こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。
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冬休み前の放課後。
正確に言えば・・・クリスマス少し前。
高等部三年と言えば普通忙しい時期なんだろうけれど、あたし達は違う。
だってこのまま、エスカレーター式でおんなじ大学に行っちゃうもん。。
だから今日も、みんなでイルミネーションで彩られている街を歩く。
そう、日が落ちるのが早いから、もう夜みたいだ。
あたしと魅録は先立って、クリスマス一色に飾られているウィンドウをあちらこちらと見て歩く。
可憐と美童も、小走りに後ろをついて来る。
“早いよ~!”何て言いながら、気に入った店の前ではしゃいだりして。
後の二人は、全く二人のペース。
あたし達の行く所なんて、言わなくても分かってますって感じで歩いている。
何の話をしてるんだろう?
野梨子はクスクス笑いながら清四郎の顔を見上げている。
そんな様子は、いつもと変わらない風景。
あたし達は今までもこれからも、ずっと一緒。
そんな思いが浮かんで、ほっこりとした気持ちになる。
まだまだ楽しい事がこの先にあって、みんなとシェアできる幸せ。
けれど、どうなのかな?
一瞬、不安になる。
これからまたしばらくは同じような生活が続くんだろうけれど。
その先はどうなんだろう?
これからもずっと一緒の“ずっと”って、いつまでなんだろう?
「悠理、何見てんのさ?」
「え?」
立ち止まって見るともなく見ていた先には、街路樹に飾られたイルミネーション。
真っ青なライトが、心に冷たく浸透していくみたい。
「綺麗だな」
「うん」
「悠理んとこ、ツリーは飾った?」
「あー・・・11月から、父ちゃん出してた」
「あっは!今年のクリスマスも、お前んちでだろ?」
「もちろん!来れる?」
「当たり前だろ!!」
魅録は、嬉しそうに大きな手であたしの頭をガシガシ撫で付けた。
「おや、悠理。何を褒められているんです?」
あたしと魅録の様子を、楽しそうに近付いてくる。
「何も。ねぇ、清四郎達もクリスマス・パーティ、来れる?」
「もちろんですわ」
「恒例のクリスマスは、みんなのお楽しみですから」
「良かった~♪」
気が付くと、魅録と野梨子があたしの前を歩いている。
すっごく不釣合いな二人だけど、魅録は野梨子みたいな女の子好きみたいだよね。
“魅録”が“野梨子”を好きかどうかは知らないけれど、
不良少年は、真面目な女子に一種の憧れを持ってるよなー。
「悠理?」
声のする方を見ると、清四郎が心配そうにあたしを見ていた。
「どうしました?」
「え?」
「ぼうっと前の二人を見てるから」
「うん・・・魅録みたいな男って、野梨子みたいなマジメ~な子、好きなのかなって」
「ふうん。どうでしょうね?でも、一番の仲良しさんは悠理でしょ?」
「不真面目な女子って?」
「あはは!うん。イテッ!」
あたしは清四郎の腕を軽く叩く。
「でも、そんな傾向にはあるんじゃないですか?
ほら、人って、自分にないものを求めるじゃないですか?」
そう?そうかな。。
あたしは、でも・・・
「それが恋愛対象になるかは分からないですけどね。
だって、現に魅録は悠理とばかり遊んでいるでしょ?
好きな気持ちがなければ、四六時中一緒になんていませんよ」
清四郎の言葉に、体中が熱くなる。
魅録が・・・あたしを?
