おはようござます。
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「・・・土砂降り」の清四郎編をどうしても書き上げたくて、
何とか今月中に仕上げる事ができました。
前回とのお話の辻褄が合わない所もあるのかな・・・すみません!
「ただただ書き上げたくて」と言う思いでしたので、誤字脱字等があるかもしれませんが、
どうぞご了承下さいませ。。
断続的に続いた雨も落ち着き、雨音が静かに、律動的になる。
時々吹く風が強化ガラスに雨の滴を叩き付け、小さくはじいて流れた。
彼女の電話から二時間。
あれから僕は何度かメールと電話を繰り返したが、一向に返事の気配を窺えなかった。
夜遅く、用事を頼まれて母親を訪ねた野梨子が僕の部屋に貸していた本を返しに来た時、
調度彼女から電話が入ったのだ。
部屋を訪れているのが野梨子だと伝えれば良かったのだろうか、と思い返す。
普段の彼女なら、誰が訪ねていようがお構いなしのくせに。らしくない。
本当は、彼女との時間が欲しかった。
いつか機会を見てと、ずっと思っていた。
だからさっきの電話は、僕にとって待ち望んでいた機会だったのだ。
あの土砂降りの日以来の・・・
あの日、もう何年も前から閉鎖されたままの商店の軒下で雨やどりをしている僕の目の前を、
偶然彼女は通り過ぎようとしていた。
僕の腕は勝手に彼女を引き寄せ、胸の中に収めた。
思っていた以上に華奢な肩は、普段の男勝りを忘れ去らせた。
首筋から漂うのは、女を感じさせる甘い香り。
できるならば・・・ずっとそのままでいたかった。
けれど互いは自然に離れ、その距離を作った。
視線の先に見えるのは、真っ黒な雨雲。加減を知らない雨。
アスファルトは水溜りを作り、無限の輪を描いていた。
やがて不安定な空から僅かな陽が射し込み、水溜りに反射した。
途切れた会話は、僕達を戸惑わせる。
「そろそろ、行かなきゃ」
彼女の言葉が、僕に焦燥感を与える。
“今でなくてはならないのだ”と言う焦りだ。
僕は彼女の肩を、抵抗しない彼女の細い肩を抱き寄せ、冷たい頬に自身のそれを重ねた。
耳を頬を、僕の唇が優しく愛撫し、柔らかな唇に触れる。
彼女からあの甘い香りが強く放ち、互いの体が熱くなるのを感じた。
そして次の瞬間、彼女は僕から離れて走り去った。
自分のとった行動が例え衝動的だったとしても、あれが想いなのだと受け入れられる。
けれど彼女を前にすると、どんな表情をすれば良いのか分からなくなってしまった。
彼女を視線で追いながら、目が合うと逸らしてしまう。
意識的に、彼女に友達として触れても、彼女の目は頑なに僕を見ようとはしなかった。
怒っているのか、けれど彼女の目は、以前と変わらないと思えた。
あの事は・・・なかった事にして欲しいのかも知れない。
いらぬ思惑がいつも頭を過ぎった。
“悠理と会って、伝えたい事がある。
本当はもっと早く、僕から連絡をするべきだったけど。
今は野梨子も帰ったから、話がしたい。
僕の部屋でも良いし、悠理の指定する場所に向かっても良い。
連絡を下さい。”
僕の着信やメールに、彼女は気付いていないのだろうか?
二時間以上たった今、どうしているのか。
雨は永遠に止む事を忘れたように静かに降り続け、僕を不安にさせる。
けれど、待つだけでは前には進まない。
僕は携帯電話をスラックスのポケットに入れ、階下の玄関へと向かう。
革靴に足を入れた瞬間、ポケットの携帯電話が彼女からの着信を告げた。
今、この瞬間、僕は誓う。
例え彼女がどんな遠くにいてもその肩を胸に収め、二度と放さない事を。