お久しぶりです。
ご訪問ありがとうございます。
作品への拍手、本当にありがとうございます!!
なかなかまとまった時間が取れてませんが、一本アップ。。
とりとめのない話です。
さら~っと、読んでいただけたらと思います。
恒例の居残り教室・・・って、あたしだけなんだけれど。
まあ、いつものように点数が足りなかったってコト。
こっちも慣れっこになっちゃって、適当に過ごして、先生には黙って出てきた。
きっと先生も、明日になっても何も言わないと思う。
あたしは居残り教室の時、普段友達と歩く表通りは通らない。
ぶらぶらと、人通りが少ない商店街を歩く。
夕方のそこは結構楽しくて、古着を見たり、お肉屋さんのコロッケを頬張ったり・・・なかなかいけるんだ、これが。
けれど、今日のそこは違っていた。
商店街に入る前の下り坂から見下ろしたら、いつもとは違っていたから。
「あ、宵宮だ」
色取り取りのテントが張り出され、屋台の準備がされている。
食欲をそそる匂いも、こちらまで届いてる。
そっか・・・あれからもう、二年経つのか。
そう、二年前もこうしてこの坂から宵宮を見下ろした。
食欲よりも勝るキラキラした照明が綺麗で、見とれてたんだ。
その時偶然、知り合ったばかりのケンカ友達、魅録と会った。
ちょうどこの場所。
魅録とは知り合ってすぐ、心から分かり合える親友になれた。
魅録もあたしをそう思っていた。
だからあたし達、出会えた偶然が嬉しくてこの宵宮を楽しんだ。
去年も。
約束はしなかったけれど、この場所に来たら会えるような気がした。
ずっと親友で、有閑倶楽部のメンバーで、毎日学校で会ってるけれど。
一年に一回、この場所で偶然会って一緒に過ごす時間が、とっても特別に思えるんだ、あたしは・・・
少し待っていると、人通りが出てきて思わず足が坂を下り始める。
周りを見回しながら歩いていると、向こう側で魅録があたしに向かって手を振っていた。
「よお!悠理」
ああ、やっぱり。やっぱり会えた。
「一人?」
「うん」
「悠理とは逆方向から歩いて来た」
あたしの前で立ち止まった魅録は、自分が歩いて来た方向を指差しながらそう説明する。
「今帰りなんだ。居残り?」
「うん」
「あは。去年もそう言ってなかった?」
「そう、だったかな?」
でも、去年とは違う。
だって魅録、前にも後ろにも、あたしとは歩こうとしないもの。
急いでいるの?それとも・・・
「さっき向こうで歩いてたらさ、去年も来てた“宝石すくい”のおじちゃんに会った」
「今年もいたの?二年も前からいるよ!」
よく日焼けした、皺だらけの顔を思い出す。でも笑顔が、チャーミングだから不思議だ。
“宝石すくい”って言っても、ガキんちょ相手の、プラスチックでできた宝石のこと。
金魚すくいみたいにそれをすくうんだ。
「おじちゃんとこでさ、今年はパワーストーンのブレスも始めて。ほら、これ」
手渡されたのはピンクの石でできたブレス。
「わぁ、かわいい」
「お前にやるよ。おじちゃんが彼女にって、くれた」
「覚えてたの?彼女って?」
「悠理のことだろ?去年一緒にいたの、お前じゃん」
「・・・・・」
魅録は手渡したブレスをまた手に取って、あたしの右手首に着けてくれた。
「これって、恋愛運アップじゃない?」
「え?」
あたしの言葉に、魅録は何かを考えてる風だった。
「今からどこか行くんだろ?約束?」
あたしは助け舟を出してあげる。
「・・・うん」
「野梨子?」
「ああ」
そうだよね。今は野梨子、だもんね。
「魅録、これ、ありがと。大切にする。さ、行きなよ。遅れるんじゃない?」
「うん。ごめん。じゃあ」
何か言いたそうな瞳であたしを見て、でも、片手をあげて歩き始めた。
バイバイ。魅録、ありがとね。。
あたしは心の中でそう呟く。
魅録には、聞こえなくてもいいのだから。
時々、そんな風に投げやりな気持ちになっちゃう。
それは最近になって、魅録が野梨子と付き合い始めたのが原因なのかも知れない。
魅録を責めているんじゃなくて、野梨子に嫉妬しているんじゃなくて。
魅録の気持ちに、応えてあげられなかった自分の所為なんだと思う。
あの時、素直な気持ちで受け止めてあげられてたら・・・なんて、今になってそんな事。
「ああ、やっぱり悠理だ」
気が付くと、清四郎があたしの横に立っていた。
「あれ、こんなとこで」
「悠理が居残り教室で奮闘してたのは知ってたんですけど」
「えー」
「一緒に帰ろうと思って部室で待ってたけどね。来ないから、ぶらぶらひとりぼっちで帰ってました」
「ひとりぼっちだってー。魅録に野梨子取られて淋しいの?」
「ま、そんな所ですね」
だったら、魅録から奪っちゃえばいいのに・・・清四郎の方が、だって・・・
「野梨子が幸せなら、別にそれで良いんじゃないかって思うんですよ。
淋しいって言っても、その内慣れるでしょうからね」
「ふうん。よく分かんないけれど」
あたしは、そう簡単には慣れそうない。
だったら野梨子から奪っちゃえばって言われるかもしんないけど。
魅録は・・・応えてくれるかもしんないけど・・・
魅録を好きだと言う事が、あたしを怖がりにさせるみたいで。
ううん、今更何言ってんだ。野梨子が、傷付いちゃうよ。
「悠理、ほら。悠理のと同じブレスじゃない?ここで買ったの?」
いつの間にか、“宝石すくい”の屋台の前。
照明がキラキラして、プラスチック宝石も綺麗に見える。
「うん。そう」
魅録から、じゃなくて、おじちゃんからもらったんだけど、面倒だから言わない。
おじちゃんはにやにやあたしを見て、「お姉ちゃんもやるね~」とか「さっきの彼氏は?」とか、
清四郎に聞こえないように言ってきた。
ブレスくれたのはありがたいけど、正直ウザイ・・・
無視して、清四郎としばらくパワーストーンを見ていた。
「じゃあ、これは僕から。勉強運アップらしいですよ」
いくつかの石の種類で作られたブレス。タイガーアイとか水晶とか、いろいろ合わせたものだった。
「いいの?」
「良いですよ。着けてあげましょう」
清四郎は・・・魅録のブレスに重ねるようにあたしの右手を取って手首に着けたくれた。
「ありがと。綺麗」
「似合いますね」
清四郎が支払いを終えて“宝石すくい”を離れる時、あたしはおじちゃんに声をかけた。
「来年も、来る?」
「来年は“フルーツポンチ”。毎年同じのってワケいかないの」
「そう。でも、来るんだね?」
「来るよ。お姉ちゃんは、同じ方がいいと思うよ」
笑ってバイバイした。
清四郎がいろいろ聞いてきたけれど、答えなかった。
おじちゃんが言ってた「同じ」って、魅録のことなのか清四郎のことなのか・・・
多分、それはあたしにしか分かんない。
来年までに答えって出るのかも、分かんない。
ぼうっとしていたら、人込みで一瞬清四郎を見失った。
けれど、すぐに清四郎に手首を掴まれて。
二本のブレスをしていた右手首だったから、正直痛かった。
文句は言わないよ。
だってこの痛み、曖昧な自分の所為でもあるって思えたから。
清四郎があたしの痛みに気付いたみたいに力を緩め、腕に自分の腕を優しく絡めた。