「憧れは、持ちますよね。だって、ほら・・・」
そう言いかけて、清四郎は口を噤む。
口をへの字に曲げて空を見上げる。
分かってる、清四郎の言いたい事。
野梨子が初めて好きになったアイツ。
魅録が・・・叶わない恋を知った、あの島・・・
二人が好きになったのは、自分とは正反対の人だった。
「あら、珍しい組み合わせ」
いつの間にか、可憐と美童が近くにいた。
「美童がね、今夜ホテルのレセプション・パーティに招待されてるんですって」
「みんなで行こうよ!」
「わあ~!行くーっ!!」
「良いですね」
あたし達は今までもこれからも、ずっと一緒・・・
「俺達には時間はいくらでもあるし」
「帰って支度しないといけませんわね。楽しみですわ」
みんなそれぞれに違ったキャラクターだけど。
惹かれ合って、助け合って・・・だからこうして今まで。
「見て!雪よ!」
可憐が空を指差す。
その先に、ふわふわとした白い小さな雪が舞っている。
「わぁ」
「どうりで。ずいぶん冷え込んできたと思ったら」
通りを歩く人も、みんな立ち止まって空を見上げている。
「積もるかな?」
「まさか。ちらっと降って止むでしょ」
「つまんない」
「なあ、悠理」
魅録がニヤニヤしながらあたしの横に立った。
「オジサンに言って、人工雪でスキー場作ってもらえよ」
「あ、それいい~♪」
冗談なのか本気なのか、多分父ちゃんに言ったら本気で作るんだろうけれど。
作ったら、喜んでくれるかな。
魅録は横で微笑みながら空をまた見上げる。
「近くにあるってのが、いいな」
遠くの、本場もんのスキー場じゃなくてね、はいはい。
通りの人達は、白い息を吐きながら歩き始める。
「そうだ!ねぇねぇ、悠理。おじ様にお願いしてくれない?」
「可憐も、父ちゃん?」
「雪も良いけれど、やっぱりお正月は、あったかい所で過ごしたいもの」
「なーに?」
「どこかあったかい所に行かせて欲しいの」
清四郎がやんわり制するように言う。
「まぁまぁ、一応受験生だしね、可憐」
「ええ~、もうっ!」
例えば・・・例えば、あの島にまた行くとしたら。
そうしたら、魅録は喜ぶの?
だって、彼女に会えるもん。。
可憐との会話が気になって、あたしは魅録を見る。
魅録は美童と話をしていて、聞いていない感じ。
ちょっとホッとした、けれど。
魅録は話の途中でふっと視線を空に移した。
空はもうすっかり日を落としていて、重たそうな雪雲に覆われている。
魅録は遠くの雲を見つめ、それから更なる上空を見るように目を細めた。
まるで何かを懐かしむような、優しい表情をしていた。
あたしはその“何か”について、すぐに想いを巡らす事ができた。
国境も時空も越えて、魅録が経験したあの出来事を・・・
やがて魅録は、美童との会話に戻っていった。
あたしはあの表情を忘れる事はないと思う。
魅録から決して語られる事がないとしても。
「悠理」
突然背中をポンッと叩かれて、はっとする。
「みんな、前に進んじゃいましたよ」
視線を変えれば、苦笑いする清四郎の顔。
「パーティの準備に、急いで帰らないと」
「・・・うん。そうだった」
もう一度、背中に清四郎の手が触れる。
でも今度は、優しく押されただけだった。
みんなより遅れて、でもゆっくり歩き始める。
「ねぇ、清四郎」
「うん?」
「あたし達、これからもずっと一緒だよね?」
「どうしたんです?らしくないですね」
自分の足元を見つめながら歩く。
照れくさくて、清四郎の顔が見れなかった。
「だって、ずっとこうしていたいもん」
「ですね~。僕もそうですよ。みんなだって同じ気持ちですよ」
「えへへ。だよねー」
「僕達は今までもこれからも、ずっと一緒」
清四郎の言葉に足を止め、顔を見上げる。
「清四郎」
「楽しい事がこの先にあって、みんなと分かち合う。今まで通り」
驚いた。
さっき、あたしが思ってたコト。。
清四郎はいつになく優しい顔であたしを見ている。
“いつになく”は、余計か。
「ずっとって、どのくらいだろ?」
「へ?ずっとって・・・ずーっと、ですよ」
「え~っ!ワカンナイヨ!」
「僕だってワカンナイですよ!腐れ縁でしょ?ずっとって言ったら、ずっとですよ!!」
普段の、イジワルな顔になる。
「悠理~、清四郎!」
少し前を歩く魅録が、振り返って両手を振る。
「急がないと遅れっちまうぞー」
あたしも両手を上げて答える。
「りょーかーいっ!!」
清四郎と顔を見合わせて笑い合う。
こんな感じ。だから好き。
あたし達は今までもこれからも、ずっと一緒。
ずっと・・・この距離でもいいから・・・