れて行く。
部屋に入ると、心地良い温風が彼女をベッドへと誘ったようだった。
あっと言う間に着ていたトレーナーを脱ぎ、ジーンズに手をかける。
「ちょっと待った、悠理」
「へ?」
僕は彼女に背中を向け、クローゼットから自分のジャージーを取り出した。
トレーナーの下は長袖のTシャツだったけれど、ジーンズの下は・・・
「ちょっと大きいですけど。下着でベッドに入られては困ります」
「そっか。じゃあ、借りる」
背中に聞こえる衣擦れの音が、僕を緊張させる。
けれど、すぐに彼女の声がその糸を緩めた。
「おっきすぎる」
振り向くと、子供が大人のジャージーを穿いているようだった。
「まぁ、ちょっとの時間だし。我慢して」
「うん」
返事と共にするりとベッドに入った。
「清四郎」
「何です?」
「眠るまで傍にいてよ」
「良いですよ」
僕は机用の椅子をベッドの横まで引っ張って座った。
「今日の清四郎、いつもと違う」
「え?」
彼女は毛布から手を出し、前髪を触る振りをする。
思わず僕も自分の前髪に手をやった。
「今朝、洗ったままでした」
「ううん。とっても似合うよ。生徒会長らしくないし、親しみやすいかな」
そうして悪戯っぽく笑う。
だから僕も、同じように微笑んだ。
「僕もこのまま寝たい。満腹で眠い」
「一緒に寝る?」
「これまた大胆な。下で魅録が待ってるでしょ」
「魅録・・・」
彼の名前を呟き、毛布を口元まで引っ張ると目を瞑る。
間もなく寝息が聞こえた。
僕はそんな彼女をしばらく見つめ、額にかかる前髪に手を伸ばす。
撫でるように前髪を上げると、真っ白な額が覗いた。
悠理は静かに息を吐き、僕の方へ寝返りを打つ。
無防備なその寝顔は、僕の心を痛いほど締め付ける。
僕はもう一度彼女の額に手を伸ばし、顔に沿って指を滑らせた。
柔らかく、吸い付くような弾力のある肌。
思わず、唇を寄せたくなる。
そんな衝動に駆られるのは、初めてではないはず。多分。
僕は首を振って立ち上がり、階下で待つ友人の元へと向かった。