こちらは有閑倶楽部二次創作小説ブログとオリジナル小説ブログです。 日々の出来事もつぶやいています。 原作者・出版社とは一切無関係です。 誹謗中傷・作品の無断転載は禁止です。 管理人の文章やブログスタイルが合わない方はご遠慮下さい。不快と感じたコメントは削除致します。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ただいまコメントを受けつけておりません。
肌を刺すような冷たい空気が車内に流れている。
夕方までの心地よかったエアコンディショナーも、今では不必要なものに思える。
運転席と助手席に座る美童の友人達は薄手のシャツを着ているからか、
母国語でゆったりと談笑をしている。
タンクトップにショートパンツのままの悠理にはこの車内の温度は耐えられず、
運転席に身を乗り出す。
「眠くならないようにしてるんだよ」
美童が悠理の華奢な肩に手を置いた。
「ちょっと寒いけど、眠気に襲われちゃ危ないだろ?」
確かに彼女の肩はすっかり冷たくなっている。
彼は両手で彼女の肩を摩る。
「冷たいね・・・後で、温めてあげる」
誰か、知らない女の子に話しかけているような表情。
だから悠理も、知らない男を見るように見つめ返す。
来なければ良かった。
彼女は思う。
本当だったらこの時間は、清四郎と会っていたはずなのに。
美童から目を逸らし、背中を向ける。
彼から、苦笑交じりの小さな溜息が聞こえた。
窓にぼんやり映る自分の顔の向こうで、忙しなく夜景が動いている。
乏しい光の中にもそこで生活する人が存在する事に、彼女は不思議さを覚えた。
シュウッと耳が詰まるような音と共に、車はトンネルに入る。
高速のオレンジの光が、まるで一本の長い蛍光管のように見える。
どこか懐かしくて、切ない。
雨に濡れたように光る道路が、彼女を知らない場所に連れて行くようで哀しかった。
不意に彼女の肩が温かいものに触れる。
でも驚く事はない。
それは何度か経験のある温かな感触で、清四郎が与えるのとは違っていても、だ。
ちょっと無視をしていると、軽く爪を立てられたような痛みを覚える。
振り向くと、悪戯っ子のような目で彼女の肩に口付ける美童の顔があった。
「清四郎を裏切る為に来たんだろ?」
耳元でそう囁かれて彼女は混乱する。
品の良い香水の匂いと貪るような口付けが息苦しさを与え、
普段の優男とは思えない、逆らえないほどの言葉の抱擁が彼女の調子を狂わせた。
今までに・・・何度か。
美童に相談する度に、まるで彼女をからかうように触れられていた。
けれどそれは触れられるだけで、けっして清四郎を完全に裏切る行為には至らなかった。
そう。完全には、だ。
唇から首筋へと移動する。
柔らかな温かさと通り過ぎた後の冷たさが、彼女にこの現実を知らせる。
着ているラフな服装に後悔しながらも、抵抗できない優しさが大きな裏腹だった。
彼が動く度に小さく軋むベッドが彼女を疼かせる。
身体が弛緩しかけた時、滑らかな指先が下着の中に滑り込んだ。
「や、やだ。やめて・・・お願い、やめて」
あわよくば洩れるはずの吐息が、その言葉に摩り替わる。
一瞬動きが止まった後、美童は悠理の上から身体を外しすぐ横に転がった。
弾みで彼女は大きく揺れ、美童の胸に治まる形になる。
だから彼は、彼女の背中を静かに抱いた。
そうしてしばらくしていると、彼女は落ち着いたように彼の胸に頬を寄せる。
「男って分かんない。優しかったり冷たかったり・・・怖かったり」
「怖い?清四郎が?」
「ううん。美童」
「僕?あはは」
彼は彼女から離れ、仰向けになって長い手足を伸ばした。
「男と女なんてそう簡単に分かり合えないよ。
いや、男と女が分かり合えるなんて、奇跡に近いね。だから面白いのさ」
「分かり合えた方が、うまくいくと思うけど」
「清四郎の全てや魅録や僕の全てを知ってしまったら、友達としての魅力がなくなっちゃうだろ?
知らないところや意外性があるから感心できるし惹かれ合う」
「・・・・・」
「僕は悠理の女性としての意外性や魅力的なところを知ってすごく惹かれてる」
「美童」
「今だって、そう。きっと恋に悩む悠理に、これからも惹かれていくと思う」
「どうかな」
「そうさ。清四郎の全てを知ってしまったらどう?逆に悠理の全てを清四郎が。
きっとお互い、すぐに厭きちゃうだろ?」
「まあ、ね」
「分からないから知ろうと努力する。その為に自分を磨こうとする。
不可解さが楽しかったり哀しかったり・・・感情が豊かになって、綺麗になる」
ベッドサイドのチェストの上で、美童の携帯電話がメール受信を告げる。
「おっと。来た来た」
身体を起こして長い金髪をかき上げると、携帯電話を手にして意地悪く微笑んだ。
「悠理、お迎え」
「え?」
彼は悠理の腕を取ってベッドから起こすと部屋の電気を点けた。
彼女は眩しそうに目を細める。
「どうせ最後までやらせてくれないだろ?無理強いで訴えられてもイヤだから」
「なに?」
「清四郎だよ。ロビーに着いたって」
「どういう事?」
「悠理に僕が襲われちゃいそうだから、早く迎えに来てってメールしたんだ」
「なんだーっ!?」
こうなるって最初から分かってた。今までの展開だとね。
美童はこう言ってウィンクし、彼女のバッグを手渡す。
未だに混乱したままの彼女がドアノブに触れた瞬間、ふいにその背中を抱いた。
「次は・・・もう我慢しないから。僕を不満だらけにさせないで」
耳元でそう囁くと、彼女の細い顎を自分に振り向かせて口付ける。
今度のそれは優しく、少し哀しげだった。
「じゃあね」
「美童・・・」
「行きなよ。清四郎が待ってる」
ドアを開けて廊下に出る。
悠理はちょっとだけ振り返ろうとしてその動きを止めた。
同時にドアが閉まる。
何やってんだ、あたし。
大切な友達とあいつを巻き込んで。
こんな夜中に清四郎が迎えに来た事が、何よりも想いを表す証拠なのだと彼女は知った。