こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。
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俺の腕の中で彼女は泣いている。
終わりかけている恋の灯火が消えないよう、そっと囲うみたいに腕を回している。
傍にいて見守るのが俺の役目だって、やっと考えられるようになったばかりなのに。
伝えてはいけない想いを、やっと押し殺す事ができるようになったばかりなのに。
イジワルな妖精が、まるで俺を試しているみたいだ。
まだ泣いている気配の彼女を胸に感じながら、かけてあげる言葉を探せずにいる。
「どうしたら、アイツの気持ちが分かるの?」
恋愛の経験なんてない俺に、彼女は顔を上げずに訊く。
「どうしたら、あたしの気持ちが伝わると思う?」
自分の気持ちを彼女に伝える事ができなかったのに、どうして答えられる?
「もう・・・終わりかも知れない・・・」
背中で、彼女の腕が彷徨っている。
声も上げないで泣くなんて、らしくない。
胸に押し付けていた小さな顔が、返事のない俺を見上げようとする。
こんなにも間近で、そんな事をされたら。
「悠理。俺の声が聴こえるか?」
間違った方向に行かないよう、俺は彼女を引き離す。
「俺の声」
「・・・え?」
「聴こえるか?」
「う・・・うん」
涙で濡れた頬に、そっと両手で触れてみる。
びっくりしたように見つめる瞳は、湖のように澄んでいてとても綺麗。
「感じるか?」
「・・・魅録・・・」
「悠理」
「うん。あったかいよ」
「そうか」
涙も頬も俺のすぐ傍にいたくせに、びっくりするくらい冷たかった。
混乱する気持ちを伝えてはいけないと、そんな時だけ伝わりそうだと、
触れていた手を離そうとした時、彼女は俺の手首を掴んだ。
「魅録、あったかいよ。とってもあったかいよ」
「うん」
頬と同じように冷たくて小さな手を感じる。
衝動で引き寄せようとする腕に力を入れ、心を押し殺した時のように拳を作って動きを止める。
彼女は何かを覚ったように手首から手を放した。
「俺と悠理は、互いの声が聴こえる場所にいる。触れて、温かいと感じる距離にある」
「・・・・・」
「清四郎とも、そうだろ?声が聴けて、会おうと思えば会える距離にいるじゃないか」
「魅録」
互いの名を呼び合えばすぐに聴こえる。
手を伸ばせば、触れられる距離にある。
「素直な気持ちを、どうして口にできないんだ?」
聴きたい時に聴けて、会いたい時には会えるじゃないか・・・まだ、二人は。
聴きたくても会いたくても、俺はその思いを伝えられないんぞ。
心を封じ込めるように、俺は彼女に背を向ける。
窓辺にもたれ、すっかり陽を落とした庭に目線を向ける。
室内の電気を点けなくては、と思った時、見慣れた庭にクリスマス・イルミネーションが灯った。
こんな事をするのは誰だろう?
誰が気を回したんだろう?
窓に届くその光は、さっきまでの淋しげな冬の陽射しよりも脆かった。
けれど今の俺には、充分な輝きだった。
このまま、僅かな灯火のままで導こう。
そうする事が二人にとっても自分にとっても、正しい行き先を照らしてくれているように思えたから。
「悠理、行こう。きっと待ってるからさ」
俺は手を伸ばし、彼女の腕を掴む。
互いが想う相手に送り届ける為に。
それが今の俺にできる、精一杯の贈り物に思えたからだ。