こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。
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自室のドアがノックされた時、それが数日前からいる同居人でないと感じ声をかける。
内線が鳴らなかったとなると家政婦は買い物か帰宅した事になる。
「清四郎だ」
やっぱり。
俺はドアを開け、友人を中に入れた。
「悠理は出かけてるぜ」
さっきコンビニエンスストアで買い物するって出かけたばかりだ。
「いえ、魅録に用事があったから。良いんです」
「そっか」
母屋から離れた庭にある自室だから、冷蔵庫も完備している。
そこからペットボトルのコーヒーを出すと、清四郎に投げた。
「サンキュ」
小さくそう呟いて、近くのソファに座る。
ソファには、多分清四郎も見慣れているはずの、もう一人の友人の携帯電話が置かれているのに気が付いた。
「今は必要ないって、電源切ったままそこにずっとさ」
「そうですか。そうかも、知れないですね」
手に取り、意味もなく裏表を確認すると元に戻す。
「悠理はしばらく俺が見てる」
「すみません」
俺は自分専用の椅子に座り、清四郎の様子を窺う。
ちょっと茫然としたように、ペットボトルを眺めている。
「もう泣いていないし、表情も暗くない。食欲は以前に比べて少ないけれど、元気だ」
「良かった」
「メシを運んでくれたり、男山を散歩に連れて行ったり、俺の趣味の手伝いだってしてくれる。
家に帰ると部屋に独りいる事になるからここにいたいって。俺はいいって言った」
「彼女が望むなら、その方が良いかも知れませんね」
普段は物置のように使っていた小さな部屋を、今は悠理の寝室に当てている。
俺はそちらのドアを見ながら言う。
「ずっと、返したくない気分だ」
「・・・・・」
今週の初めだっただろうか。
悠理が泣きながらこの部屋にやって来た。
今はまだ何も聴かないで欲しいと言い、その日からこの部屋で暮らしている。
大体の予想はつくが、今まで、こんな風にずっと泊り込む事はなかった。
「一体何があったんだ?悠理は聴くなと言うし、お前からの連絡もなかった」
「すみません」
清四郎はペットボトルをテーブルに置き、ソファから立ち上がる。
「僕がいると悠理がここに戻り辛いでしょ。近くの公園で話します」
俺の返事も聞かずにそう言うと、ドアへと向かう。
確かに・・・言う通りだろう。
鉢合わせしたら、悠理はこの部屋からも去って行くのだ。
俺達は近くにある児童公園へと向かう。
その間、会話はなかった。
土曜日の午後とあって、公園には親子連れが多かった。
春を感じさせる陽光が、水のない噴水を照らしていた。
悠理と一緒だったら、きっとジャングルジムまで競争させられるんだろうなと思う。
そんな思いとは裏腹に、清四郎が思い詰めた表情でジャングルジムに向かったものだから、
近くにいた子供達はびっくりしたように後退り、またそこを降りた。
ヤバイな、と察して俺はジャングルジムによじ登る。
「誰が一番に俺にタッチできるか!競争だぞ。頭ぶつけんなよ!」
頂上で立ち上がり、俺は子供達に向かって叫ぶ。
男の子も女の子もすぐに察して、嬉しそうによじ登っては俺の体をあちらこちらタッチしておりた。
清四郎はそんな状況に驚きながらも子供達を見守っていた。
悠理と俺の、いつもの光景だった。
やがて潮が引くように、子供達は帰って行った。
時間はちょうど、夕方の5時を回っていた。
春先と言えども、この時間は太陽が傾く。
俺は夕陽を浴びている清四郎の、削げた頬を見つめた。
タイミングを探しているのか、目線を下げ、見るともなく地面を見てため息を吐いている。
それを俺が与えるのは簡単だったが、そうはしなかった。
何故ならこの話の後、悠理との時間が終わってしまいそうだと感じたからだった。