こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。
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肩から腕にかけて寒さを感じ目が覚めた。
ゆっくりと自身を見渡すと、ブランケットが肩から外れている。
思った以上に自室が冷え込んでいるのは、
一月に迎えたまだ何度目かの朝と言う事と昨夜の出来事が大きく関係しているからかも知れない。
今度は部屋を見渡してみる。
違和感・・・とまではいかなくても、デスク横に取り付けた今年のカレンダーが不慣れな部屋の印象を与えた。
たった一つのカレンダーが、思いのほか。
僕はベッドから立ち上がり、ファンヒーターのスウィッチを入れる。
カタカタと言う音と共に、すぐに温かな空気を吐き出した。
重たいカーテンを開け、薄暗い部屋に朝日を入れる。
昨夜まで空を覆っていた黒い雪雲が消え去り、作られたような青空が広がっている。
曇りかけた強化ガラスの窓を細く開けてみる。
鼻の奥まで突き刺すような冷気が走り、一瞬にして頬が凍り付くように思える。
雪は道の端にほんの少しと、目の前の庭木の枝にうっすらと。
それですら、朝日に融けてしまいそうだ。
枝に副えられているようにある雪をじっと見つめていると、
朝日を反射するように輝き、あっと言う間に融けだした。
滴になって地面に落ちる瞬間、震えるような光を放ったのが美しかった。
震えるように、輝く・・・昨夜、僕に初めて見せた彼女の涙によく似ていた。
幼い頃から何度と無く泣く姿は見た事はあるけれど、あんな風に声を上げずに、自然に流れ出る涙は・・・
それは彼女からの突然の告白で、正直心外だった。
彼女の好きな人は誰もが知る相手で、昨夜までそうだと思っていた。
例えその相手がまだ彼女に特別な感情を持っていないと知っていても、何れは時間の問題。
今までの通りの付き合いで焦らなくても。
「あたし、清四郎が最近、ちょっと気になるんだ」
いつもの勉強会。
冬休みの宿題が進んでいないのも例年通り。
野梨子と魅録が手伝ってくれたけれど、夕方には引き上げて行った。
それからしばらくして、彼女はそう言った。
「僕、ナンかしましたっけ?」
「そうじゃなくてさ・・・」
「うん?」
「・・・・・」
「ん、そうじゃなくて?何?」
「多分・・・清四郎が好きなんだと思う・・・」
どうして、と聴こうとして口を噤む。
好きな気持ちに理由なんてないからだ。
でも。
「悠理が好きなのは、魅録でしょ?」
「魅録の事は好きだけど、友達として。でも清四郎のは、違う」
「そうかな?」
「え?」
「魅録が好きなのに、なかなか気付いてくれなくて、辛くて忘れたくて。
だから僕が好きなような錯覚を起こしているんじゃない?」
確かにこうして倶楽部が出来てから、魅録と同じ位の時間を僕と費やしている。
少しずつ僕へと気持ちが移行してもおかしくはない。
「違う・・・と思う」
今度の返事は自信無げだった。
彼女は彼女の中で気持ちを整理しているようで、眉間に皺を寄せている。
もし魅録が好きな気持ちを忘れる為に僕を好きになろうとしているのなら、どうかしてる。
そんなの僕の中であり得ないし、許せない。
簡単な事が理解出来ない彼女にも(例え僕の想像でも)腹が立って仕方が無かった。
「オトコを好きとか嫌いとか、こんなあたし、あたしじゃないみたいで好きじゃない。
どうせあたしなんか、清四郎に好かれるなんて思ってないし、清四郎とはつり合わないって知ってる」
多分今の彼女は、気持ちの整理が出来ないのであろう。
フワフワした色の薄い髪を何度も両手で梳き上げ、それからその両手をじっと見つめている。
そこに、答えを見出せていない。
「今の君は普段の君じゃないみたいで好きじゃない」
そう言った僕を、驚いたような目で見上げる。
「まずは自分を好きになるように努力すると良い」
今にも泣き出しそうな顔で、でも僕には負けられないとでも言う風にしかめっ面をしている。
「異性を好きな自分を理解して受け入れて、そんな自分に自信を持って欲しい」
「清四郎?」
「相応しいとかそうじゃないとか、そんなの関係ないでしょ。
僕と同じ性格だからつり合うなんて、誰が決めたの?」
不安そうな瞳が揺れている。
「メンバーだってそうさ。個々に違うから惹かれ合って、認め合ってる」
「ん・・・最近、自分を否定してばっかり。でも、清四郎が気になって」
「悠理は悠理さ。いっぱい良いところがあるよ!
それに、自分を好きじゃなくて、どうして他人を好きになれる?そうだろう?」
「うん。そうだね」
少し安心したように僕を見て微笑する。
「あたし、いいトコいっぱいあるの?」
「あるよ」
「ありがと。清四郎を好きで良かった」
僕も・・・と言おうとして、また口を噤む。
「さっき清四郎、魅録がダメだから僕を好きだと思ってるって言ってだけど、あれは間違い」
「ん・・・」
「性格が似てるから好き合うって、違うんだろ?」
これには僕が負けた、と認める。
「僕も悠理が好きですよ。でも」
“僕を好き”だと言う事に自信を持てたら、嬉しいですね。
僕の言う全てを理解したような笑みを見せる。
「さ、もう遅いから、迎えを呼んで」
「うん」
その笑みを見つめていると、大きくて澄んだ茶色の瞳から涙が溢れそうになる。
頬に零れる瞬間、その滴は震えるように光り輝いた。
昨夜の出来事を思い出している内に、庭木の枝の雪は全て消えていた。
細く開けた窓からの冷気の所為で部屋はなかなか暖まらず、
ファンヒーターが不満を訴えるように大きな音を立てていた。
まるで彼女みたい。
僕はそう感じて思わず笑う。
昨夜ここに彼女がいなければ、僕だって気付かなかった。
あるいは・・・気付かない振りをしていたかも知れない僕の気持ち・・・
「悠理にばかり言ってられないですよね」
僕は窓をしっかり閉める。
もう一度部屋を見渡すと、不慣れな印象は消えていた。
暖まり始めた部屋は、まるで自分の気持ちを表しているよう。
さて、今日はどうしよう?
そう自分に問いかけながら、でも。
僕の手は既に携帯電話を握り締めていて、昨日の着信履歴を目で追っていた。